第12話 背骨を折る(エンノセル平原の戦い 前編)

 歌が終わり、また歓声が上がる。

 僕は改めて双方の布陣を確認する。


 我軍は、正面には、ゴードンたちドワーフ族の軍が、左右には我が領の重装歩兵が並んでいる。左右それぞれには、内側から我が領の軽装歩兵、その外側には騎兵が並んでいた。

 ギドたち獣人は軽装歩兵といっしょにいたが、ギドは何故か僕の前にたっている。

 エルフィーたちエルフは全ての陣形の後に薄く布陣していた。


 翻って敵軍は、中心に騎兵、その両サイドに重装歩兵が控えており、その後ろに魔法部隊がいた。

「中央突破狙いか」

 騎兵の突撃は最強で、そんじょそこらじゃ止まらない。しかも率いてるのがこの国最強の騎士、ならばなおのことだ。全身赤に染め上げた騎兵は辺を威圧している。


それにしてもとおもう。

 武田の赤備えといい、ビッグレッドワンといい、レッドバロンといい、なんでこうも赤が好きなのだろうか?

 洋の東西や時代を超えて、赤がという色はそういう色なのだろうか。


 合図とともに戦が始まる。通常通り、敵は弓を打ってくる。こちらに矢が届きそうという頃に、力なくパラパラとまったく別の場所に落ちていく。陣の後ろにいたエルフたちが何やら唱えてるように見えたので、恐らくは魔法の一種なのだろう。弓による被害がまったくなった。すごいな。


 敵の重装歩兵と我が軍の前線が激突する。

 しかしなぜか僕の真正面、つまりゴードン達のまえはぽっかりと空いていた。

「なるほど、中央突破のために、両翼を拘束しましたな」

 いつの間にかそばにいたフランクが言う。

「想定通りですか?」

「はい」

 そう言うとなにやら合図を送る。わが軍の一番外側にいる騎兵と軽装歩兵が、敵を囲むように動き出した。


「さて、公主様。こちらへ」

「なにこれ」

 フランクが指をさした先には、やたらとド派手な椅子とその後ろにキンキラしている飾り付けがある神輿だった。

「はい、公主様のご威光を示すためのものです」

「示すのは威光じゃなくて愚行になりそうなのだが」

「勝つためです。どうぞお座りください」

 有無を言わさない迫力と、はよしろという圧力に屈する(?)と渋々座る。

「よし! 上げろ!」

 という号令とともに神輿があがる。そしてその光景は敵からも見えたらしく、何やら動きがあわただしくなってきた。


 フランコ・サムが集団の先頭に立ち、号令をかけると、こちらに突っ込んできた。


 騎兵の突撃に合わせて、ゴードン達のところに弓矢が集中する。だが、ゴードン達の周りにはいつの間にか薄い煙幕が貼られており相手からよく見えなくなっていた。そして、弓矢は力なくゴードン達の周りに力なく散らばる。

 その後、騎馬に乗った魔法使い達が、火魔法をゴードン達にぶつけてきた。


 騎馬を走らせながら魔法を唱えるというのは、物凄い高等技術だ。魔法をぶつけてその混乱に乗じて騎兵を突撃させ、相手の戦線を崩壊させるという戦術も物凄く有効だと思う。

「ただねぇ。相手がドワーフだからね」

 ドワーフ族というのは力持ちである。そして、これはあまり知られていないのだが、火に強いという特性もあった。鍛冶で火を扱っているからなのか、(ゴードン談)しまったらしく、鎧の効果も相まって火球爆発程度だとびくともしない。


 ドーンという衝撃音がするが、それからは戦場にふさわしくない静寂に包まれた。

 必勝だったはずの騎兵の突撃が止まったことを示した。


「背骨を折ったな」

 

 戦術の根幹を叩き折ったことを確信した。

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補足

武田の赤備

 武田家の家臣、飯富正虎が全身赤の装備で戦ったことから。

のちに、山縣、井伊、真田、といった武将に受け継がれた。


ビックレッドワン

 アメリカ陸軍第一歩兵師団のニックネーム。ノルマンディー上陸作戦で、オマハ・ビーチを攻略した部隊。


レッドバロン

 第一次世界大戦で活躍したマンフレート・フォン・リヒトホーフェンの愛称。機体を赤く染め上げてたのでこの愛称がついた。


イイネ、コメントお願いします。

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