素晴らしき人生

まする555号

「お母さん! 天使がいるよ!?」

「なぁに?」

「あそこっ!」


 僕が指さした先を見るお母さんが首を傾げている。


「あの子だよっ! あの白い服を着ている子っ!」

「あの子と仲良くなりたいの?」

「・・・うん・・・」

「分かった・・・お母さんに任せておきなさい!」


 僕の手を引き母は公園で滑り台で遊んで居る白い服を着た女の子とそれを見守る水色の服を着た綺麗な女性に近づいていく。


「こんにちは」

「はい、こんにちは」

「この公園は初めてですか?」

「はい、先日引っ越して参りました」

「お子さんはおいくつですか?」

「この春で小学校2年生になります」

「あら? 私の子と同じねっ! ほら挨拶なさい」


 そういって背中を押して綺麗な女性の前に僕を押し出すお母さん。


「サトウジョウジですっ! 小学校2年生ですっ!」

「あらあらご丁寧に、レン! こっち来なさい!」

「なぁに?」


 綺麗な女性に声をかけられて白い服の天使が僕に近づいて来た。


「あなたがこれから通う学校の子よ? ご挨拶できる?」

「うんっ! スズキレンですっ! よろしくねっ!」

「サトウジョウジですっ!」

「仲良くするのよ?」

「うんっ!」

「はいっ!」


 僕はその日その天使の様な子と出会い恋に落ちた。

 けれどその時はただただ学校の他の子と違うキラキラと綺麗な女の子としか思っていなかった。

 僕とレンがブランコや滑り台や砂場で遊んで居る間にお母さんと綺麗な女性はずっと仲良さそうに話し込んで居た。


「ジョウ君の学校ってみんな仲が良いの?」

「えっ? うーん・・・喧嘩ばっかりしてる奴もいるよ」

「そうなの? 嫌だなぁ・・・」

「レンちゃんを僕が守ってやるよ!」

「本当!?」

「うん! これでも1年の時はかけっこがクラスで一番だったんだぞ?」

「ジョウ君すごーいっ!」

「逆上がりも得意なんだぞ!」

「えーっ・・・私出来ない・・・」

「じゃあ練習しようよ」

「うん・・・」


 僕とレンちゃんは公園の鉄棒の所に行って逆上がりの練習をする事になった。

 レンちゃんが鉄棒を持ってパッと地面を蹴ると足が上がって鉄棒の反対を超える事が無くそのまま地面に落ちる。


「ほら・・・出来ないでしょ?」

「う・・・うん・・・」


 僕はレンちゃんが足を上げた時に見えた白いパンツにとてもドキドキしていた。クラスの子のスカートをめくってパンツを見ても何も感じないのになぜかレンちゃんのパンツだけは見るととてもドキドキしてしまった。


「前の学校でもあとちょっとって言われていたけど出来なかったんだぁ」

「僕の背中でレンちゃんの背中を押すから一回ぐるって回ってみよう」

「どうやるの?」

「そのままでいてね」


 僕は鉄棒につかまったままのレンちゃんと背中合わせの状態になると、背中を丸めてレンちゃんの背中を押していった。


「わ・・・」

「鉄棒を離しちゃダメだよ?」

「うん・・・」

「足をあげて鉄棒の向こうに回るようにするんだ」

「うん・・・」

「回った?」

「もうちょっと」

「急にぐるっと回れるようになるから・・・」

「あっ・・・回れたっ!」

「ほらまたやるから鉄棒から降りて」

「うん!」


 同じ事を何回か繰り返すとレンちゃんのお手手が真っ赤になってしまった。


「手の皮が剥けちゃった」

「何度かするとみんなできる様になるから治ったらまたしようよ」

「うんっ!」

「バイキン入ると怖いから水で洗おう!」

「うん!」


 レンちゃんは公園の蛇口で手を洗ったあと、僕に「見てぇ」と言って見せて来た。僕はレンちゃんの手を触ったら僕の手よりもずっと柔らかかくてぷにぷにだった。

 僕とレンちゃんはその日お母さんから「ジョウジぃ~暗くなるから帰るわよぉ~」と言われるまでレンちゃんと公園で遊んだ。


「学校でも仲良くしてあげてね」

「うんっ!」

「うちの子で良ければ仲良くしてね」

「うんっ!」


 夕日に染まる道路を途中まで一緒に帰ったけれど、レンちゃんの家は僕の家の後ろの通りのアパートだった。


「ばいば~いっ!」

「ばいば~いっ!」


 レンちゃんは水色の服を着た綺麗な女性に手を繋いで日が沈んで暗くなりかけている道路を歩いていった。周囲は暗くなっていたけれどレンちゃんの白い服だけはクッキリと見えていて、ずっと手を振っていた。


「ジョウ君・・・恋をしたのね」

「恋?」

「あの子が好きって事よ?」

「うんっ! レンちゃん好きっ!」

「一緒のクラスになれると良いわね」

「なれたら良いなぁ・・・」

「ふふふ・・・今日はジョウ君の好きなハンバーグよ?」

「本当!?」

「そうよ? 早く帰りましょう?」

「うんっ!」


 その日僕は初めて恋という言葉を聞いた。けれどハンバーグの事で頭がいっぱいになって、その言葉もレンちゃんの白いパンツでドキドキした事もぷにぷにだった手の事も頭に奥底に沈んでしまっていた。

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