恋愛

「お前らキモイんだよっ!」

「うっ!」


 レンにちょっかいをかけ泣かせていた奴らに殴りかかっていった結果、僕は殴り返されて教室の机と椅子をなぎ倒しながら倒れた。


「ジョウ君っ!」


 レンの悲し気な声が聞こえる、でも僕はレンを守るって決めたんだ。諦めるもんか。立ち上がってもう一度かかっていこうとしていた所で廊下から担任の大きな声が聞こえた。


「お前ら何をやっているっ!」


 一瞬教室は静まり返ったけれど、僕を殴り飛ばした奴が真っ先に声を出した。


「俺は悪くねぇっ! 先に殴りかかって来たのはコイツだぜっ! なっ?」

「そうで~す、先に殴りかかったのはサトウで~す」

「スズキが泣いて居るようだが?」

「俺が話してたら急に泣き出しただけだよ」

「そうで~す、スズキが急に泣き出したんで~す」


 俺達のやり取りを見ていた筈のクラスメイト達もレンを虐めていた奴の言い分に同意し始め、僕とレンが悪いという流れが作られて行ってしまった。


「そうなのか? サトウ」

「こいつらがレンを虐めて泣かせたっ! だから殴って止めようとしたんだっ!」

「だそうだが?」

「ちげぇよっ! みんなも見てただろ!?」

「そうで~す!」


 クラス全員がこのクズ共に同意するので担任もタジタジになってきている。


「スズキはどうなんだ?」

「嫌がらせされて泣いちゃいました・・・ジョウ君は私を庇ってくれただけです」

「嘘だぁ~!」

「嘘つき!」

「デブはこれだから!」

「デブにブツブツ!」


 俺達を囃し立てるクラスメイトに担任は状況をある程度把握したようだが、今ここで僕とレンの味方をしてクラスメイト全体から面倒がられる事を回避したいようだった。


「・・・スズキにちょっかいかけるのはやめろ・・・あと他人を殴るのはダメだ・・・スズキとサトウはこっちに来い」


 この担任は人が良いのだが押しが弱くて生徒に舐められている。だからクズ共が調子に乗るのだ。でも今はここに居ない方が良いことは分かる。だから僕とレンは担任の言う通り教室を出ていく事にした。


「・・・もっと他の奴らとうまくやれんか?」

「レンが虐められないならそれでいい・・・」

「私が太っているから悪いんです・・・」

「・・・」


 僕とレンは保健室に連れられて行った。鼻血も出ているし頬も痛い。


「ごめんね・・・いつも」

「ううん・・・レンは僕が守るよ」

「うん・・・」


 レンの母親は夜の街で働いて居る事もあって思春期に入った子供達に揶揄われるになっていた。

 またレンは小学校5年生あたりから急に太り始めてしまった。コウジョウセンという場所が病気なんだそうで寒がりになって疲れやすくなって太りやすくなるらしい。そのためレンは活発に活動する事が難しくっていた時期があったけれど太った事でむしろ健康に見えてしまったので、念の為にと病院に連れて行った時にはかなり太ってしまっていた。


 僕も中学校に入ったあたりで顔に吹き出物がいっぱい出来てしまい、気持ち悪いと言われて居た。顔はしっかり洗っているし食事にも気を使っているし、ニキビに聞くと言う薬も塗っている。けれど顔にはいくつもの吹き出物が出来て、そのブツブツが弾けて白いドロッとしたものが噴き出して来てしまうのだ。


 僕にとってはどんな姿になろうとレンは今も天使のままだ。太ったからと言ってなんだ?ぷにぷにして可愛いだけじゃないか。


 保健室の先生が不在たったため、担任が僕の傷の治療を行い、しばらく保健室に寝ていろと告げた。レンは僕の傍に居ると言って教室に戻らなかった。弱腰の担任は都合が良いと思ったのか僕とレンを置いて保健室を出て行った。


「ジョウ君は私を気持ち悪いと思わないの?」

「どうして?」

「お母さんが水商売をしているし」

「離婚して大変だからだろ? すごいよ・・・女手一つで子供を育てるのは大変なんだだって」

「誰がそう言ってたの?」

「母さんだよ」

「そうなんだ・・・」

「うん・・・」


 うちの母さんも最近父さんが亡くなってしまいシングルマザーになった、ただ父さんの生命保険や遺族年金があるのでレンの家よりお金に余裕がある。だからこそうちの母さんは父さんが残してくれたものが無い状態での生活を想像出来てしまうみたいで、レンの母さんが頑張っていると言って居るのだ。


「太っている事は気持ち悪くないの?」

「ううん・・・抱きしめたら柔らかくて気持ちよさそうだって思うよ」

「そう思うの?」

「うん」

「抱きしめていいよ?」

「でも僕の顔はブツブツで気持ち悪いだろ?」

「ううん・・・」

「顔に白いのついちゃったらごめんね」

「ううん・・・気にしない」


 寝かされて居るベッドを起き上がりパイプ椅子に座っているレンを立たせて抱きしめるとぷにょんという感触が腕の中で広がった。とても柔らかかった。


「暖かくて気持ちいい」

「僕はなんか冷たくて気持ちよく感じるよ」

「体温低いから・・・」

「お薬飲んで居る?」

「うん・・・」


 病気の薬を飲み始めた事でレンは少しだけ痩せ始めていた。体温がまだ低いって事は薬がまだ足りて居ないって事は無いかな?


「僕にとってレンは天使なんだよ」

「昔からそう言ってたよね」

「うん・・・僕の初恋なんだ・・・」

「私は今ジョウ君に恋しているよ」

「それは嬉しいな・・・」


 昼休み時間終了の鐘が鳴って周囲は静寂になっていった。


「私は天使じゃないよ・・・」

「うん・・・でも僕にとっては天使だ・・・」

「うん・・・」

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