第15話 買い物

 今日は菫と水着を買いにゼノンモールに来ていた。


「あら? うっちーじゃん?」


 ゼノンモール内を歩いていると宮沢に遭遇した。


「お前、何やってんだ?」

「買い物。うっちー達は?」

「水着を買いに」

「あ、奇遇だね。じゃあ、一緒に行かない?」

「菫、いいか?」


 俺は菫に聞く。


「いいよ」

「なら、一緒に行こうか。というか女子がいてくれて助かる。男の俺には女物の流行りなんて知らないからな」

「エロいやつを買えばいいんだよ」


 宮沢がサムズアップして答える。


「おいおい妹にエロい水着をチョイスかよ」

「ん? 妹?」


 菫が首を傾げる。


「おいおい、お前、妹だろ」

「……ああ、うん。そうだね」

「どうした?」

「別に」


 なぜか菫は不機嫌そうに明後日の方向へ顔を向ける。


  ◯


 水着売り場に着いて俺は気づいた。

 どう見ても男子禁制じゃねえか!

 御禁制の領域展開してない?


「じゃあ、俺は男性水着を見てくるわ」


 俺は逃げるように言う。


「え? 昨日、いらないって言ってなかつた?」

「……その、なんか俺がいるのは場違いだろ?」

「いいんじゃない? 別に」

「そうだよ。うっちー。今は人が少ないから問題ないよ」

「いやいや、水着を選んでから俺を呼べ」

「試着の時に呼べと?」

「うっちー、やらしい」

「待て。別に絶対試着しろとは言わない。気に入ったものが見つかったら呼べ。もしくは意見が欲しかったら」

「「ふーん」」


 俺は男性水着売り場に向かう。

 そして買う気はなかったが一応は水着を買っておいた。


 ちょうどレジで精算を済ませたところで菫からスマホで連絡があった。


『意見欲しいから来て』

「すぐ行く」


 そして女性水着売り場に行くと菫と宮沢がいくつかハンガーにかけられた水着を持っていた。


「それじゃあ、試着するから来て」

「試着するの?」

「まあね」

「じゃあ、まずは私からいこう」


 宮沢が試着室に入る。


 ん? 2人同時ではないのか?

 その方が早いような気がするが、2人同時に試着となると俺は独りで女性試着室の前で待たないといけない。

 それは気まずい。


 衣擦れ音を聞きながら待つと、


「着替えたよ。そこにいる?」

「おう。いるぞ」

「ジャジャーン!」


 カーテンが捲られ、水着を着た宮沢が現れた。


「ど、どう?」


 宮沢は自信満々にカーテンを開けたくせに急に一歩引いて小動物化する。


 俺は上から下まで見て、「良いんじゃないか?」と答える。


 フリルのついたワンピースタイプで、柄はピンク地に白の玉模様。


「そ、そう? なんか子供っぽくない?」

「子供っぽいがお前に合ってる」

「それ褒めてる?」

「褒めてる」

「早坂はどう?」

「う〜ん。別にワンピ型が悪いわけではないんだけど、やっぱ玉模様がね。それは高校生にはきついね」

「そっか。では、次のを着るね」


 宮沢は少し肩を落として、カーテンが閉じる。


 衣擦れ音が終わり、


「えー、開けるよ」

「ああ」


 シャッとカーテンが引かれると今度は色気のあるビキニタイプの水着を着た宮沢が現れた。色は黄色でトップにはフリル。


「どうよ!」


 顔を少し赤らめて宮沢は問う。


「似合ってるよ」


 胸の方は少し心許ないが似合ってはいた。


「胸、ないけどいいかな?」


 おっと。心の声が出てしまった。


「早坂さんは?」

「すごくいいと思うよ。さっきのより断然良いよ」

「そっか」


 菫の意見を聞いて納得したらしい。

 なんか腑に落ちんな。


「よし。これにしよう。それじゃあ、服に着替えるね」


 そして宮沢が服に着替え、試着室を出る。


「次は早坂の番だね。頑張ってね」

「が、頑張るって何がよ!」


 菫が試着室に入り、水着に着替え始める。


「いやあ、こっちの方が一目惚れでさ。良かったよ」


 菫の着替え中に宮沢が黄色の水着を掲げて俺に言う。


「本命だったのか?」

「うん」


 そして試着室から、菫が顔を出し、か細い声で、


「き、着替えたんだけど」

「ああ。見せろよ」

「え、あっ、えっと……」


 なぜ狼狽える?


「早坂、駄目だよ。ここは見せなきゃあ」


 宮沢がカーテンを引く。


「ひゃっ!」


 カーテンが引かれて、黒と白のビキニの水着を着た菫が──。


「「えっろ!」」


 俺と宮沢は声をハモらせて言った。


「エロいってなによ!」


 菫は胸元を隠して抗議する。


「いや、すごいよ。褒めてんだよ」

「早坂って、胸が大きいんだね。サイズが大きいのを探してたけど、まさかこれほどとは」

「破壊力すごいよ」

「もう着替える!」

「待て待て。いいのか? それで?」

「え?」

「お前は気に入って、それを選んだんだろ?」

「うん」

「なら、ちゃんと見せてみな。俺は嘘偽りなくちゃんと評価するから」

「私も。笑ったりはしないよ」


 宮沢も真剣な顔で言う。

 だが、それは建前であった。


「分かった」


 と言い、菫は胸の前でクロスしていた腕を解く。


「「でかいな」」

「ねえ? ちゃんと見てるよね?」

「見てる。似合ってるかどうかちゃんと考えてる」

「私も」


 しかし、黒地の上に白地が覆ったタイプでエロい。


「ねえ、後ろ向いてくれない?」


 と宮沢は聞く。


「う、うん」


 菫はゆっくりと後ろをこちらに向ける。


「「……」」


 黒のストリングタイプのTバック、その上に白のアンダー。


「どうしたの? なぜ無言?」

「いや、なんて言うか、その、この水着は大人のナイトプール用と言うか……」

「ナンパされるのを目的とした水着だね」


 そう。エロすぎなのだ。


「ええ!? そうなの!?」


 菫が驚いて振り返る。


「ああ。これは高校生が着る水着ではない」

「ビッチ大学生専用水着だよ」

「ううっ、じゃあ、やめる」

「次のを着な」


 菫はカーテンを閉め、次の水着へと着替え始める。


「やばかったな」

「うん。破壊力ありすぎ」

「兄として、もう少し抑えさせないと」

「あの巨乳を抑える水着か」

「2人とも聞こえてるわよ!」


 そして着替え終わった菫がカーテンを引く。


「これはどうよ!」


 次は緑のビキニタイプ。


「おっ! いいんじゃない?」

「うん。エロスを抑えてるよ。これならビッチ臭はないよ」

「でもギャルだしな」

「奥手なギャルって感じでいいんじゃない?」

「ねえ? 2人ともちゃんと見てる?」

「「見てる、見てる」」


 その後、菫はもう一つ水着に着替えたが、それは黒のモノキニで、本人もセクシーと感じたのか、2着目の緑のビキニ水着を選んだ。


  ◯


 水着を買った後、俺達はゲームコーナーに寄って少し遊んで帰ることにした。


「なんかあそこ人だかりがあるな」


 俺はゲームコーナーのあるエリアを見て言う。


「ああ、それはたぶん理不尽クレーンゲームだよ。音切コロンがプレイ動画をアップして、話題になったんだよ」

「理不尽クレーンゲーム……ああ! あれか!」


 俺は宮沢に目を向ける。


「う、うん。あれだね。へえ、話題になったんだ」


 どこか歯切れ悪く宮沢は言う。

 なんだ? うれしくないのか?

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