第5話 出発式

 4月になり、北部平定戦が開始される。

 その前に王都に集められて『出発式』なるものが行われた。出産のお披露目もそこで行い、最後には五人の騎士がうんチャラというもので締めくくっていた。


 お披露目会の後に会議があった。

 それぞれ攻略する地域が割り当てられ、東から、サム公爵家、王家、キーガン公爵家、ウチ、と割り当てられた。


 今更ながらではあるが、ウチと王領のあいだには、キプルス川というどでかい川が流れており、アイギスにつながる箇所が唯一、橋がかかっている場所である。

 王領、もしくはウチの領から北に向かうと『死の山脈』が連なっており、近づけば近づくほど魔物やら気候のせいで人が住めない場所になってる。


 今回の平定は人が住めている場所(といっても、うちの領くらいの広さはあるのだが)に対して行うそうだ。


「ロイス殿」

 会議が終わったのでとっとと移動しようとしたら、サム・ラーションに声をかけられた。

「これは宰相殿。先程の会議は見事でした」

 とりあえず挨拶してみる。

 ステファニー嬢の事を除けば、この人は優秀だったりする。

「それはどうも。それで質問なのですが、あなたのところは兵の数が少ないようですが?サム家は四千、キーガン家は五千、王家は三千出しております。何故あなたのところは千しか出していないのでしょうか?」

「お金がないからです」

 身も蓋も無い回答にラーションが息を呑む。

「し・・・しかし、他のところはあなたのところより倍以上の兵をだしています。ロイス殿ももっとだせるのでは?」

 メガネを直しながら鋭い瞳で問いかけてきた。

「いえ、無理です。なにぶん田舎なので、人も金もないのですよ」

 二の句が継げなくなっていたので、そのままそれではといって足早に去った。


 宰相と別れた直後にフランクと合流した。

「公主様、なにか言われましたか?」

「別に」

「兵が少ないとか言われませんでした?」

「言われたけどね。ないものはないよ」

 フランクがまたまた、って表情をつくってる。

「公主様、無理すればもう2千はいけたと思うのですが、なぜ絞ったんですか?」

 そう言われたので、彼に向き合って

「北の地は食料なんてないぞ。いや、仮にあったとしても徴発なんてしてみろ、骨の髄まで恨まれて、平定なんてできるもんじゃない。住人を全員殺すとかするのかい?それこそ不可能だろ」

「言われてみればそうですね」

「それに馬車の動力になる馬は大食いだ。遠くにものを運ぶためには馬が大量に必要で、その馬に食わせるための飼料も運ばないといけない。おまけに整地なんてされていないから、馬車で運べる量だってたかがしれてる。ものを大量に届けるためには膨大な馬が必要で、その馬を養うためには膨大な飼料が必要で、っていう話になるんだよね。フランクさん。あなた知ってるでしょ」

「ええ、知ってましたよ。ちょっと試してみました」

 とフランクが悪びれもなくいってきた。

「意地悪だなぁ」

 と僕が笑った。

「公主様はなかなか聡明でいらっしゃる」

「ありがとう」

 ほめてもらったので、お礼を言っておく。


 ほんじゃぁまぁ、いきますかと兵士たちが待つ場所まで向かう。歩きながら、

「フランクさん。兵站、その他は僕が引き受けますので、存分に腕を振るってください」

 といった。


 フランクはわかりましたと頭を下げていた。

 

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