第3話
(小銭なんて使うの、めちゃくちゃ凄い久しぶりだな)
俺はそんな事を思いながら、学食のいつもとは違う注文口に来ていた。
基本的に思想でも無い限りは端末を持っているし、皆学食の中で思い思いの場所でXRの画面を操作しすれば奥で3Dプリンタで生成されたものが流れてくるので受け取っていく仕組みだ。
本来は俺もそうだったのだが。
『ありがとうねぇ、助かったよ、ではこれを』
今朝方、代わりに端末から乗車賃を払って助けたお爺さんとお婆さんはそうお礼を言ってくれて、本来払うはずだったものより少しだけ多めに現金をくれた。
今も俺のポケットにあるそれのおかげで、昼は無事に食べることができそうである。
「やっほー、現金なんて珍しいね?」
「え? あぁ西園さん……いや今日は偶々ね」
そこにいたのは同じ専攻の中でも可愛いと言われている西園さんだった、あまり話したことは無いのだが、彼女も現金仲間なのだろうか?
俺が少し怪訝そうな顔をしていたのか、西園さんは笑顔で言った。
小柄で小動物的な雰囲気と、社交的な性格で人気なのがよくわかる。
「ふふ、なんてね。急に話しかけてごめんね。実は朝、私も見てて、どうしようって思ってたところに君が通りかかってさ。迷う事もなく助けてお礼言われて……なんか凄いなって思ってさ、いい人だよね!」
「……まぁ、お婆ちゃん子なんだわ、俺。だから困ってる爺ちゃん婆ちゃんは見過ごすのも後味悪いし」
「あははは、最初の理由がそれなの? えっと、望くん、でいい? みんなそう呼んでるよね、あまり話す機会なかったけど、良かったら今度……」
そこまで言ったところで「何してるのー?」という声が彼女の友人からかかり、ごめんね、また連絡するね、と言って彼女は去っていった。
「なぁ、今のは脈アリだと思うか? 結構悪くない『いい人』じゃなかったか?」
[この後、ご友人の意見も参考にされては如何かと思うのですが、ひとまず統計的に言えるのは、今の出来事だけで脈を考えるのはモテない男子の特性のように思われます]
「……おいこら、オブラートに包めよ」
◇◆
「何かさっき西園さんと話してなかったか?」
400円のカレーを持って席に着くと、既に向かいに座っていた友人の一人、背の高く骨も太い、一見すると強面にも見られる
目敏く見られていたらしかった。
朝の出来事は午前中にネタにはしていたので、それを見られていていい人だねと言われたという話をすると。
「おお? なんか好感触? くそー、俺もどこかにいい人アピールポイント落ちてないかな。美少女が見てる場面必須で」
鉄平が悔しがって何かに憤るように言った。
それにいやどんな都合のいい場面だよ、と思いつつも確かにその通りの場面だったかもしれないと突っ込むのはやめた。
そんな俺たちを見て笑いながら、こちらは小柄でお姉さんウケが良さそうな美少年、
「……いや、鉄平みたいに下心ありありだと巡り合わないんじゃないかな? それにしても望は相変わらずお人好しだけど、それを評価してくれるのは西園さんのポイントが上がったね」
「お前はお前でどの立ち位置なんだよ?」
流石にそんな言葉にツッコミが溢れる。
俺たちは学科も同じで、最初のオリエンテーションで席が近かったことからいつもつるんでいる三人だった。
バイトをして、カラオケにいったり、ボウリングにいったり、ゲーセンにいったり、麻雀を囲んだり、VRゲームの中で探索したりと、一緒に居てもいなくてもよくつるんでいる男友達。
ちなみに全員彼女はいない。
繰り返すが、全員彼女はいなかった。
いや、楽しい大学生活を送ってはいるぞ?
ただちょっとばかり、「彼女が欲しい!」と叫び出したくなるだけで。
ちなみに叫ぶでもなく呟いたら。
[これまでの行動と、周囲からの評価を鑑みて、告白をしなければゼロをイチにするのは難しいと思われます]
だから心を削ってくるんじゃねーっての。
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