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 朝、起きると枕元にリボンのついた大きな箱があった。


 ひと目でサンタさんが願いを聞き入れてくれたことが分かった私はほとんど狂喜乱舞の体で家の中を駆け回り、そしてぽん太に新しい家が来たことを興奮冷めやらぬまま報告した。もちろんぽん太にそんなことが分かろうはずもなく、彼はいつものようにペーパーチップに落下してポカンとしていた。

 ベッドに戻りいざその包装紙を剥がそうとすると、母親にそれを止められた。

 例年、無情にも多くの場合クリスマスは同時に二学期の終業式でもある。

 母はプレゼントの包みを開けるのは学校から戻ってからにしなさいと私を嗜めたのだった。

 とにかくその日は後ろ髪を引かれる思いで学校に行き、じれったく終業式を終えると私は寒風を裂いて家路を急いだ。

 家に戻った私はいつものようにランドセルを玄関先に放り出して、プレゼントが置かれたリビングへと直行した。そして忙しなく包装を剥ぎ取り、中から現れたプレゼントに目を輝かせた。

 それはこれまでのものよりひとまわり大きいハムスター用飼育ケージだった。

 白とライトブルーを基調とした豪華な代物で真ん中に白い階段がついた二階建てだった。また内部には煙突屋根のメルヘンチックな家型の寝床とカラフルな回し車が備え付けになっていて、二階の床の下部からはぽん太がきっちり一匹分乗せられる大きさの四角いブランコがぶら下がっていた。さらに底面以外はケージのほとんどの部分がスケルトンで、それら内部の装飾や家具(そういう呼び方が適当かどうかは分からないが)がよく見えるようになっていた。

 私はしばらくの間それを見つめて恍惚とした。

 ネットショップでこの飼育ケージを見つけて以来約ひと月、ぽん太がここで暮らす姿をいったい何百回夢想したことか。

 嬉しさに踊り出したい気分だったと思う。

 いや実際、小躍りぐらいはしたかもしれない。

 とにかく私は逸る気持ちを抑えながらケージ内のセッティングを行った。

 所定の位置に回し車を設置し、二階部分を組み立てて階段を掛け、床面にペーパーチップを敷き詰めた。それからトイレに砂を入れ、寝床に裂いたティッシュペーパーを詰め込み、給水ボトルを洗って水を入れた。そしてお皿にハムスターフードとひまわりの種を入れ、新居祝いにとおやつのビスケットをいつもより少し多めに入れた。

 小一時間かかって、ようやく準備を終えた私は浮き立つような心持ちでぽん太を移住させる工程に取り掛かった。

 私は母親が止めるのも聞かず、自分の肩幅よりもずっと大きな新しい飼育ケージを一人で持ち上げ、危なかしい足取りでサンルームへとそれを運んだ。

 ガラス窓の外は冷たく乾いた風が吹き荒んでいた。

 けれどそれでも天窓越しに太陽の光が降りそそぐサンルームはいつも通り温かだった。

 私はそこで新旧二つのケージを床に置き並べると不敵な笑みを浮かべて高らかにこう宣言した。


「それではぽん太くん。これからお引っ越しをしまあす」


 

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