情愛
「パパなんて嫌いっ!」
「アイっ!」
アイが如何わしいアルバイトをしているとレンから相談を受けてアイを問い詰めた結果、アイはそれをしている事を認めたけれど、好きなものを買う為に必要だからと辞めようとはしなかった。絶対してはダメだと言った結果、僕の事を大嫌いといって自分の部屋に駆けだし、大きな音を立て扉を閉め部屋に籠ってしまった。さらに音楽を大音響でかけてこちらの話を聞くつもりが無い事をアピールしてきた。
「ごめん・・・説得出来なかった」
「仕方ないわよ・・・言っても聞かないのなら・・・」
最近のレンはアイに対してドライな所が見られた。僕が仕事に行っている間に何度もアイと口論して疲れてしまっているんだと思う。僕がもっと早くレンとアイの関係がおかしくなっている事に気が付いていればと思うけれど、今更そんな事を言ってもどうしようもない。可愛い娘が危ない事をしているのに黙っている父親なんて居て良い訳ないんだ。
「扉壊すけど良い?」
「えっ?」
「僕はアイを守るんだ」
「・・・うん・・・そうだね・・・」
僕は物置にある工具置場からバールを持って来ると、アイの部屋の扉の隙間に平たい部分を差し入れ、思いっきり力をかけた。扉の枠がミシッと音を立ててへこむ。けれど扉が開く様子は無かった。僕はまた隙間にバールの先端を突っ込んで力を入れた。扉の先からアイが「何してるの!」とか「入ってこないで!」とか言っているけど全て無視して何度も何度も隙間にバールの先端を突っ込んで力を入れた。そしたらバキッという大きな音がして扉をロックしていた部分が弾け飛びドアが開いた。
「いや!」
「アイっ!」
「やめてパパっ!」
「やめないぞ! パパは絶対に諦めないっ!」
「何よ! 今までママに私の事押し付けてたじゃない!」
「そんな事は無い! 僕はお前の事を愛している!」
「私はパパの事が大っ嫌い!」
「それでも僕はアイの父親だ! 僕はアイを愛する事を辞めない!」
「嫌っ・・・放して・・・」
「アイが辞めるって言うまで離さない」
「嫌よっ!」
その時僕の肩をレンが叩いて来た。
「あなた離れて・・・」
「アイを殴るのか?」
「何それ!」
「もしそうだと言ったらどうするの?」
「それはダメだ・・・」
「・・・」
「どうして?」
「レンがアイの母親だからだ!」
「・・・訳わかんない・・・」
「・・・良いから離れて・・・」
「殴らないのか?」
「・・・放してよ・・・」
「ええ・・・」
僕がアイを離すとアイは僕の胸をドンと叩いて遠ざかろうとした。僕はその衝撃によろけてしまいバールによって開けられた扉に向かってバタンと倒れてしまった。娘からとても強い拒絶を受けている事は良く分かった。
「♪♪♪」
「なにやってんの?」
「♪♪♪」
「何の意味があんの?」
「♪♪♪」
肘がとても痛かったけどここで倒れたままで居る訳にはいかないと立ち上がると、レンはアイを抱きしめてアイが赤子の頃に歌っていた子守唄を歌っていた。レンが義母から良く歌って貰ったという歌だ。僕もいつの間にか覚えてしまいレンと一緒に寝ているアイに何度も歌った。
「♪♪♪」
「♪♪♪」
「パパまでなんでよ・・・」
「♪♪♪」
「♪♪♪」
「何で泣いてるのよ・・・」
「♪♪♪」
「♪♪♪」
「血が出てるよ・・・」
「♪♪♪」
「♪♪♪」
「キモイよ・・・」
「♪♪♪」
「♪♪♪」
「・・・」
「♪♪♪」
「♪♪♪」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
子守唄は終わってしまっていた。
けれどいつの間にかアイは大人しくなっていた。
僕もレンはいつの間にか泣いて居た。
僕は立ち上がりレンに抱きしめられているアイをレンごと後ろから抱きしめた。アイが夜泣きしていた頃に2人であやした時のように。
「私はあなたを諦めかけた、でもこの人はあなたを諦めなかった」
「「・・・」」
「私はあなたぐらいの年の時にイジメにあってたの」
「「・・・」」
「その時この人だけが味方になって私を守ってくれたの」
「「・・・」」
「レンは僕が守るよ・・・そう言って本当に守ってくれたから今の私がここに居て、あなたは産まれてきたのよ?」
「「・・・」」
「そしてこの人は私に言ったのよ? 僕はアイを守るんだって・・・」
「「・・・」」」
「久しぶりに思い出しちゃった・・・」
「「・・・」」
「私もあなたを守るわ」
翌朝アイは家を出ていったきり帰って来なかった。
僕とレンは心あたりを探したけれどアイは見つからず、警察に家出として届け、興信所を雇い、街角で尋ね人のチラシを配る日々を続けた。
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