第16話 草木が我らを殺しに来る

 結局、彼からお話を聞くことは出来なかった。

 時間があればじっくり出来るのだが、残念ながら敵中ど真ん中。のんびり尋問している時間はない。

 残った一人をさっくりと始末して、拠点から領都に帰ることにする。


「とりあえず脱出しますか」

 と言って東に向かって歩き出す。

「そっちじゃないぞ」

「川を下ります。フランクさんが船を用意してくれてますので」

 ギドは目をパチクリしたあと、

「相変わらず、坊主の能力はすげーな」

 と賞賛してくれた。


「で、坊主、結局どういうことなんだ?」

 と、ギド

「まぁ、憶測こみですが、僕の考えを」

 と前置きして話した。

―この平定戦は失敗だ。恐らくは足場すら確保出来なかったと思う。

 しかし、僕の勢力は占領と維持にある程度は成功していた。だからそれを失敗に『変換』するために、一発逆転を狙った暗殺を行おうとしたと考えられる。

 他の国の勢力は、恐らくは公爵の僕を誘拐しての身代金目的じゃないだろうか。平定戦を苦戦しているのをみて、チャンスが転がっていたので手を出した。― 

「こんなところですかね」


「なるほど、で、次はどうなるんだ?」

「ミスを僕に押し付けて、殺したあとは領土分割って言ったところでしょうかね」

 かなり物騒な事をなんでもないふうに言ったので、ギドが息を呑む。

「本当にやるのか。理由はどうするんだ」

「適当にでっち上げるんでしょ」

 はぁというため息の後、ギドがしみじみと言った。

「人間って大変だなぁ」

 全くその通りです。ええ、


 しばらく歩くと、

「おい、止まれ!」

 という声が聞こえた。そして

「金目の物を」

 と言う前にギドがぶん殴る。普通にぶん殴ってるだけなのに、10メートルはぶっとんでる。ちなみに今ので5回目だ。


「やっぱり手応え無いなぁ」

 とギド。

「そりゃあドラゴンに比べたら雲泥の差ですよ」

 そうなんだけど、と頷いたあと、ギドが

「そういえば、坊主。ドラゴンを知ってるのか?」

「まぁ、あったことありませんが、前世の知識としてありますよ。どの物語でもめちゃくちゃ強いですよ」

「坊主もあってみるか?」

「一目見たら昇天するのでやめておきます」

「それは乙女的な感じで、恋愛とやらが始まる感じか?」

「なんの話ですか。物理的にですよ」

 そりゃそうだなとギドがゲラゲラ笑った。


 拠点を出発してから1日がすぎ、2日目の朝になり、脱出路(?)までの道を急いでいると、いい感じで襲撃者が増えてきた。

「坊主。俺はコイツらと遊ぶから、先行ってろ。着いたら笛鳴らせ」

「わかりました」

 そういうと僕は走り始めた。


「こいや!この俺様が相手してやるぜ」

 とかいう決まりきったセリフは聞こえてこず、「舐めやがって!」とか「うぎゃー」とかいう声も聞こえてこず、聴こえてくるのは「グチャ」とか「バキ」とかいう擬音のみであった。


―本当に強いな―

 恐らくは目にもとまぬ速さなんだろうなと思ってると、僕の眼の前にが道を塞いだ。

 僕はしゃがむと、僕の上を人間の頭ほどありそうな石がの頭にとんでもないスピードで命中し、彼が躯に変わった。

―敵でなくてよかった―

 彼と相対するなんて想像もしたくなかった。


 

 そのまま全力で走り、川付近に到着する。

「お待ちしておりました。公主様。こちらに」

 脱出口には何故かリキャルドがいた。

「ありがとうございます。しかし何故?」

「ドノバン殿から頼まれましたね。公主様には色々よくしていただきましたからお礼として保管しておきました」

 できる部下を持つと楽でいい、

「色々とバレると不味いので、十分に注意して下さい」

 リキャルドがわかりましたと礼をした。


 用意してくれた船は、結構な大きさで、小さな漁船くらいはある。2日位かかるので、これくらいの大きさは必要という判断らしい。

 ちなみに、この船の周りには手漕ぎの舟がいくつかあった。リキャルド達はこれで魚をとるらしかった。


「それではまた」

 僕は船に乗り込むと、『エンジン』の『スイッチ』をいれて、スクリューを回し離岸する。


 ある程度進んだ時に笛を鳴らした。音は全くならなかったが、恐らくは犬笛のような物だろう。


 岸がガサガサしたと思ったら、暗い影が船の甲板に飛び乗って来た。

「お疲れ様でした」

「おうよ」

 それを確認すると、船を下流にすすめた。


―ようやく帰れる―


 だが帰ったらまた問題が山積みだったりする。


「リタの入れてくれたお茶が飲みたいな」


※※※※※※

第二章終了です。

感想とかとかお待ちしております。

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