第13話 焼き肉

 収録の後、俺達2期生は久々に皆で食事に出かけた。

 ロメオ先輩も誘ったが、先輩は1周年記念振り返りクイズ大会後に別の収録があるため2期生だけとなった。

 場所は個室有りの焼き肉食い放題店。


「では、みなさん、今日はお疲れ様でした。かんぱーい」

「「「かんぱーい」」」


 そして皆は飲み物に口をつける。

 俺はコーラで他の皆はビール。

 こういう時だけ、なんか疎外感を少し感じる。


「さあ、どんどん焼くで」


 肉奉行係のニグがトングで肉を掴み、網の上に置いていく。

 肉がジュワーと音を立てて焼かれていく。


「他欲しいのあったら頼みや」

「それじゃあ、ポテト頼もっかな」


 とハルヒが言うと、カガリが、


「食べ放題でポテトは罠だぞ」

「なんでだよ」

「ポテトは腹が膨らむからな。しかも肉と比べて安いから店側が得する。あと、ご飯の系も気をつけないといけないぞ」

「でも俺は食べたいんだ!」


 ハルヒはテーブルに備え付けらている端末を操作してポテトを注文。


「ついでにビビンバも注文して」

 と俺は頼んだ。


「オッケー」

「うちはハンバーグ」

「はいはーい。……え!? ハンバーグ」

「そうそう。さっき、注文する時に当店自慢のハンバーグがあったから」

「皆、俺の話聞いてた?」

「まあまあ、いいじゃん。好きなものを頼んでも。肉も頼んどくよ」


 そしてポテト、ビビンバ、ハンバーグ、カルビが届いた。


「せや、この前な、ネットで焼き肉屋でハンバーグを注文する男は駄目ってのがあったんやけど。どう思う?」


 ハンバーグをナイフで切りつつニグはそんなことを皆に聞いてきた。


「ああ、あったな。ハンバーグ食う奴は子供舌って。俺は別にいいと思うぞ。肉屋のハンバーグは美味いし」

「俺も。好きなものを食べていいと思う」

「そうか。ゼンは?」

「俺は……いいとは思うけど、女性は違うらしいから、今後は女性がいる時やデートの時は避けるかな」

「おっ! ゼンは女子と食べに行くことがあるんか?」

「そりゃあ、クラスの女子とか」

「ん!? それって女子とデートか?」


 肉を食べてたカガリが手を止めて、聞く。


「違う。皆でファミレス行く時、女子がいたりするだろ?」

「ええ!?」


 なんだそれはといった感じでカガリは驚く。ハルヒとニグも同じ反応だった。


「いや、あるだろ。同じ趣味の女子がいてさ」

「ないな」


 ハルヒとニグもうんうんと頷く。


「うちの時はオタクなんて隠れてたからな。ギャルゲーなんて、やってるって知られたら絶対キモがられるしな」


 ニグが遠い目で語る。


「それに青年漫画は語れど少年漫画は語れなかった」


 ハルヒも溜め息交じりに語る。


「へえ」

「ええな。お前はこんな時代に生まれて」

「ニグ、それを言ったらもうおっさんだよ」

「実際、もうおっさんだしな」


 ニグは自虐的に笑う。


「それにこっちはコロナ禍で大変だったんだから」

「その分、家でゲームし放題やろ。家で文句も……って、ゼンは子役やったな。すまん」

「いいよ」

「ま、今はゲームしても文句は言われないんだ。どんどんやって、どんどん配信するぞ」


 そう言ってカガリはジョッキを掲げる。


『おー!』

「でも、同接少ないんだよなー」

「カガリ、秒でそう言うことを言うなよ」

「せや。とことん突き進むしかないんや」

「だな」

「ほら、どんどん食べよ。肉も焼けてるよ」


  ◯


「で、ゼンは女子とはどんな話をするの?」


 とカガリが聞いてきた。


「え?」

「漫画の話?」

「まあ、漫画だよ。あとガンハイの話とか」

「ガンハイ……ああ! ガンナーズ・ハイか」

「そうそう。その子、ガンハイやっててさ。その話とか。そうだ。漫画といえばその子、BLとか読んでるからオススメを聞いておこうか?」

「BL? ああ、罰ゲームの」

「やらなあかんのか」


 2人はげんなり声で呟く。

 カガリとニグは1周年記念振り返りクイズ大会の罰ゲームでBL小説の朗読をしないといけない。


「その子は腐女子なのか?」


 とハルヒが聞く。


「たぶん……かな? 色んな漫画が好きなだけかもしれないけど」


 でも少年とショタの違いを語ってた。

 あれ? 違ったっけ?

 あれは桜町メテオの言葉を使っただけか。


「BLの話とかするの?」

「いやいや、しないよ。少年漫画の話をするよ」

「ええな。少年漫画を語れる女子」


 ニグが羨ましいそうに言う。


「最近は女子に人気の少年漫画が多いからね」

「『呪殺の刀』に『鬼殺開戦』だっけ? 双方ともアニメ化にゲーム化、劇場公開もしてるし、すごい人気だよなー」


 ハルヒが肉を食しつつ言う。


「その女子とはカラオケとかファミレスとかボーリングとか行くんか?」


 ニグが聞く。


「行くよ」

「うおっ! 眩しい!」


 カガリが眩しそうに目を細める。


「ほな告白とかそういうイベントはあるんか?」

「う〜ん? 俺の周りでは聞かないなぁ。皆はどうだったの?」

「あるわけないやろ」


 ニグの言葉にカガリとハルヒがうんうんと頷いている。

 どうやら寂しい青春を送っていたようだ。


「10代は後悔せんように生きや。安易に楽できそうな道を選ぶと痛い目にあうで」

「ニグ、酔った? 発言が年寄り臭いよ」

「まだ一杯目。酔ってない!」


  ◯


「『ガンハイ』って、知ってるでしょ。あれでソマリアとコラボするらしいよ」

 俺は『ガンハイ』のことを話した。

「知ってる。ご新規さんのやつでしょ」


 そう言って、ハルヒがジョッキをテーブルに置く。


 どうやら周りも『ガンハイ』のソマリアコラボはご新規さんイベントと認識しているのか。


「それがどないしたん? 配信するんか?」

「違う。今度、クラスメートと一緒にやるんだけど。どう?」


 次は4人1組で行うハントイベント。宮沢と俺で残り2人。

 そこで俺は皆を誘ってみようとしたのだ。


「ごめん。俺は1期生の先輩とやることになってんだよ」


 ハルヒがどこか溜め息交じりに言う。


「どうした? 嫌なのか?」


 カガリが尋ねる。


「嫌ってわけではないよ。でも、あれってご新規さんイベントでこれといって得るものがないんだよね」


 ハルヒが頬杖をついた。


「じゃあ、なんでやるんだ? 誘われたから?」

「ん〜。ソマリアって女子に人気だから、もしかしたら女性Vtuberとお近づきになれるかもって言われてさ」

「なるほど。で、誘われたお前は先輩と『ガンハイ』のゲーム実況をすると」

「そういうこと」

「ゼンは……ん? もしかしてそのクラスメートって、さっき言っていた女子?」


 そう言って、カガリは眉をひそめた。


「そうそう」

「待て待て、駄目だろ。外の異性とは付き合いNGだぞ」

「大丈夫。Vのアカウントではないし。配信もしない。完全なプライベート用」

「プライベート用でも気をつけろよ。IDは見せるなよ」


 V用とプライベート用はIDが同じ。もし他のプレイヤーにIDを見られたらバレる可能性がある。


 ただし、それは相手がゼンのIDを知り、他のプレイヤーのIDを見つけては調べている奴だ。


 人はそれを特定班と呼ぶ。

 Vの魂こと正体について知りたい連中。


 そして彼らにバレるとネットにあげられ、拡散される。


 ID一致で裏垢がバレてしまい炎上したVtuberは少なからずいる。


「分かってるよ。で、カガリとニグはどうなの? あと2人、メンバーに欲しいんだけど」

「俺はパス」

「うちもや。野暮なことはせえへん」

「野暮?」


 尋ねるもニグは答えず、ニヒルな笑いを浮かべる。

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