第3話 追放の道中にて
卒業式の次の日、僕は自分の領に帰る馬車に揺られていた。
そして王子の「アリス嬢は疲れている。君のところで休ませてやってくれ」
というお願いという名の命令のおかげで、アリス嬢が乗っている馬車があとからついてきている。
流石に年頃の男女が狭い空間にいるのは世間体が悪い、というのは建前で、追放された人のどんよりな空気を味わいたく無かったと言うのが本音である。
これからほぼ半月かけて自分の領の境目の街、アイギスに向かうわけだが、色々とやらなければならないことが増えている。
「あ、坊ちゃん。当主就任、おめでとうございます」
執事のデモンズがうやうやしく頭を下げる。
「それもあったか」
「はい、卒業と同時に坊ちゃんが当主になることは決っておりましたから」
「だよね、でオヤジたちは?」
「はい。『ラブラブ新婚旅行、ダーリンとハニーの愛のランデブー、もしかしたら弟か妹が出来るかもね』旅行に出かけました」
「何だそりゃ」
なんだかな~と想うの半分、羨ましいと想うの半分。
オヤジとオフクロは恋愛結婚だったらしい。
オフクロは冒険者だったらしく、しかも戦士で身の丈のあるグレートソードをぶん回して戦っていた。
その姿にオヤジが惚れ込み、丁寧に誠実に真正面から猛アタックをしかけ晴れてお付き合いが始まり、順調?に交際が続き、晴れて結婚したらしく、生まれたのが僕と言うわけだ。
「新婚旅行ね。いいなぁ〜」
「坊ちゃんも早く見つかると良いですなぁ〜」
「学生期間に一度も女生徒に話しかけられなかった僕を舐めるなよ」
「血の涙を流しながら言わないで下さい」
デモンズがあきれてる。
まぁそれは別の話と僕はパンと手を叩く。
「さて、冗談はさておいて、情報のすり合わせとこれからの指針について話したい。出来るかな?」
「すでに手はずは整っております。本日、泊まる町の領主と話をつけておりまして、場所は確保済みです」
「流石」
「恐縮です」
「ところで」
デモンズが声をひそめる
「アリス様はどうしますか?」
「当人次第でしょ。聞きたいなら聞かせるし、聞きたくないなら聞かせないし。立ち直るのも泣いて時を潰すのも彼女しだいよ」
「手厳しいですなー」
僕は彼女の親でも恋人でもないからね
という身もフタも無いことを呟き、馬車から外を見た。
おそらくはこの景色も見納めなのだろうと思いながら。
外の景色はどこまでも平和で平穏で優しかった。
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