第6話 2トン

 僕たちは2週間かけてアイギス近くに到着した。通常なら軍隊の移動はもう少し時間がかかるのだが、行軍という形をとらずに、俗にいう『分身合撃』のような形をとったためである。練度が高いとこういう事ができる。


 アイギスの領都内に仮に作った指揮所で、ドノバンを中心にした測量班が作成してくれた地図をみながら、拠点の位置と道の作成の指示していく。

 拠点は王領から2日ほど歩いた場所にある廃村に作ることにした。


「しかし、2トンか」

 うちの派遣軍が1日に消費する物資の量である。

 一人2キロの物資を消費すると考えると、そのくらいの重さになる。

 当然現地調達できるものもあるが、大部分は何らかの方法で運ばないといけない。

「なかなかホネだな」

 部下に大見え切った手前できませんでしたは言えないので頑張ろう。


 道の整備や、馬車の割当のために指示を出す。派遣軍千人のうち、補給担当は三百人を予定しているが、多分かつかつだろう。

 他の兵士も剣を振るうよりツルハシを振るう時間が長くなるだろうな。


「基本方針はどうしますか」

 フランクが聞いてくる。

「懐柔だね。なるべく戦わない方針で。生き残ることを最優先に」

「併合は目指さないのですか?」

「このままいったら十中八九すりつぶされるからね。お付き合いする必要はないよ」

「そうですかね・・・」

「200年単位で解決できなかった問題が1年で解決出来るとは思えないよ」

 僕がそいうとフランクの口角がほんのわずかだが上がった。


「王様はできると思ってるんですかね?」

「思ってるんじゃね?」

 そうなんですかね、と口の中でフランクがつぶやく。

 そしておもむろに顔を上げると僕に怪訝そうに質問してきた。

「公主様はどう思ってるんですか」

「うまくいくといいなぁと思ってるよ」

 ヘラヘラと笑いながら答えると、何かを察したのかフランクが一礼をして、部隊の指揮に戻っていった。


「しかし、この世界には、アイテムボックスとかインベントリとかないのかな」

 すこしぼやいてみる。

 公爵という立場なので情報がそれなりに入ってくるが、残念ながらそんなスキルは存在しなかった。

「魔法の袋とかもないからなぁ」

 いや、あることはあるのだが、その量は少なく、容量も冒険者1パーティー分くらいしかないため、こういう輸送にはあんまり使えない。


「公主様。お疲れ様です。お呼びですか?」

 ドノバンが指揮所に入ってくる。

「呼びました。ドノバンさん、私事になりますが、母とアリス嬢はちゃんとやってますか?」

 ドノバンがそれですか、という顔をしながら答えてくれた

「すばらしい活躍ですね。魔物はもとより、盗賊が襲ってきても簡単に撃退してくれてますよ。まぁ、『いきますわよーーー』とかいってます」

「そうなんですか、元気そうでなにより」

 結構苦労してるんですよ。っていう顔をしたがそれはスルーして、本題にはいる。


「周りの状況と測量の報告をお願いします」

「わかりました」

 と言ってドノバン達が作った地図をもとに説明を貰う。そして、

「この白い駒がどっちつかず、赤い駒が敵対的、青い駒が比較的味方の人たちがいる集落です」

「なるほど」

 圧倒的に赤い駒が多いい。

「状況を鑑みるに、この拠点から2日歩いたこの地域までが、限界かと」

「そうですか」

 まぁ、そうだろうな。

「集落についてはこれで全部ですか?」

「いえ、把握してるのはこれだけです。まだ増えると思って下さい」

「なるほど、青が増える可能性?」

「努力はしますが、まぁ劇的に増えることは無いかと」

 だろうね。そうでしょうともね。

「わかりました。僕たちは当初の予定通りじっくり行きましょう。他の王様や公爵家に付き合う必要へありません」

「了解しました」

 

 僕は頭をガシガシとかく。

 最近よくやる仕草だ、多分ストレスとか溜まってるんだろうなと思った。

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