若宮沖絵の懐古

 私には過ぎた弟だったよ。

 よくできた弟だった。身体能力も凄かったけれど、ものすごく頭のいい子でね。ふふ、身内贔屓と笑って貰って構わないよ。

 でも、あれはああ見えて繊細なところもあってな。常に人からどう見られるかを気にしていたよ。臆病というよりは、プロ意識だろうね。あれは昔から、ただの選手ではいられなかったから。そのへんのアイドルより身なりにも身辺にも気を遣っていたし、私達の前以外じゃ滅多に本心すら口にしなかった。

 苦しかったと思うよ。

 あれにとっては、本来の自分というのは隠すのが当たり前のものだったから。


 まあ、不幸せではなかったはずだよ。

 少なくとも、私達家族以外にも、包み隠さず自然体でぶつかれる相手はいたみたいだから。

 友達――友達か。

 そうだね……確かに友達も多かったけれど。

 一人だけ凄いのがいたからね。どうせ君もあの子絡みの話を聴きに来たんだろう。

 あれはそう思っていたのかなあ。

 あれにとって、あの子が友達なんて言ったら、あれは泣いて嫌がるかもしれんよ。

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