第4話 頼りになる部下たち

 夕方、と言うにはまだ日が高い時間に本日泊まる予定の街に到着した。

 背の丈の二倍くらいの木の柵に囲われており、王都から西へ出発した商人や冒険者が最初に宿泊する街である。


 馬車が止まるやいなや扉を開けて、体をのばす。普通ならお付きの人が扉を開けるものなのだが、こっちの馬車は振動がじかに伝わるのでどうも居心地が悪い。

「相変わらずですな」

 デモンズが苦笑しながら僕より後に降りてきた。

「ケツが痛いんだから仕方ないよ。衝撃吸収されてない馬車はつらい」

「普通の貴族の皆様方は待つものですよ。ほれ、アリス様をごらんなさい」

 アリス嬢がのる馬車は、御者が扉を開け、イケメンの執事とメイドが先に降り、イケメン執事の手を取りながらアリス嬢がゆっくりと馬車から降りた。

「あれこそが公爵家の振る舞いというもの。それに比べてうちの坊ちゃんときたら」

 デモンズがこめかみを抑える。

「デモンズよ。仮に僕があのような振る舞いをしたらどうする」

「病気を疑いますな」

「当主の事をよく知ってる。僕はいい部下を持ったよ」

「お褒めに預かり恐縮です」

 褒めてねーよ、という顔をすると、デモンズの口角が上がる。

 全く、とっても頼りになる部下ですなぁ、と口の中でつぶやく。


 とりあえず、彼の事はおいといて、お目当ての人がいないかと見回す。


 ここでは、御用商人のポルコと護衛のヘラクレスと落ち合うことになっている。


「坊ちゃん!」

 格幅のいい頭が少しさみしくなったおじさんが僕に声をかける。

「ポルコさん」

「当主就任おめでとうございます」

 ボルコの頭が下がる。

「ありがとう」

「しかし、坊ちゃんは威厳が足りませんな。公爵家の当主なら、もっと威厳を発揮してもらいたいですな。『ポルコさん』などともってのほかですぞ」

「ポルコさん。僕がそんなことしたらどう思います?」

「そりゃー、病気になったとおもいますな」

 半笑いで僕に言う

「なるほど、とっても僕の事をわかってますね」

「公爵様に褒められると嬉しいですな」

 褒めてねーよ、という顔をすると、ポルコの口角が上がる。

 お前もかという、顔をしたが、流されてしまった。


 人望ないのかな、と思いながらため息とつくと、護衛騎士のヘラクレスが歩いてきて僕に語り掛けてきた。

「坊主、元気だったか」

 身長は他の人より頭二つ分の身長を持ち、筋骨隆々でかなり毛深い。頭を撫でられたら首が取れそうだ。

「ども、ヘラクレスさん」

 ちなみにヘラクレスというのは僕がつけた偽名だ。色々あって偽名が必要だったので、とあるギリシャ神話の英雄の名前をお借りした。

「これでお前も当主さまだな」

「はい、これからもよろしくです」

「しかし、坊主もひ弱だからな。当主たるもの剣術の一つも覚えてないとな」

「かりに僕が鍛錬を始めたらどう思います」

「そりゃー、病気になったとおもうな」

 半笑いで僕に言う

「なるほど、当主の事をよく知ってる。僕はいい部下を持ったよ」

「お褒めにあずかり恐縮です」

 褒めてねーよ、という顔をすると、ヘラクレスの口角が上がった。


ー僕は頼りになる部下をもったー

 これから起こりそうな不穏な出来事を彼らとともに乗り越えないといけない。


「できればみんなで生き残りたいね」

 そのつぶやきが街の喧騒に消えていいた。




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