第16話 ガンナーズ・ハイ

 8月1日18時になり、俺は自室でガンハイことガンナーズ・ハイにログイン。


 今日は宮沢とガンハイのソマリアイベントをプレイする約束をしているのだ。


 俺はイベント用に武器やアイテムを揃える。ネットでの事前情報によると今回のモンスターは焼夷弾系が弱いとのこと。さらにプレイヤーを麻痺させてくるので、アイテムも状態回復薬を詰め込んでおく。


 そして準備が完了すると俺は宮沢にディスコで連絡を取る。


「こっちは準備オッケーだ」

『了解。こっちも終わったよ』

「4人1組だろ。残りの2人は?」

『ルームでメンバー募集するつもりだよ』

「オッケー」

『そっちにルームID送るよ』


 ルームIDが送られ、俺は宮沢が作ったルームに入る。


 そして宮沢は残り2名のメンバーを募集。そして野良プレイヤー2人がメンバーになり、俺達はガンハイのソマリアイベントに挑戦した。


「それじゃあ行くか」

『オー! ガンガン、ソマリア武器をゲットするぜ!』

「かなり意気込んでるな? お前って、そんなにソマリアキャラ好きだったか?」

『え? 普通に好きだよ。女子で嫌いな子はいないよー』


 俺達はメンバーに対して『レッツゴー』のスタンプを送信した。メンバーは『よろしく』とか『参戦』というスタンプで返信してきた。


 ソマリアにはプレイヤーとはスタンプと通話によるコミュニケーションツールがあるが、今回は無言のルームを作ってのチーム編成のため俺達は相手に対してはスタンプでコミュニケーションをとることにした。


 そして宮沢との通話はガンハイのものではなく、ディスコを使ってのもの。俺達だけ通話ってのも失礼な気もするが致し方ない。


  ◯


『この人たち、ランク高いけどちゃんと参加してくれているね』

「そうだな。ソマリアマニアなのかな?」


 今回のイベントはご新規さん用に簡単なもので、常連ややり込みプレイヤーからしたら物足りない仕様となっている。

 そのため中級者以上のイベント参戦者は非常に少なかった。


 しかし、ルームを作ると不思議なことにランクの高いプレイヤーがメンバーになった。


『かもね。ガンハイは女性プレイヤーも多いしね』

「プレイヤーネームを見ると男っぽいんだが」


 それにアバターも男性だ。


『ネナベかもしれないよ』

「まじか?」

『そういえば虎王子ゼンもネナベ説があるらしいよ』

「デマだな」

『なんで?』

「いや、別に」


 その後、俺達はイベントモンスターを狩ってポイントを手に入れる。

 イベントモンスターは情報通り、焼夷弾が弱い。さらに麻痺系の状態異常を付与してくる。


『情報様々だね』

「しかし、どうして情報通りなんだろうな。関係者の誰かがリークしてるのか?」

『公式がネットでヒントを与えているから。それでじゃない?』

「へえ」


 それから順調にイベントモンスターを狩るがメンバーは時折、抜けたりして、その都度宮沢はメンバーを募集して、そしてメンバーが集まっては狩りに出かけた。


 21時には食事のため一旦休憩。22時には再開して、24時に終了した。


「ふう。お疲れ」


 俺はコントローラを置いて、肩を揉む。


『お疲れ様。いやあ、今日はありがとう。限定イベント武器やアイテムも今日でコンプしたよ』


 そして宮沢は深く息を吐いた。


 合計5時間。くたくただよ。目薬を差して目を瞑る。


「今更なんだが、イベント期間は1週間だろ? 分割してやれば良かったのでは?」


 今日のように5時間ぶっ通しでやるより、1日1時間やれば良かった気がする。


 それに1日くらいだったら白石にも手伝わせることができたかもしれない。

 この前の映画の詫びをしろと言えば、手伝ってくれると思う。


『まあ、それもありだけど、お盆の頃に夏の水着イベントがあるでしょ? それを合わせると大変じゃない。イベント前に練習とか情報収集とかしないといけないし。下手したら夏休みはガンハイばっかだよ。私だってやることは色々あるんだから』

「ハハッ、それは確かにキツイな」


 夏休みをガンハイばかりやっていたら、この前に買った新しい水着は着られることなく、タンスの肥やしになってしまう。


『でしょ? だからソマリアイベントは今日中に終わらせたかったの』


  ◯


 翌朝、菫は急に俺の部屋に入ってきて、ベッドで眠る俺をゆすって無理矢理起こしてきた。


「起きて! 起きて!」


 菫が俺の肩を揺する。


「……ううっ、なんだよ。俺は昨日のガンハイで疲れているんだよ。てか、勝手に入ってくるなよ」


 互いに部屋はノックなしで入るなという決め事がある。それを破って菫はやってきた。


「そんなことより大変なんだよ」


 今度は肩を叩いてきた。


「大変って、なんだよ?」


 俺はのっそりと起き上がって菫に向く。


「これ見て!」


 菫はスマホ画面を俺に向ける。


「なんだよ……ええと、音切コロン、オフで男とゲーム三昧……ファンを裏切る行為」


 菫が見せてきたのはとある掲示板だった。

 その掲示板に書かれている音切コロンはペイベックスの女性Vtuberだ。確か6期生だったはず。


「それは大変だ。俺は寝る。起こすな」


 俺は再度ベッドに横になり、二度寝を始めようとする。


「駄目! ちゃんと見て! ここ!」

「んん!? なんだよー、もー!?」


 俺は菫のスマホを掴み、横になりつつ画面を見る。


  ◯


 541:名無しのリスナー

「やばい。この【画像】見る限り、オフで男とガンハイしまくじゃねえか!」


 542:名無しのリスナー

「ルーム募集かマッチングだろ?」


 543:名無しのリスナー

「>>542 こいつだけ、ずっといるんだが」


 544:名無しのリスナー

「>>543 たまたまだろ?」


 545:名無しのリスナー

「>>544 最後までいた模様」


 546:名無しのリスナー

「【画像】これは男だな」


 547:名無しのリスナー

「誰か嘘だと言っておくれ」


  ◯


 この546の奴はガンハイのスクショ画像を載っけている。


「ん?」


 その画像を見て、俺は驚き、起き上がる。眠気も一気に覚めた。


 スクショ画像はガンハイの女性プレイヤーのアバターと男のアバターが写っている画像。


 そしてその男は──俺だった。

 なら、ずっと一緒にいた音切コロンとは──。


「ええっ!? 宮沢が音切コロン!?」

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