第5話 悪役令嬢の咆哮
アリス嬢をポルコが準備してくれた場所に連れて行った。
そこはドーム型の闘技場のようなところで、通常は冒険者ギルドの試験やもめごとの解決に使われているそうだ。
アリス嬢のお付きの執事とメイドがかなり不思議そうにしているが、当のアリス嬢は能面のまま僕の後をついてくる。
ーなにをされてもどうでもいいってかねー
絶望して無気力になるのはわかるが、このまま首でもくくられてしまったらこっちの責任問題・・・というより潰される口実になってしまうため、せめてふらっと自殺しない程度には立ち直ってほしいと思う。
そのために色々とスキルをもとにみんなが準備してくれているようだ。
役に立ってくれることを祈ろう。
「アリス様。こちらへ」
訓練場の真ん中へ彼女を案内する。
「こちらの手袋をつけてください」
彼女に手袋をわたす。この手袋は手の甲側に余分な布が縫い付けてある。いわゆる総合格闘技で使用するグローブの指先まであるよな手袋(?)になってる。
「これは?」
アリス嬢が聞く。
「手にはめてください。憂さ晴らしです」
「私に必要なものですか?」
「立ち直りたいのならはめてください」
彼女の眼をみて言う。ここで拒否するのなら別の方法を考えなくてはならず、最悪別荘に軟禁ってことにしないといけない。
逡巡したのちに彼女は手袋をはめた。
いつのまにかどっかの王子を模した等身大の布製の人形が置かれていた。中に砂が詰まっている。
「とりあえずぶん殴りましょうか。本人殴ると色々と問題があるのでこれで」
僕がそういうと彼女は眼を見開き、視線を人形と僕を何度か往復したのちに人形のほうを見た。
そして、上品に人形に歩み寄ると・・・見事な右ストレートを見舞った。
衝撃音の後にバネの力でその人形が起き上がる。
しばらくの静寂。そして
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!ふざけんな!!!あの糞王子!!!!」
アリス嬢の咆哮
「私が何歳からお妃教育を受けてると思ってるんですか!!!」
バシ
「この国のために!色々と頑張って!あなただってイケメンだけど色々ダメだけど、それでも愛そうとしたのに!!」
ドガドガ
「おっぱいか、おっぱいがいいのか!!!!」
ドガドガバキバキ
「それともやらせてくれる女のほうがいいのか!!!」
ドガドガバキバキ
ドガドガバキバキ
アリス嬢が存分にうっぷんを晴らす。アリス嬢のお付きの執事とメイドは眼を見開いて固まっていた。
そりゃそうだろうな。深窓の令嬢だったアリス嬢が鬼の形相でサンドバック(?)をぶっ叩いてるのだから。
「おお、見事なワンツーからの左のレバーブロー。顎が上がったところをアッパーと右フックで畳みかける。素晴らしいコンビネーション。これなら世界が取れる」
僕が半笑いで適当な解説をつける。
ちなみにヘラクレスはとなりでゲラゲラ笑ってた。
打撃音がしなくなった。
気が晴れたかと思ったが
「ロイスさん。これでおしまいですか?」
そうではなかった。
「いえ、あと5体ございます」
一瞬の沈黙後ホウという顔をする。そして
「ありがとう。気が利くはね。あと少し疲れてしまったのですが」
「それではこちらをお飲みください。冒険者の間で使われている疲れを取るポーションです。あと5本ございます」
「それはそれは、素晴らしいですね」
アリス嬢がとびっきりの笑顔を見せた。
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