第10話 感動の再会?
御一行様を迎えるために僕は入口まで走った。
入口では地味な服を着ているわが軍と、紫を基調とした普通の軍服に身を包んだキーガンの軍が相対してる。
辺りに漂う雰囲気は決して友好的なそれではなかった。
「キーガン様、何か急用ですか?」
それとなく聞くと、マルク・キーガンが、ではなく彼の副官らしき壮年の男が答える
「ロイス・ミツハ樣、ご機嫌麗しゅう。突然の訪問お許しください。両公爵家に益のある話でしたので急ぎ訪問させていただきました」
年の功なのか、上から目線を上手く隠してこちらに頭を下げできた。
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。応接室までご案内します。何分戦地なので不作法をご理解下さい」
言葉遣い、あってるかなぁとかどうでもいい事を思いながら応接室まで案内した。
応接室、とはいっても元々納屋だったらしきものを改葬したもので、『とりあえず多人数でお話ができる、屋根と壁がついたもの』である。
内装も日曜大工に毛が生えた程度の机と椅子と、その周りにはやけにキンキラした装飾品が置かれている。
まるで成り上がり貴族だな、なんて思ったがまぁ支障は無いので無視することにする。
「それで、益のある話とは?」
案内して、椅子に座らせ、長ったらしい空虚で美辞麗句のやり取りのあと、ようやく本題に入った。
「ロイズ様は婚約がまだなそうですな」
「恥ずかしながら」
「そこで婚約の話を持ってきたのですが」
―お断りします―
と言えたらいいのになぁ、
「それはお心遣い、痛み入ります」
全く感謝してないが、頭を下げる。
「お相手は、マルク様の妹、アリス様でございます。器量も血筋も申し分ないとおもいます」
「ハァ」
―何考えてるんだ?―
その後、この副官は、この話は両公爵家のためだとか、これは貴方のためにもなるとか言っていた。
「そして、この両家が手を取り合い、この平定戦を成し遂げる事により、王国の真の発展につながるのです」
と締めくくった。
「まぁ、この話はおいそれとは決められないことかと。それとアリス様のお話も聞いておかないといけません」
「確かに、そうですな。しかし事は急ぎます。あとから私どもで使者をお送りしますので、とりあえず、公主様のお返事をいただければ」
「そうですか、ではお断りします」
副官が笑顔のままで固まる。
「何故だ!」
マルクが怒鳴りつけたきた。
「り、理由を説明してもらってもよろしいでしょうか?」
副官がおずおずと聞いてくる。
「我が領に利益がないからです。あとご存知ないと思いますが、我が領は伝統的に伯爵以上から伴侶を取らないことになっております」
実は伝統的に云々は正確ではない。
単純に代々の当主が平民やら下級貴族から伴侶をもらっただけであって、止められているわけではない。まぁ相手からしたら『田舎の公爵より都会の子爵』なんだろう。
だが、僕はこれを利用させてもらった。ありがとう、ご先祖様。
「しかし、伝統にこだわり、この未曾有の危機を乗り越える手段を棄て去るのは、愚者のすることですぞ」
と、副官さん。なにが未曾有の危機だか分からないけど。
ここで、「ハァ」とか「別に困ってないよ」などというと火に油を注ぐことになるので、黙って聞いている。
いい感じにヒートアップして、そろそろうんざりしたころ、ドノバンが耳打ちをしてきたので、
「状況を説明して連れてきて」
とだけ指示する。
「さあ、ロイスよ。返事を聞かせてくれ。君のような聡明な人物なら嫌とは言わないはずだ」
とどめとばかりにマルクが立ち上がる。
「いや、アリス様にも聞かないとですね」
「まだそのような事を言うのか。私から話しておくと言ってるではないか」
「そんなまどろっこしいことしないで、直接本人に聞きますよ」
「そのような時間が」
無いと言いいかけたときに、応接室の扉が開く音が聞こえる。
建付けが悪いから優しくね、とかいう余計なことを思いながら入り口をみると、そこにはアリス嬢が立っていた。
「ご機嫌ようお兄様。いや、元お兄様と言ったほうがよろしくて?」
そういうと気品漂う完璧な作法で彼らに礼をした。
もっとも、彼女が着ているのは、ドレスではなく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます