第2話 夏休みの計画
「それじゃあ、皆、じゃあねー!」
俺は配信を終えて、パソコンをシャットダウン。
その後、椅子に座ったまま両手を上に伸ばして、体をほんの少し左右に傾ける。
「疲れた」
結局『路地裏ファイターズ』ではボコボコにされて終わった。
ペットボトルのミネラルウォーターを一口飲んで、俺は部屋を出る。
それと同時に隣の部屋から菫がドアを開けて出てきた。
「お疲れ」
「おう。お疲れ」
「配信見たよ。さっきのは酷かったよね。レートを変えてもボコボコだったじゃん」
階段を下りつつ、菫が言う。
「ああ」
「ゴースティングとか……ええとスナイプだっけ? 粘着して嫌がせするのはムカつくよね」
ゴースティングは相手の配信を見つつ、相手の状況を知った上で邪魔をする行為。スナイプはマッチングすること。ただしスナイプでもストーキングなどの迷惑行為も存在する。
今回の場合はマッチングをメインとしたスナイプだけど、一部はレートを操作して不得意な者に粘着してくるからゴースティングにも相当するだろう。
「だな。ま、これも配信者の宿命みたいなものだよ」
「でも人気Vtuberならまだしもゼン君だよ」
「悪かったな。不人気Vtuberで」
「あっ! そういう意味ではないの!」
Vtuber業界では男性Vtuberより女性Vtuberが人気。
ほぼ同時期にデビューした4期生のペイベックス女性Vtuberと比べるとチャンネル登録者は少なく、後輩の5期生にも負けている。
そのためついこの前ではリストラも浮上したくらいだ。
その後、なんとか登録者30万人を突破したことにより、回避することに成功。
それでも本社はまだ男性Vtuberの存在に対していい顔をしない。
「ただね。あまりにも悪質なプレイヤーが多かったから」
「だよな。なんかいつもより多いような気がした」
「でしょ!」
いちいちレートを下げてまでマッチングしてくる人は少なからずいたが、今日ほど多くはなかった。
それに多数プレイができる『ハリカー』ならまだしも一対一の格ゲーではマッチングも難しいはず。
それなのにマッチングしてきた。
それは悪質プレイヤーが多かったということ。
「なんでだろうね。恨まれる行為はしてないのに」
菫が首を傾ける。
俺の目的は1階のトイレ。
ドアを開けて、後ろをついてくる菫に、
「お前もトイレなのか?」
「え? あっ!? 違う!」
と言って、菫は慌ててリビングへ向かう。
◯
トイレで用を済ませた後、リビングに入るとキッチンで菫が晩御飯の料理をしていた。
「なんだ? 生姜焼きか?」
「うん。それと味噌汁とポテトサラダ」
俺はリビングのソファに座り、テレビを
すると点けたチャンネルがたまたま水着特集をしていた。
やっぱ夏といえば海だよな。
「何? こういうのが好みなの?」
菫がボウルを持ってリビングにやってきた。
「いや、テレビ点けたらたまたまやってたんだよ」
「ふうん」
「で、お前は? もう終わったのか?」
「これ潰しといて」
とリビングテーブルにボウルを置く。
ボウルにはポテトサラダ用のふかしたジャガイモとすりこぎ棒。
ジャガイモをすりこぎ棒で潰せということだろう。
「分かった」
俺は左手にボウル、右手にすりこぎ棒を持ち、ジャガイモを潰していく。
「まだ何か?」
菫がキッチンへ戻らないので尋ねた。
「ねえ? 夏休みはどうするの?」
「特に何もないけど?」
「遊びに行くとかさ?」
「ああ。白石達と映画に行くとか、そういうのはあるけど」
「そうじゃなくて家族で?」
「どうだろう? 旅行に行くとかの計画はないけど」
そういう話し合いはしていない。
「どこか行きたいのか?」
「う〜ん」
そこでジュワーという音がキッチンから聞こえた。
どうやら鍋の水が吹いて、溢れて火の方へ流れていた。
「おい! 鍋吹いてるぞ!」
「やっば!」
菫は急いでキッチンへ向かう。
◯
晩御飯が出来た頃、父と薫子さんも帰ってきた。それで皆でダイニングにて晩御飯を食べる。
「ねえ? 夏はどうする?」
と菫が皆に聞く。
「それさっきも聞いていたよな。行きたいとこあるのか?」
「だって夏だもん。海とかキャンプとかさ」
「友達とは行かないの?」
と薫子さんが菫に聞く。
「行くよ。プールにね。でも、それとは別にさ。家族で行かない?」
「ううむ。そうだね。お盆あたりは休みがとれるからキャンプに行くかい」
と父が言う。
「キャンプいいんじゃない?」
菫は顎を縦に揺らす。
「充はどうだ?」
「え? ああ、まあ、配信に被らなければ問題ない」
「もしあれだったら、現地で配信とかは? 『今、キャンプナウ』みたいな」
「今時『ナウ』なんて使わないよ」
「そうか。で、ノートパソコンやスマホでは配信は出来ないのか?」
「やろうと思えば出来るけど、普通はしない。それにキャンプ場まで行って配信なんかしない」
「そうか? よく普通の動画配信者がスマホに伸ばし棒みたいなのを使って配信しているじゃないか?」
「俺はVだよ。それに場所が特定されたら中身もバレるだろ。Vは中身がバレてはダメなの」
「なるほど」
「それでどうするの? キャンプやるの?」
と薫子さんが聞く。
「私は構わないよ。充もいいよな?」
「ま、いいけどね」
「よし! キャンプ決定!」
菫は満面の笑みで拳を上げた。
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