第5話 水着

 そろそろ寝ようかなというとき、ドアがノックされた。


「どうぞー」


 ドアを開けて部屋に入ってきたのは菫だった。

 義妹になり一緒に暮らすようになったのだからクラスメートのギャルがやってきてもおかしくはない。


 けど──。


「お前、なんで水着を着てんだ」


 そう。菫はピンク色のビキニタイプの水着を着ていたのだ。

 意外と胸があるせいか水着で押さえられている胸がきつそうだ。


 どこぞのグラビアか?


「いや、キャンプに行くっていうからさ。去年の水着どうかなと思って着てみたの」

「山だろ? 川で泳ぐのか?」

「海キャンじゃないの?」

「そりゃあ、どこ行くかは決めてないけどさ」

「去年の水着なんだけど、どうかな?」

「胸のとこがパツンパツンだけど」

「うーん。大きくなったせいかな。きついんだよね。やっぱ新しいの買うべき?」

「カップ数は」

「去年のDだったんだけど2カップ……何聞いてるのよ! エッチ!」


 菫は胸を両腕で隠す。

 なるほど今はFか。


「いや、かなり窮屈そうだから心配してだよ」

「本当に?」

「そうだよ」

「ふうん。で、どう?」

「どうとは?」

「似合ってとか?」

「そういうことか」


 菫はポーズをとった。


「どう? 魅惑のボディでしょ?」

「それ自分で言うか? ま、プロポーションは良いよな」


 出るとこは出て、引っ込むとこ引っ込んでる。着痩せするタイプだな。


 そして菫が胸を張るようなセクシーなポーズをとった時だ。首後ろに回してくくった紐がほどけて胸の水着がポロリと落ちた。


「きゃあぁぁぁ!」


  ◯


 夏休みだというのに俺は早く目が醒めた。

 そしてリビングに向かうと菫がいた。


 菫はキッチンで何か料理していて、窺うと目玉焼きを作っていた。

 父と薫子さんは仕事で出て行って、今は2人きり。


 昨夜の件もあり、なにか気まずい。


 俺はトーストで食パンを焼き、焼ける間はダイニングチェアに座る。


 すると対面に菫が座った。皿には焼けた食パンとベーコン、目玉焼き。

 菫は黙って食パンにバターを塗る。


 食パンが焼ける3分が待ち遠しい。

 やがてチンと音が鳴り、俺は食パンを取りに行く。


 皿には乗せず、手で食パンを持ってダイニングに戻り、バターを塗る。


「皿を使いなよ。テーブルにカスが落ちる」

「大丈夫。落とさないよ」

「落ちてるじゃん」


 菫はテーブルを指す。そこには俺が落とした小さいパンのカスがあった。


「ちょっとくらいはいいじゃん」

「あとで拭いてね」

「はいはい」


 そして俺はバターを塗った食パンを食べる。すると菫が、


「水着の件だけど……」

「あれは不可抗力だ」


 すかさず俺は答える。


「それはもういいの。ただ、水着が小さくなったから買いに行こうと思うの」

「そうか」

「で、一緒に買いに行かない?」


 胸を見たお詫びだ。買い物くらい付き合おう。


「いいよ。いつにする?」

「今日はムッチン達と約束があるから」


 ムッチンとは有村睦美のことで、クラスメートかつ菫と同じギャル女。


「俺も今日は白石達と遊ぶ約束があるから無理だ」

「どこ行くの?」

「ゼノンモール」

「え、私達も」


 ゼノンモールは複合型ショピングモールで半分はショッピングエリアで、もう半分はアミューズメントエリアとなっている。アミューズメントエリアには映画館、ボーリング場、バッティングセンター、ゲームセンター、カラオケなどがある。


「俺達は午前11時からの映画だけど。お前達も?」

「私達は昼から集まってカラオケ」

「そっか」

「ねえ、どの映画観るの?」

「『魔法少年マナカ・マグラ』だ」

「いいな。私も観たいな」

「知ってるのか?」


 魔法少年マナカ・マグラはオタクアニメだ。ギャルが知ってるとは意外だ。


「知ってるよ。てか、『マナカ』はオタクアニメじゃないし。一般の人でも知ってるよ」


 そうだった。『魔法少年マナカ・マグラ』は可愛らしい絵柄には似つかわしくない濃厚なストーリーで話題を呼び、一般の人にも知れ渡った大人気作だ。


「…………というかお前、隠れオタクだろ」


 菫はクラスメートでギャルで俺のVママであり、隠れオタクでショタコン。どんだけ属性を詰めてんだよ。


「隠れオタクじゃないし。普通だし」

「確かショタコンなんだろ?」

「違うもん」

「ネットにショタ絵大量投入してるだろ」


 この前、こいつのアカウントで投稿サイトを見てみたらショタ絵が多かった。


「見ないでって言ったのに! てか、ショタじゃないもん! 少年が好きなの!」

「同じだろ?」

「違う!」


  ◯


 着替えを済ませ、外出する時に菫から、


「私、遅くなるかもしれないから鍵は持っておいてね」

「分かった。……というか遅くなるって、夜とか?」

「分かんない。カラオケのあと、ファミレスで駄弁るかもしれないし」

「というか、有村達と水着も見てこいよ」


 女の子同士なら良い意見もあるだろうし。


「駄目。絶対、胸のことイジられるし」

「ふうん。ちなみに有村達とはプールに行ったりはしないのか?」

「一応、予定は入れてるよ」

「じゃあ、それまでには買わないとな」

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