磔刑舞台

我は王だ。しかし、王位など捨ててやろう

　人々よ。信じるのです。神はいるのです。

　悪辣な権力者は滅びるでしょう。

　これは聖なる預言です。

　＋

　あのさあ。

　何なんだ。あの市民という生き物は。

　仕事がないのか？

　広場で議論ばっかりしてて。

　お前ら国民が飢えても責任は取らないだろう？

　黙ってろよ。

　あのな。

　権力者というのは飢饉が起きたら殺されるんだ。

　あー。

　食べ物が余ると、ああいう口先野郎が出て来るのか。

　＋

　神はいる。いるのです。

　あの悪辣な権力者ども。

　我々庶民の苦しみを知りもしない！

　＋

　あのさ。

　お前は「庶民」ではないと思う。

　お前が「権力者」だよ。

　余は一応政務をこなしているが？

　お前はしゃべっているだけだろう。

　しゃべっているだけで金になるのか。うらやましいな。

　あー。

　もしかしてアイツら読み書き出来ないのか？

　余が書類仕事を片付けているのが「座っているだけ」に見えるのか？

　困ったよ。

　法律作っても読めないのか。文章を。

　ひでえな。

　余の人生は何のためにあるのだ。

　＋

　神はいるのです。神はいるのです。神はいるのです。

　あの悪辣な王は倒される。

　これは預言なのです。

　私は神の声を聴いた！

　＋

　あー。

　これ、余を暗殺しようとしているとしか思えんな。

　そうか。もう５０代なのか。

　５０代なのに、王様は遊んでいるだけだと信じているのか。

　凄いな。庶民って。何て優しいんだ。

　余は４歳の時から父王を尊敬するようにと叩き込まれていたぞ。

　＋

　神はいます。神はいます。神はいます。

　＋

　いや。余も穀物は神の恵みだと思うぞ。

　だが、農民に肥料を売っているのは余の手柄である。

　神の使徒は余の方だ。

　＋

　神はいます。神はいます。神はいます。

　＋

　なあ。

　これ普通「狂人」と言わんか？

　あー。

　兵士を集めそうだな。余を暗殺するために。

　あー。

　思い付いた。

　コイツに王位を譲ってやろう。

　タダでだ。

「王が死ぬ」と予言したのだったな。

　どうなるか見ものである。

　さあ。

　王など辞めてやる。

　こんなつまらない仕事。