第15話 ペイベックス・タレント課 【羽村美希】
私、羽村美希はメロスのごとく激怒した。
足をずいずいと迷うことなく進め、タレント課の部屋に入り、雪村昌の前に止まる。
こいつも私がタレント課に入って来た時から、自分に用があるんだろうなと堂々としていた。
いや、開き直ってずっしりと構えていたというべきだろうか。
「ちょっと
親指で背後の外を指して私は告げた。
雪村は大仰に息を吐き、
「なんだ? 告白か?」
私にニヤついた笑みを向ける。
(キッショ! 死ねやボケや)
私は雪村を小会議室に連れ、
「おい、リークしたのはお前だろ?」
「なんの話だ?」
「うちの男性Vtuberのリストラの話だよ。ネットにリークしたのはどういうこだ?」
「知らないな」
雪村は涼しい顔で否定する。
その顔が憎らしくて殴りたくてしょうがない。でも、私も大人だ。我慢我慢。
「本社の調査班に速攻で調べてもらったから、嘘をついても意味ないぞ」
私はメンチを切る。
まず情報提供者から情報を得て、その後、調査班に調べてもらった。それは嘘ではない。調査班には前に貸しがあったから今回で返してもらった。そして誰が書き込んだのかも特定済み。
「そうだ。俺がやった」
「なんで?」
「正確には俺ではなく上からの命令。まあ、もっと正確に言えば、上の上ってところかな?」
「まさか理由を知らずしてやったなんて言い訳が通用すると思うなよ」
「分かってるよ。てかさ、お前も分かってるんだろ?」
「……」
私はそれには何も答えず、さっさと私の問いに答えろと目で訴えた。
「男性Vtuberが邪魔なんだろ。大した稼ぎにもならないからな」
「かと言って、今回のリークはおかしいでしょ?」
「狙いは虎王子ゼン……いや、五代昴だろ」
「え?」
「これは男性Vtuberを潰して、五代昴をタレント課に戻すためのものだろうな」
「でも、登録者30万突破したらリストラは消えるんでしょ?」
「そこはリークしていない。だから無理やりリストラさせることも出来るんだ」
そこで雪村はニヤリと笑い、
「だって世間はそれを知らないんだから。あとから実は登録者30万突破したからありませんと言っても誰がそんなご都合主義を信じる。いいか? つまり今回のリークはリストラさせるための保険だよ」
最後に雪村は「じゃあな」と言い、小会議室を出て行った。
その後、私はVtuber課に戻って、スマホである人物に通話をかける。
「もしもし」
『どうだった?』
「上からの命だそうです」
『やっぱりね。目的も合ってたでしょ?』
「はい。やはり五代君目当てだったようです」
実は調査班に頼む前にすでに小暮さんからある程度話を聞いていたのだ。
この小暮さんはタレント課にいた人で、今はアーティスト課で部長を務めている人である。
今回、上が男性Vtuberを切ろうとしたところを小暮さんが彼らを存続させるために登録者30万人突破という条件を作った。
『一応、こっちには30万人という条件があるから問題はないでしょう』
「しかし、上は無理にでも……」
世間にはまだ登録者30万人がクビ回避の条件とは知られていない。それはもし登録者30万突破してもクビにするということだ。
『大丈夫よ。条件は前もって決まってたことだし』
「では登録者30万人突破の条件についてはこちらがリークしますか?」
条件をリークすれば、もし登録者30万人を突破出来たらリストラも消えるはず。
『それは駄目よ。そんなことをしたら彼らやファンにも迷惑がかかるわ。そこは秘密にしないとね』
「でも同情で……」
『駄目。いい。そういうのってね、邪魔をする奴も増やしてしまうのよ』
登録者数を邪魔する者というと達成間近に登録を外す者達だろうか。
「そうですか?」
『そうよ。世の中には束になってそういうことをする輩がいるのよ』
しかし、こぞってしめし合わせてもそんなに大きな数にはならないと思うのだが。
「……分かりました」
『今は本社もリークの件には黙秘をしているのでしょ? なら、こちらも黙秘をしておくべきね』
「もし本社がリークの真偽について語れば?」
『しているならとっくにしているでしょう。それがないということは、こちらの登録者30万人のことを怖がっているのでしょうね』
「どういうことですか? 雪村は後から言ってもご都合主義で信じてくれないとか言ってましたが」
『タイミングね。今すぐ向こうが語れば、こちらの登録者30万人の件は効果があります。けど、来月末辺りなら効果は薄いでしょうね』
「では、いつ頃がベストなのですか?」
『彼らがリークの真偽を語った後、そして登録者30万人を超えた頃です』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます