第18話 Vtuber課【羽村美希】

 私はゼンとの通話後、音切コロンとそのマネージャーに会いに隣の女性Vtuber課の部屋を伺った。

 そこで音切コロンのマネージャー雨宮奏を探したが部屋にはいなかった。


「どうしたの?」


 後ろからペイベックス女性Vtuber5期生のマネージャーを務める福原岬さんに声をかけられた。


「あっ、雨宮さんを探しているんですけど。彼女は?」

「隣部屋に……今で出てきたわね」


 ちょうど雨宮さんと音切コロンらしき少女が隣部屋から出てきた。

 私は福原さんに礼を言ったのち、彼女達に声をかけた。


「何か用?」


 雨宮さんが少し不機嫌そうに聞く。


「音切さんにちょっとね」

「私ですか?」

「虎王子ゼンを知ってる?」

「……ええ。男性Vtuberですよね」


 あれ? 反応がにぶいような。

 なんだ? 

 ……あっ!? 


「宇多川充! 元子役の五代昴を知ってるかな?」

「ええ」


 宮沢さんが訝しむ。


「ちょっと! どうして貴女が彼の名を知ってるの?」


 雨宮さんが一歩前に出て聞く。


「いや、そのね、私は彼のマネージャーなの」

「マネージャー? 貴女は虎王子ゼンのマネージャーでしょ?」

「だーかーら、その虎王子ゼンが宇多川充君なの!」

「えっ!? ええ!? 待って! そういえば元子役のVtuberがいるってのは聞いてたけど。それが虎王子ゼンだったのね」

「うっちーが……虎王子……ゼン!?」


 2人とも驚いているようだ。


「ねえ羽村さん、ちょっとこっち来て!」


 急ににっこり笑顔になった雨宮さんに腕を引っ張られ、隣部屋へ移動させられる。


「どこまで知ってるの?」


 部屋に入るや低い声音で雨宮さんに聞かれる。


「えーと、彼から電話があって、どうやら此度こたびの件は自分が関係あるってね」

「そう。貴女知ったのね」


 笑顔から氷の目つきになる雨宮さん。

 この人、怖い。


「それはつまり、雨宮さんは知ってるんですよね? くだんの音切コロンの彼氏の噂されているのが宇多川充だと」

「ええ。つい先程、彼女から聞きました」

「どうもすみません」


 と宮沢さんは私に頭を下げる。


「それで今後はどうするおつもりですか?」

「今はじっとして鎮火するのを待つだけね」


 そう言って雨宮さんは肩を竦める。


「宮沢さんは彼に連絡してあげて。心配してたよ」

「はい。謝罪の電話をいたします」

「……謝罪って。せいぜいプライベートで友達とゲームしてたのがバレただけでしょ。彼自身にも迷惑はかかってないし。そんなに重く考えないで」

「そうもいかないわよ」


 雨宮さんがきつい言葉で割って入る。


「女性Vtuberは異性との絡みは御法度。それを隠してやってたなんて大問題よ」

「すみません」


 宮沢さんは次に雨宮さんへ謝る。


「まあまあ」

「とにかく他言無用。下手に喋るとややこしくなるから。今はネットもリスナーも悪い方、悪い方へと話を進ませようとしているから気をつけるように。いいですね」

「「はい」」


 私も宮沢さんは頷いた。

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