第16話 今後のこと

 夕方、マネージャーの羽村さんか連絡があり、ファンにはネットで話題のリストラの件は嘘と言っておくようにと伝えられた。


「どうしてですか?」


 リストラの件は事実である。


『あとで本当だとバレてもその頃には辞めているでしょ』

「でもそれだと羽村さんは?」

『問題はありません。リークしたやつが悪いので。ファンの方々は世間様には心配をかけたくないので嘘をつくように言ったと伝えますし』

「そうですか。それでリークした人は誰なんですか?」

『それは分かりません。目下、調べております』


  ◯


『昨日の今日ですまない』


 配信後の深夜0時に犬葡萄カガリから電話がきた。


「別に構わないよ」

『配信見たよ』

「ありがと」

『ネットのやつ、嘘って言ったんだな』


 今日の配信は雑談配信で、俺はネットでリークと騒がれているリストラ話は嘘だと伝えておいた。


「羽村さんにリスナーには嘘だと言うように告げられてね。カガリも言われなかった?」

『言われた。しかし、誰がリークを?』

「さあね。本当にびっくりだよ。俺は今朝方、電車の中で知ってさ」

『俺は昼間だよ。目が覚めてSNSをチェックしてたらさ、いきなりリークが目に入ってびっくりだよ』


 昼間って。良いご身分だな。


「本当に誰がリークしたんだろうな」

『俺達男性Vtuberではないと思うから、本社かVママかな?』

「Vママはしないと思うから本社の誰かかもしれないぞ」

『どうしてVママは違うと?』

「そりゃあリークなんかしたら俺達にも迷惑がかかるだろ?」

『そうか? 案外、俺達のことどうでもいいとか思ってるかもよ?』


 その言葉に俺は少し驚いた。


「カガリはVママと仲が悪いのか?」

『そうとは言えないけど。仲が良いというわけでもない。所詮はビジネス上の付き合いで、今の所は確執とかはないだけ。お前のとここそどうなんだ? ついこの間まで顔合わせなかったんだろ?』

「うちは仲良いよ」

『ふうん』


 まさか義理の妹になったとか言えんしな。


「Vママでないなら本社かと思うんだけど」

『誰がデメリットになることを言うんだ?』

「リークがデメリットかな? 俺達を確実にクビとするためにやったとか考えられないか?」

『う〜ん。どうだろう? 分からんな』

「この話はよそうか。羽村さんも犯人探しはこっちでやるから、そっちは配信に集中しろって」

『そうだな。誰がリークしたことよりもまずは登録者30万人を超えないとな。リークが現実になったらやばいし』


 そしてカガリは空笑いをした。


  ◯


 カガリとの通話の後、次はパジャマ姿の菫が部屋に訪れた。


「どうした? リークの話か? それは羽村さんか連絡がきて……」

「それは私のところにもきたよ。ただ、これからの配信どうするのかなって」


 そう言って菫はベッドに座った。


(またその話か)


「まずは今まで通り、コツコツと。もしここで張り切って配信を増やしたら、ファンに怪しまれるしな」

「そうなんだ」


 そして菫はじっとしたまま指をもじもじしている。


「どうした?」

「あのね、ええと……」

「なんだよ?」


 菫は顔をこちらに向け、


「私、Vtuber原画展にイラストを載せようと思うの」

「Vtuber原画展ってあの?」

「うん」


 Vtuber原画展。文字通りVtuberのイラストを載せる展覧会。


 ただ、誰でもイラストを載せられるわけではなく、基本は人気VtuberのVママ。そしてゲストとして人気イラストレーターが参加できる。ただし、対象のVtuberは人気Vtuberに限る。


「どうやって?」


 俺は人気Vtuberではないから、Vママの枠では出られない。


「今度コンペがあるの。そこで私がイラストを出すの」

「つまりそれに勝って、Vtuber原画展に出るってことか? でも勝っても俺は使えないぞ。人気無いから」


 人気Vtuberのイラスト展だからな。リストラ宣告されたVtuberは論外だ。しかもリークされたわけありだしな。


「うん。分かってる。だから私が有名Vtuberのイラストを描くの。そしたら多少は私の知名度も上がり、虎王子ゼンの知名度も上がるんじゃないかな?」


 繋がりから登録者を増やすということか。


「そうか。いいんじゃ……待てよ。その原画展って来月の下旬だったよな」


 それはつまり──。


「リストラ期日の少し前」

「待て待て、間に合わないだろ。原画展が来月下旬ならコンペはいつになるっていうんだ?」

「来週の土曜日にある」

「なら……」

「大丈夫。前から出る予定だったから、イラストも完成してる」

「完成しているのか?」

「……」


 菫は答えずに視線を逸らす。


「どうなんだ?」


 俺が疑いの視線を投げ続けると、


「……ほぼ」

「ほぼ?」

「うん。ほぼ完成済み」

「なら見せろ」

「駄目!」


 菫は両手と首を振って拒否を示す。


「出来てから見せる。だからそれまでは無理」

「どれくらいか確認する」

「駄目! 絶対無理!」


 しばらく2人で見つめ合う。


 その頑なな意志に俺は負けて息を吐く。


「分かった。だけど無茶はするなよ」

「うんうん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る