第13話 黄金の橋(エンノセル平原の戦い 中編)

 騎兵が激突した瞬間、ギドがヨハンに襲いかかるのが見えた。剛の者の一騎打ちは、それはそれは美しいものだった。

 だが見るのもが見れば、ギドがあからさまに手を抜いてるのがわかった。


 それを見届けるとフランクが指示を飛ばす。

 なぜか僕の乗ってる神輿がウロウロし始め、旗は揺れ、ゴードン達がジリジリと下がり始める。

―大丈夫なのかな―

 揺れる神輿の上で手すりにつかまりながらそんな事を思ってると、敵の攻撃がゴードン達に集中し始め、それに応答してか、ゴードン達がまた下がり始める。我軍が凹、敵が凸のような形になり、今にも破れそう状態に見えた。


 フランクのそばにいた兵士が音を届けることができる魔道具の前で叫ぶ。僕が北部平定戦で使った魔道具だ。


「大変だ!囲まれているぞ!」

 その声は敵のど真ん中から発声されているように聞こえ、そして実際に我軍が包囲しつつあるように見える。

「全部だ!全部囲まれてる!」

「くそーーー、これは罠だったんだ!司令官殿のご指示を!」

 自作自演もここまでくれば立派である。

「ロイスの首を取れ!恩賞は思いのままぞ!」

「こんな黒のちびどもなんぞすぐに抜ける!」

 という指示と

「クソーどうなってるんだ!」

「帰れなくなるぞ!」

 という嘆きが僕の両脇から発せられる。


「えげつねーことするな〜」


 通常なら突撃が止められたことですぐに次の手を打たなければいけないが、その指示を出す司令官は絶賛ギドと一騎打ち中だ。

 眼の前の敵であるゴードン達の見た目は決して強そうには見えず、しかもジリジリと下がってるものだし、その後ろで敵の総大将がウロウロしているのだから、チャンスとみなす奴も出てくる。

 挙げ句にどこからともなく色んな言葉が飛んで来る。

 それにより得られた結果は停滞である。


 真正面を突破するわけでもなく、一旦引いて体制を整えるわけでもなく、攻撃目標を変更するわけでもない。彼らはただただ停滞した。

 その間に我軍の両翼が敵を包み込む事に成功する。


 戦場の遥か前方から青い煙が上がった。それを見た。

「さて、仕上げといいますか」

 フランクがそりゃもう恐ろしい笑顔になっていた。

「エルフィー殿、お願いします」

 いつの間にか近くにいたエルフィーが何やら呪文を唱えると、太陽はまだ高いのに辺りが薄暗くなった。

「これでいいかな?フランク殿」

「はい、十分です」

 そう言うと鏑矢(音が出る矢)をつがえて天に放った。独自の音を響かせるその音が消える頃、敵陣の後ろが光り始める。


「かこまれてる!もうだめだ!」

「あそこだ、あそこに行けば立て直せる」

「ここはもうだめだ!逃げるぞ!」

「あの光へ向かって走るんだ!」

 僕の近くの兵士が魔道具に向かってそんな事を叫びまくる。

 すると敵が一人二人と後方に向かって走り始め、それが10人になり、やがて全軍に伝播した。


黄金の橋


 包囲網の一角をわざと開けておき、相手が死兵になるのを防ぎつつ、逃げるところを追撃するというものだ。

 まさしく悪魔というしか無い。


 戦いの趨勢は決しようとしていた。

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頑張りますので、よろしくお願いします

 

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