第24話 特攻
6月29日夕方。とうとう明日が最終日。
登録者30万にまであと4万人とちょっと。
『リストラの件、リークするか?』
カガリがリークを提案する。
「いや、それはやめてくれ」
『なんでや? それで30万人突破耐久でもすればいけるかもしれへんで』
「ニグ、たしかに良い案かもしれない。でも、それをすると皆にも迷惑がかかる。
『どういうこと?』
ハルヒが聞く。
「リストラが本当だと知って登録を消すかもしれない」
登録者=ファンというわけではない。
面白がってギリギリに登録を消す人も少なくないだろう。
カガリはまだ大丈夫かもしれないけど、ニグやハルヒは危険だ。
「せっかく30万人突破したのに下がったら嫌だろ。クビにされてしまう。だから、リークはなし」
『……分かった』
◯
カガリ達の通話の後、俺はあることに対してどうしようかと悩んだ。
悩みを彼らに打ち明けるべきかとも考えたが、彼らにはこれ以上迷惑をかけてはいけない。
それにこれは俺自身の問題なのだから。
(もうなりふり構ってはいられないのでは?)
と、そこでスマホから通話音が鳴った。
誰だと思ったら有村からだった。
「もしもし」
『五代君、ちょっと来て!』
かなり性急な声だった。
「え?」
『スミーが大変なの!』
◯
有村から指定された場所は喫茶店だった。
「五代君、こっち」
喫茶店に入った俺を有村が手招きする。
その席には菫もいた。
俺は菫の隣に座り、
「お前、何やってんだよ」
「……」
菫はそっぽを向く。
「大変だったんだよ。なんかとある私立高校の校門前で立ってて、誰か探しているみたいなの。で、守衛さんに声をかけられるんだけど、『何もないです』とか言うの。誰か探してたんでしょ?」
「ち、違う」
菫は俯きつつ否定する。
「じゃあ、何してたのよ?」
「ムッチンこそ、何でいたのよ」
「そりゃあ、あんたが今日一日めちゃちゃそわそわしてて、ホームルーム後に速攻で帰るんだもん。怪しすぎて
「それは……」
菫はそこから先の発言をつぐむ。そしてなぜか俺の方にちらりと視線を投げる。
「有村、今日はここまでで。ここから先は俺に任せてくれ」
大丈夫なのという懐疑的な目を有村は向けてくる。
「頼む」
有村は一息吐いてから、
「……分かった」
「すまんな」
◯
家に帰り、俺は自室に菫を呼び入れた。
菫は床に座り、反省の姿勢をとっている。
俺は向かいに座り、
「狙いは赤羽メメだろ」
「……」
無言は肯定の証。
「赤羽メメと接触して、コラボの打算かオルタ化の秘訣でも教わろうとしたんだろう」
「……」
「赤羽メメは高校生って明言してるもんな」
俺や赤羽メメは高校生であると明言している。
それは学業があり、配信時間に限りがあるからだ。
「あの高校が赤羽メメの学校なんだろう?」
赤羽メメがどの高校に通ってるかは知らないが、ペイベックスに、しかもVtuber課に出入りしている制服を着た女子高生を見かけたら、それが赤羽メメだと推測できる。
もちろん、制服で会社に出入りは基本ないだろうが、学校終わりに打ち合わせにくることもなくはない。
俺も何回かあった。
ちなみに俺の場合は犬葡萄カガリが制服姿の俺を生で見たいという理由でだ。
そして制服を覚えていたなら、その制服からどこの高校か特定するのは難しくはない。
これは身内だからできる所業。
でも──、
「Vtuberの特定はNGだぞ。それは身内であってもだ」
「でも」
菫は唇を尖らす。
「でももヘチマもない。ちなみにどうやって声をかける気だったんだ? 『赤羽メメよね』なんて声をかけるつもりだったのか?」
「そこはちゃんと考えて……」
「考えるな。そしてやるな」
俺はきつく注意する。
「でも、なんとかしないと! 明日なんだよ」
菫が必死に訴えてくる。
「大丈夫だ。秘策はある」
「あるの?」
「今からそれをする」
俺はまっすぐに菫を見つめ、本気だという意志を伝える。
「本当に?」
「ああ。任せろ」
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