第17話 炎上
俺は自分のスマホでも掲示板を開いて、音切コロンのスレッドを訪れた。
そして過去ログから問題になった瞬間のコメントを見つけた。
◯
313:名無しのリスナー
「大変! この【画像】見て! 音切コロンが裏垢で男とゲーム実況してる!」
314:名無しのリスナー
「うるさいなー。もう眠いんだよ。デマはいらねえんだよ」
315:名無しのリスナー
「>>313 マジやん! IDが音切コロンと同じやんけ?」
316:名無しのリスナー
「これはユニコーン大激怒待ったなし!」
317:名無しのリスナー
「本物か?」
318:名無しのリスナー
「【画像】これで音切コロンのIDと
319:名無しのリスナー
「うわー。マジだよ。ショックだー。男は誰よ?」
320:名無しのリスナー
「>>318 というかお前ら音切コロンのガンハイIDなんて把握してるのかよ」
321:名無しのリスナー
「この男が音切コロンの彼ピ?」
322:名無しのリスナー
「音切コロンはJKだと言ってた。なら、まだ処女だ!」
323:名無しのリスナー
「>>322 設定だろ。中身はおばさん定期」
324:名無しのリスナー
「>>322 てか、今時の子は早いから」
325:名無しのリスナー
「>>324 やめろー!」
◯
これが早朝4時頃の出来事だった。
そしてコメントはどんどん増えて10数分毎にコメントが1000を超えたため、新しくスレッドが建ち上げられていた。
裏垢の音切コロンと一緒にプレイしていた俺のことはバレていないようだ。
俺はIDを晒していなかったのが功を奏したのだろう。
しかし、ネットでは俺のことを特定しようと動いているらしい。そしてペイベックス男性Vtuberの誰かと噂されている。
「ねえ、ネットではゼンだという噂もあるけど、大丈夫なの?」
菫が心配そうに聞く。
「ゼンのIDがバレても昨夜のIDとは違うから特定はされない」
「ガンハイって、ゲームでしょ? 裏垢って作れるの?」
「普通は無理だ」
「でも充君は2つ持ってるんでしょ?」
「それはスロッチ版とPC版だ」
昨夜のはスロッチでのアカウント。虎王子ゼンでゲーム実況するときはパソコンのアカウントでやっている。だからIDは違う。
「じゃあ、どうして音切コロンは同じIDで裏垢を持ってるの?」
「考えられるのは、スロッチ版のアカウントでPC版をプレイしたか、PC版のアカウントでスロッチ版をプレイしたかのどっちかだろうな」
ガンハイのIDはプレイ機によって作られる仕様になっている。これは何度も違法でアカウントを入手したものを垢BANするための措置だとか。
そのため一度でも違法でアカウントを入手したものはIDがブラックリストに記入され、二度とそのパソコンorスロッチでのプレイは不可能とされる。
しかし、それは他のプレイ機のアカウントを使うことは不正と勘ぐられ垢BANされるという危険性がある。
そのため引き継ぎ以外で別のアカウントを使用することはしないはず。
なぜ宮沢はそんな危険をしてまでこのようなことをしたのか。
もしくは別のやり方をしたのか。
俺の知らない裏垢を使う方法があるのだろうか。
「ねえ充君、この理不尽クレーンゲームの相手が怪しいって掲示板にあるよ」
理不尽クレーンゲームって、この前の?
そういえばあの時、宮沢はスマホで動画を撮っていた。
そして後日、音切コロンが紹介して人気が出たとか言っていた。
「まさかあいつ、あの時の動画を載せたのか?」
それで動画の男こと俺が音切コロンの彼氏ってことになってるのか?
もしその動画に俺の顔が映っていたら──。
◯
112:名無しのリスナー
「この【動画】の男か?」
113:名無しのリスナー
「>>112 男か? 男の声はしないぞ?」
114:名無しのリスナー
「理不尽クレーンゲーム? 本人じゃねえの?」
115:名無しのリスナー
「>>114 カメラの向きからやってるやつと撮ってるやつに別れてる」
116:名無しのリスナー
「だから、この動画も男と?」
117:名無しのリスナー
「おいおいデートって言いたいのか? やめろよ」
118:名無しのリスナー
「死体蹴りだー」
119:名無しのリスナー
「女友達かもしれないぞ」
120:名無しのリスナー
「ネナベかもね」
121:名無しのリスナー
「虎王子ゼンだったりして」
122:名無しのリスナー
「>>121 ゼンは男」
◯
俺は掲示板から
それは音切コロンが配信中に載せた動画で、身バレしないように加工されているが、確かにそれはあの時のものだった。
ぬいぐるみも音切コロンの声も同じだった。
というかなぜ俺は宮沢が音切コロンだと気づかなかったのか。
そりゃあ、Vtuberは声を作るがよく聞くと分かるはず。
気づかなかった自分が恥ずかしい。
「ねえ、宮沢とは連絡とれた?」
菫が尋ねる。
「いや、連絡がつかない」
先程から宮沢に連絡しようにも繋がらない。
「ペイベックスの方に問い合わせてみる?」
「そうだな。その方がいいな」
俺はマネージャーの羽村さんに連絡を取ることにした。
数回のコール後、
『おはようございます。どうかいたしましたか?』
「羽村さん、朝早くからすみません。ペイベックス女性Vtuberの音切コロンについて聞きたいことがあるんですが」
羽村さんは少し間を置いてから、
『それは今、炎上中のことですか?』
「はい」
『すみませんがそのことは……』
「もしかして音切コロンは宮沢優里ではありませんか?」
『え?』
「宮沢優里は俺のクラスメートなんです。それとガンハイの件ですが、あれ俺なんです」
『ええっ!?』
羽村さんが珍しく大声で驚く。
そのあと通話の向こうで『すみません、すみません』と誰かに謝罪する羽村さんの声が聞こえる。
そして小声で、
『もしかしてお二人はお付き合いしているんですか?』
「違います。クラスメートです」
『あ、そうですか。それは良かった』
「音切コロンは宮沢優里で合ってるんですよね?」
『ええ。彼女が音切コロンの魂です』
そしてほっとしたのか、
『でも、良かったです。あの件があなたで。クラスメートなら問題──』
羽村さんは気づいたようだ。
『駄目ですね。男性クラスメートでも男ってことでファンは怒りそうだし。同じペイベックスの男性Vtuberでも余計に駄目でしょうし。ちなみに向こうも貴方が男性Vtuber虎王子ゼンだと知っているのですか?』
「いえ、知りません。こっちも先程、宮沢が音切コロンと知ったくらいです」
『なるほどそうですか』
「それで宮沢と連絡がつかないんですが、羽村さんは何かご存知ですか?」
『同じVtuber課でも向こうは女性Vtuberですからね。詳しいことは何も。分かってるのは現在、音切コロンを呼び出しているくらいですかね』
「そっちにいるんですか?」
『たぶん。もしくはこっちに向かっているか』
炎上しているのだから呼び出して事情を聞くというところだろう。
『あなたは何もしてはいけませんよ』
「何も……ですか?」
『はい。SNSなどでもあの件のことは他言無用で。他人にも言ってはいけませんよ』
「分かりました」
『今は彼氏だので勝手に騒いでますからね。こちらが何を言っても聞いてはくれないでしょうし、邪推と妄想で尾ヒレがつくので無言が1番でしょうね』
もどかしいがそれが善良な行動なのだろう。下手に動けばこちらも炎上しかねない。
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