第11話 結婚相手

「それで、私になにか御用ですの?」

「アリス、どうしてここに?」

 マルクがなんだか焦ってる。はじめてみたな。


「そんな事はどうでもいい事です。御用をおっしゃってくださいませんか?私を放逐したお兄様」

 黙ってしまうマルクとその御一行様。

『手間が省けてよかったじゃないですか』とか煽ろうかと思ったが、火に油を注ぐ以外の何物でもないので黙っておく。

 心の中でつぶやくくらいは許してもらおう。


 埒が明かないので、アリス嬢がこっちを向いて

「ロイスさん。マルク・キーガン様はどのようなお話をされていらっしゃいましたか?」

 と聞いてきた。


「アリスさんと僕との婚約を打診してきました」

 と、正直に伝えると

「それはうれしい話です。ですが私はキーガン家を放逐された身。マルク・キーガン様とは何のゆかりもございません。なぜマルク・キーガン様がそのようなことを言ってきたのか、理解に苦しみますわ」

 オホホホと彼女が笑う。貴族の令嬢がやるように、上品に口に手を当てていた。

 いや、実際に貴族の令嬢なんだけどね。

 周囲の温度が下がる。


「アリス様。私たちはそのようなことを言っておりませんが、そのようにとらえてしまったこと言動があったのなら、誤解させてしまったことに対して謝罪します」

 年の功なのか、副官らしき人が何とか立ち直ってアリス嬢を説得する。

「あら?手紙の一つもよこさずに何をおっしゃいますの?」

 とアリス嬢。


 そこからの言い合いがなかなかの見ものだった、

 アリス嬢が言葉を発するたびに温度がさがり、それに比例してか、マルクたちの汗の量が増えていく。


 彼らが話し合いをしている最中に、母上とアリス嬢のお付きの二人、そしてヘラクレスも入ってきた。

 彼らに簡単な説明をすると、母上とヘラクレスは興味深そうに、アリス嬢のお付きの二人は迷惑そうに彼らに視線を投げかけた。


 話が堂々巡りになり、いや初めからなっていたのだが、いい加減うんざりしてきたので、介入しようかと思ったときに、アリス嬢がとどめの一言を放った。

「私にはすでに心に決めたが方がいます。その方はいかなる時も私を支えてくれました。私はその方と添い遂げます」

 と宣言すると、アリス嬢達が応接室から退出した。


 マルク達が唖然としていた。

 とりあえずほっぽりだす訳にはいかないので、彼らへの食事と泊まる場所の確保を指示した。



 夕食が終わり、就寝までの時間で残りの仕事を片付けるべく執務室にこもる。

 こもるとほぼ同時にフランクとドノバン、母上とヘラクレスとアリス嬢が入ってきた。

 これからのことを伝えるためだ。


 みんなが集まったのを見てこれからのことを話す。

「報告はドノバンから受けました。測量に関してはこれで十分です。母上とアリス様たちは領都に引き上げて下さい。これは命令です」


「ロイスちゃん。説明して貰っても?」

 母が僕に問いかける。

「まずこれ以上の測量は無意味とは言いませんが、今日明日使うところではありません。今回の平定戦では、我々の『兵站の範囲』を超えるためです。次に他の軍の補給がかなり不味いことになってるということです。おそらく近日中に崩壊すると見ています」

「なぜ?」

「マルク様が先ぶれなしで接触してきました。しかも婚姻というかなり重い。通常なら金なり地位なりをチラつかせながら対応するはずですが、婚姻関係を強引に結ぼうとしてきました。親戚になったらとここの物資を根こそぎもってくつもりだったんでしょ。かなり切羽詰まってると思います」

「それと私たちを領都に返すのとどう関係があるの?」


 母の質問に僕が苦虫を嚙み潰しながら答える。嫌な話になるからだ。

「彼らは兵站なんて概念はありません。手持ちの食料を食い尽くしたら現地調達です。その現地調達でも取れなくなったってことは、この地の食料が枯渇しているということです」

「ということは?」

「現地からの反乱がある。ということです」

 僕の言葉に全員が顔を見合わせた。 

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応援してくださる皆様。読んでくださる皆様。本当にありがとうございます。

絶対に完結まで走り切ります。

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