第5話
坂道を登り、大きなカーブを曲がった先。
そこには美しい夜景が広がって……は残念ながらいなかった。
しかし、かといって何も無いわけではない。
続く坂道の途中に看板があった。
そこには駐車場のマークも読み取れる。
「なぁ、これが言いかけてたやつか?」
[はい。この先300m先に、公園と展望台があります。車で時速40kmだとここまで最後に寄った無人コンビニから10分ほどです]
なるほど、確かに現実的だ。
俺は二人の方を振り向いた。おそらくそれぞれ、脳内に俺と同じように現実が突きつけられていることだろう。
「まぁ、行くか」「流石にこれはね」
坂を自転車を押して上がるには中々辛いが、ゴールが見えれば気力も戻ってきた。
何よりここで帰るのはあまりにもこれまでが無駄になり過ぎる。
「はぁ、はぁ。もし僕が明日の講義はリモートのVR参加だったら、筋肉痛で動けないと思って」
先程まで死んだ目をしていた博明が、少しばかり元気を取り戻したように、でも後ろ向きな宣言をするのに笑った。
俺たちが産まれた年に、世界的なパンデミックがあってリモートが普及したというのは学校で習った近代の歴史だが、なんだかんだで学ぶためではなく、友人と喋るために通っていたりする。
天候だったり、完全に寝坊した場合などは別だが、一人暮らしで引き篭もるよりは、せっかく気が合う友人とリアルに会うのが、少なくとも俺は好みだった。
「俺は意地でも行くぜ? 偶然の出会いは出掛けなきゃ始まんねぇからなぁ!」
リアルとは別に、SNSでもマッチングでも出会いはあるが、二度ほどそれで失敗したらしい鉄平は、リアル寄りの思想で意地でも行くらしい。
かつての『お見合い』がAIによる相性診断に基づいたマッチングに移り変わっているというのは少し前のニュースでよく取り沙汰されていたが、いつの時代も考え方は多様だ。
ちなみに俺はと言うと。
『また今度連絡するね』
昼に言われた可愛い女の子からのセリフの為にリアルで行こうと思う程度には、期待をしてしてしまう男子だった。
社交辞令かもしれないけど、行動しないと何も変わらないんだよ! ワンチャンくらい妄想してもいいよな?
――この甘い考えが砕けるまで、後15分。
◇◆
「「「…………」」」
人間、本当に綺麗な夜景を見ると、言葉が出ないのだということを知った。
高い建物や光の強い建物がないと、夜空が暗いことを知った。
暗いと、民家の明かりは点々と、でも意外と見えることを知った。
そして、三人とも感じていただろう事を、鉄平が口にする。
「……なんで野郎どもでこんな良い景色を」
「思ってても言うなよ」
とりあえず突っ込む、でも誰かが口にしていただろう。そのくらい綺麗で、ムードのある夜景だった。
街の灯りと、空の灯り。
それが、星だけではなく、ここ10年で数十倍に膨れ上がったという衛星だろうと、誰かの残業の結果だろうと、美しさは変わらない。
「…………とりあえず車かな? 地元だと欲しいと思ったこともなかったけど」
「バイト、免許、車、彼女の順だな」
「おお、車までは行けそうだね!」
「馬鹿野郎最後まで行かないと意味ねーだろうが!?」
俺が少し空を見上げている間に、馬鹿二人が馬鹿なやり取りをしているのが耳に入ってきて笑う。
ムードもクソもない。
「ん……?」
そして周りを見渡してふと気づく。
今いるのは駐車場で、ここからでも凄い夜景だが、どうやら展望台にも登れるようだった。
[展望台からは、より広範囲の夜景が楽しめるようです。データ上は高さ10mとなっております]
「なるほど。なぁ、鉄平、博明、展望台せっかくだから登るか?」
「へぇ、そうだな! ここまできたら行くところまで行ってやろうぜ!」
「いや、展望台に登るだけで大袈裟すぎでしょ? あ、勿論僕も登るよ」
――翌朝の俺は少しだけ思うことになる。この時登って良かったのか、良くなかったのかと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます