第18話 コンペの真実

 菫と話をする前に羽村さんから連絡があった。


 早めに切り上げようとしたけど、ふと羽村さんならVtuber原画展について何か知ってるのでないかと考え、聞いてみた。


「羽村さんはVtuber原画展のコンペについて詳しいですか?」

『え!? ええ、勿論。でも、我が社には縁遠いものですけどね』

「縁遠いって、うちには星空みはりやその他にも登録者100万人を突破したペーメンがいるでしょ」


 あと、話題で言えば赤羽メメ・オルタとかが最近有名だ。


『箱規模でいえば全然ですよ』


 箱。つまり事務所ということか。うちはペイベックスだから音楽関係なら大手だが、Vtuberとしては中ほどくらいだ。


「でも、何人かVママは出るんでしょ」


 箱は違えど同じVママのVtuberは何人もいる。


『それでも参加イラストレーターはいませんよ』

「1人も?」

『残念ながら』

「そうですか」

『どうしたんです? Vtuber原画展なんて言い出して』

「いえ、うちの菫が今週のVtuber原画展のコンペに出るとか言ってて」

『それは……』


 さすがの羽村さんも絶句か。有名イラストレーターが参加する原画展に2流Vtuberのイラストレーターが参加だもんな。


「急ですよね」


 笑って済ませようとしたのだが、


『これは止めるべきなんでしょうね』


 と、どこか真剣に羽村さんは告げる。


「羽村さん?」

『コンテストではなくコンペなんです。これがどいうことか分かります?』

「え?」


 そういえばなんでコンペなんだろう。

 普通はコンテストなのに。


「コンペは……競争ですか?」

『より正確に言うと、限られた人しか応募できないものです。たぶん、Vママということで菫さんにも話がきたのでしょうね。さらにアピール……いえ、説明を求められます。それに……実はVtuber原画展で欠員が出たとのことでコンペが行われることになったようです』

「欠員?」

『はい。ただしこれは表向き。本当は欠員もない状態です』

「え? はい? ちょっと、どういうことですか? 欠員がない。でも欠員があったからコンペをする? おかしくありませんか?」

『ええ。おかしいですよ。矛盾です』


 そして羽村さんは息を吐き、


『こう言う時はたいていが訳ありなんですよ。色々ありますが、運営側とクリエイター側に問題があったとか。あとは急遽、スポンサー側による推しの突っ込みによる問題とか』

「スポンサー側による推しの問題?」

『よく聞くでしょ? スポンサーがあれやこれやと注文つける話。これを使えとかね。今回もイラストで注文があったんでしょうね』


 俺も子役だったから話には聞いている。ドラマや映画のスポンサーが我が社の商品をここで使えとか、アップになるようにとか、ロゴがどうたらと注文をつけてくるやつだ。


 最悪なのが作品についての変更を求めるやつだ。知り合いにクリエイターがいて、それを起用しろとか。


『で、こちら側は仕方なく入れるのですが、レベルのなってないのがあって、結局は質の悪いものになる』

「そんな中に菫はコンペを。受かりますかね?」

『まず無理と思うべきですね。スポンサー関連じゃなくても、ああいうのは基本出来レースですから。コンペで勝ったという箔目当てのものです』

「もし……もしもですよ。もしスポンサー関連だった場合は受かると? そしたら……」

『駄目ですよ。その考え。仮になったとしても、どうせそのスポンサー推しのイラストレーターとの共同作業なんでしょうね』

「……共同作業。そんなことってあるんですか?」

『いわゆる、スポンサー推しのイラストレーターが描いた下書きを元に、色……いえ、絵を描くとかあるんですよ。最悪、下書きも何もなく、口による説明であれこれ書けとか言われますね。文句たらたらで、あれも違う。これも違う。イメージじゃないとかめちゃくちゃ。実のところ、以前にそういうのがあったんですよ。今回、うちからVママのイラストレーターが出ないのもそれが原因です』


 羽村さんが最後に鼻を鳴らす。珍しく感情的だった。


『まあ、そういうものですから。その件をきちんと菫さんにお伝え下さい』

「分かりました」


  ◯


 通話の後、俺は先程羽村さんから教えてもらったことを菫に告げた。菫はじっと椅子に座り、俺の話を最後まで聞いてくれた。いや、返すほどの体力がなかったのか。


「出来レース。合格しても共同の可能性が高い」


 菫は俯き、俺の話を簡潔に纏める。


 ショックが大きかったのか、肩がすごく下がっている。


「そういうことだ。だから根を詰めるな」

「じゃあ、どうしろと」

「どうもしないさ。コンペに出る必要もない」

「でも、それだったらリストラに」

「落ち着けって。まだ決まったわけではない。俺達も頑張ったんだ。応援してくれよ。な?」


 それでもまだ納得できないのか菫は唇を尖らす。


「コンペに出すイラストは1周年記念配信で出すってのはどうだ?」


 俺は菫の肩に手を置いて言う。


「うん」

「コンペには出ないと約束できるな?」

「分かった」

「焦らずにじっくりと登録者を増やそう」

「……充君は少しは焦った方がいいんじゃない?」

「これでも内心はリストラで焦ってる方なんだけど」

「さすがは天才子役」

「元な」

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