第23話 後は……

「はい。皆、耐久に付き合ってくれてありがとー。僕はこれから寝るねー。え? 皆も? そりゃあそうだよね。おやすみー」


 昨夜23時から始めたゲームクリア耐久配信を朝6時になってやっとクリアした。今日が学校のない日曜で助かった。まあ、それを考慮してこの日にクリア耐久を選んだんだけど。しかし、6時までかかるとは予想外だった。


 もう目がしばしば。

 パソコンを切り、席を立ち上がる。

 そして大きく伸びをして、首と肩を回す。


(寝る前にトイレ行こ)


 トイレで用を済ませて、部屋に戻ろうとした時、部屋の前に菫がいた。


「どうした?」

「あ、うん。配信お疲れ様」

「見てたのか? 全部じゃないけどね」

「それだけか?」

「あ、これ。私なりに色々と調べたの」


 菫がプリントを渡してきた。


 なんだ?

 プリントを見るとゲームタイトルがリストアップされていた。


「こういうのどうかなって」

「……これって、有名Vtuberがやってるやつじゃん」


 流行りではなく、有名Vtuberが実況したゲームタイトルがリストアップされていた。中には赤羽メメ・オルタがプレイしたゲームタイトルもある。


「うん」

「そうか。ありがとう」


 礼を言って、俺はドアを開けて部屋へと入ろうとした。


「待って」

「ん? なんだ?」


 眠いから本当に早く終わらせてほしい。


「もう1週間を切ったけど」


 今日は25日の日曜日で期限は30日の金曜日。

 俺は高校生だから学業があり、配信にも限りがある。


「やっぱりさ……」

「やめろ。これは俺の問題だ」

「でも、私はVママだし」

「それでも俺の問題だ。お前は何もしなくていい。頼む」


 俺は菫の肩に手を置いて、訴える。

 けれど菫は俯いたまま何も答えてくれなかった。


 納得できないのだろう。

 まだ何か手はないかと、探りをしているのだろう。


「おやすみ」


 俺は手を離して、ドアノブを掴む。ドアを開けて部屋の中に入る。電灯を消して、ベッドにダイブした。


(疲れた)


 ベストは尽くした。

 やるだけのことはやった。


 今日、含めて期日までまだ6日ある。

 あとは何をやってなかったかな?


 カウントダウン、雑談、コラボ、凸待ち、RTA、クリア耐久をやった。


 あとは……うた……ダメ。えーと、なんだろう?


 またコラボでもするかな?

 それとも流行りのゲームに乗っかろうかな?


 そうやって少しずつ、増やしていこう。


 このペースだと間に合わないかもしれない。いや、間に合わないだろう。


 でもだ。

 仕方ない。

 残念だけど。

 眠い。

 意識がずぶすぶと沈んでいく。

 疲れた。


 もう何も考えたくない

 もう休もう。


  ◯


 俺は普通の人よりも第二次性徴が早かった。


 小6の夏には脇も下の毛も生えて揃い、喉仏もぼっこりとしていた。


 修学旅行の時はよくからかわれていた。


 まあ、いい。俺は大人になったということだ。


 でも、母はそれを嫌った。

 大人……いや、男らしくなった俺を。


 母は女の子を望んでいた。でも、生まれたのは男の子。


 救いは女の子のような顔つきだったことだろう。


 母は俺を中性的にコーデした。

 アイドルのような少年。人によっては活発な女の子のようにも見える。


 母のコーデのせいか、仕事も子役からアイドル系の仕事が舞い込んできた。

 時には歌い、時には踊り、時には雑誌の表紙を飾る。


 苦痛だった。

 その苦痛も第二次性徴を迎えて、終わりを向かう。


 でも、延長した。母がもうじき病気で亡くなるのだ。


 父に頼まれた。


 それまでの間は声を以前のようにキープするようにと。

 だから俺はキープした。


 声色、声音、口調。

 それらを女の子のように。


 気持ち悪かった。

 だって、それは俺ではないから。

 それは母が望む俺だから。


 俺ではない俺。

 作られた俺。


 そして母は亡くなった。

 これで解放された。


 全て終わった。

 今日から新しく生きていく。


 けど、呪いが残っていた。

 第二次性徴の中で女の声を出し続けたからか──。


  ◯


 寝起きで俺は溜め息を吐いた。


 いつもなら初めか途中かで夢だと気付くのに。

 今回に限っては、終わってから夢だと気付いた。


 どうして母の夢なんかを。


 いや、たぶんだが


 早くしなさいと。それをやりなさいと。

 亡くなった母からのメッセージなのだろう。


 スマホで現時刻を確認すると画面にカガリ達からのメッセージが届いていた。

 それはコラボ配信をするつもりだから参加しないかというメッセージだ。しかも各々から。


(まったく。あいつらは)


 彼らの優しさに頬が緩む。

 見苦しけど、やってみるか。最後まで足掻いてやろう。

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