第4話 雑談配信②

『俺さ思うんだけど』


 ふとハルヒがどこか真剣な声音で語り始める。


「ん? 何?」

『レジ袋自販機を作るべきなんだよ』

「は?」


 レジ袋自販機? なんだそれは?


『分かる』


 ニグはハルヒの言葉に同意する。


「ええと、詳しく」

『つまりエコバッグ忘れた時、持って帰らないとダメだろ? 一つ二つなら問題ないけど沢山となると大変じゃん』

「レジ袋を頼めば?」

『いやいや、それが会計したあとなんだよ。忘れたって気づいたのは。で、その時はもう遅いだろ?』

「……そうだね」


 会計後にレジ袋を買うことはできないもんな。


『そういう時、どうする? もう一回レジに並ぶか?』

「ん〜? どうだろう? そういう経験ないから。ハルヒの言う通り一つ二つなら持って帰るかな? 沢山あったら並ぶ?」

『でも、それって嫌だろ? 周りにあの人、エコバッグ忘れたんだとか思われるし』


 そしてハルヒは嘆くように息を吐く。

 これってもしかして経験談?


「まあ、恥ずかしいよね」

『だから! レジ袋自販機をレジ近くに設置すべきだ! もしくはサービスカウンター近くに置くとかさ』

『よく言った!』


 ニグは拍手する。


「でも自販機を設置するといってもさ、値段はどうなるの? レジ袋って、小さいので3円、大きいので五円くらいでしょ?」

『? それでいいんじゃないの?』

「いや、だからさ、3円のために自販機作る?」

『なら10円でレジ袋2枚とか』

「10円の自販機? 作るかな?」

『おいおい、ゼン、昔は10円ガムの自販機もあったんだぞ。丸いガムでさ。ころころ転がって出てくるんだよ』

『せや10円ゲームとかもあったんやぞ!』


 10円ゲーム? コインゲームのことかな?


「へえ。昭和時代って、そんなのあったんだ」

『平成……だ』

『……平成初期まではあったな。……あったはずや』


 2人は声を小さくして答える。


「ふうん。僕は見たことないや」

『くっ!』

「まあ、レジ袋自販機を作るなら10円ってことだね」

『それと有人レジを亀さんレジとか言うな!』

「亀さんレジ?」

『近くスーパーのレジでさ、有人レジを亀さんレジ、セレフレジをウサギさんレジって書いてる看板があるんだよ』

『最近セルフレジ増えたよな』


 ニグが溜め息交じりに言う。


「そうだね」


 そういえばカガリとのコラボの時もセルフレジの話をしたよな。

 皆、セルフレジに一言申したいことがあるんだろうか。


『最近はチラシでなくてアプリで広告出してるやん?』

『そうそう。資源のためにチラシを減らしてるんだっけ?』

『しかもアプリのモバイル会員ってやつ? あれをやらな割引してくれへんしさ』

『俺の親も結構な歳だからさ大変だよ』

『SDGsかなんかしらんけど、前の方が良かったわ』

『そうだね。昔は良かったなー』


 2人に同意してあげたいけど、ここでいう昔ってだいぶ前の話なんだろう。10代の俺にはあまりよく分からない話だ。


  ◯


『……というのが、あってさー 。もー嫌になっちゃう』


 ハルヒがここ最近に遭った不幸話を語り、大きな溜め息を吐く。


『分かるわー』

「2人共大丈夫? かなり酔ってない?」


 2人は途中から酒を飲み始めたのでへべれけ状態。


『ゼンはいない? こういう人は嫌いっていうの』


 ハルヒの質問をスルーしたかったが、コメント欄にも『気になる』とか『どんな人だろう?』との書き込みが見られたので、


「う〜ん。不幸話にしないと信じない人かな?」

『何それ?』

「えっと、今日こういうのがあったと言うと、『嘘つけ』とか『出鱈目言うな』とか言う人。その癖、それで嫌なことや不幸な目に遭うと大笑いして、かつ周りにぺらぺらと話す奴」

『ニグか』

『なんでやねん』

『ニグって、絶対初めに嘘やろって言うでしょ?』

『言うけど。……えっ! 俺のこと?』

「違う違う。ニグじゃないよ。ニグのは驚きの意味での『嘘やろ』でしょ? 僕が言ってるのは突き放すかのような否定的な『嘘つくな』だよ」


 ちなみにこれは俺がタレントとしてテレビ番組に出た時のとある芸人のこと。

 その芸人はなぜか俺を目の敵にして、俺の話にいつもケチをつけていた。そして落ちとして不幸に遭ったことを話すと馬鹿みたいに笑う。


『でも、それ分かる。そういう人っているよな。ここで嘘をつく必要も、場面でもないのにガミガミ文句言うやついるよな。その癖、自分のことは信じろみたいな』

「うんうん。面倒くさいよねー」


  ◯


「と、いうわけで今日の配信は終わりでーす」


 時間がきたので雑談配信を終わらせる。


『ええ!? 晩酌雑談終わりか?』

『せや! もうちょっと話そうや!』

「いつから晩酌雑談になったんだよ!」


 配信をめようとしたら、ハルヒとニグが文句を言う。


「最後に何か言うことあったっけ?」

『クイズのやつは?』

『あれか。今度やるって言うてたな』


 そうだ。忘れてた。


 俺はリスナーに向けて、


「えー、実は1周年記念ということで1年振り返りクイズというのを配信します。内容は文字通り、デビューしてからの1年を振り返って作られたクイズです。予定日は7月27日土曜日18時から配信となっています。3Dモーションでの配信ですのでお楽しみに〜」

『振り返りか。なんか恥ずかしいというか怖い』

『恥ずかしいポンとかクイズに出そうやな』

「アーカイブを確認しないとね」

『27日か。カガリはこれるのかな?』

『大丈夫やないか? 知らんけど』


  ◯


 配信後すぐにスマホにカガリからお詫びとクイズ配信は出るという旨のメッセージが届いた。


『喉は大丈夫なのか?』


 とメッセージを送ると、


『大丈夫。ワラビアナで叫び過ぎただけだし』


 ワラビアナはつい最近発売されたホラゲーでかなり怖いとか。で、カガリはそれをプレイして叫び過ぎて喉を枯らしてしまったらしい。


『ゼンも切り抜きのためにやるように』

『クイズ後にやるよ』

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