第22話 マネージャー【羽村美希】
赤羽メメ・オルタのおかげか、虎王子ゼンの登録者約1万人以上増えた。それは喜ばしいことだ。
そして現在で登録者数は25万人を超えた。あと約5万人だ。
だけど一つ問題があった。
それは──。
赤羽メメ・オルタはペイベックスVtuber5期生にあたり、そのマネージャーは元ヤンだの走り屋だので有名な福原さんがマネージャーを務めているのだ。
我が社ではファンの意見を尊重して男女間のコラボは暗黙のルールとして禁止している。ただ、凸はNGとしていない。だが、Vtuberの中ではなるべく凸も自重しようとしていて、滅多でない限り、凸にも男女間の垣根を越えることはない。
それが昨夜、オルタが垣根を越えて、虎王子ゼンの凸待ちに現れたのだ。
私も配信を見ていたが、どうやらオルタはそころへんの事情を知らないようだった。
ならばこの場合、こちら側には一切非はない。
けれど、マネージャーがあの福原さんだ。まじで怖い。
今日は会社を休もうかなと考えたくらいだ。
こちらが男性Vtuber担当とあって、部屋が隣りということで顔を合わすこともない。だが、勢いよくドアを開けて、「ツラ貸せや」と乗り込まれるかもしれない。
(あの人ならやりそう)
ちょっと前に暴露系配信者に対して啖呵を切って、震えさせたとか。そして情報を揉み消したと聞く。
「怖い」
私はぼそりと呟いた。
今のところ昼になっても福原さんから声をかけられることはない。
なら、大丈夫かな。
ちょっと安心したせいか、尿意がきた。
私は立ち上がり、部屋のドアを開けて外に出ようとした時、ちょうど隣りからもドアが開けられ、女性が出てきた。そして目が合う。
(わわっ!)
その女性は福原さんだった。一見キャリアウーマン風なのだが、醸し出す雰囲気がどこか女帝風である。睨まれたカエルの私に福原さんは、「お疲れ」と声をかけた。
「お、お、お疲れ様です」
私は腰を曲げて深く頭を下げる。
「何そんなに頭を下げるのよ」
福原さんはおかしそうに笑みを浮かべる。
「では、私はこれで」
私はトイレ方面にすたすたと向かう。
逆に福原さんがこちらに歩いてくるということは目的地は反対方向らしい。
良かった。
そしてすれ違い──。
「そういえば、昨日の配信見た? うちのオルタがそちらの虎王子ゼンの凸待ちに参加したんだけど」
「すすす、すみません。うちのゼンが連絡をしていたようで」
私は高速で頭を下げた。
「どうして貴女が謝るのよ。むしろ謝るのはこっちよ」
「し、し、しかし、連絡をしたのはこちらですので」
「メッセージって、個人じゃなくてグループでしょ? 掲示板に募集したようなものじゃない。それに凸はNGではないでしょ?」
NGではないが、みんな忌避している。
福原さんは私の肩をポンポンと叩き、
「なかなか面白かったわ。それに良いデータが取れたし。じゃあね」
と言って、福原さんは去って行った。
その背が角を曲がり見えなくなるまで私は止まったままだった。
「トイレ行こ」
ちなみに少しちびったのは秘密。
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