第13話 話し合い

 来栖ハルヒの配信が予想より長く、終わったのが日付が変わる深夜前だった。


『ごめんな。長引いてしまって』

『まあいい。で、さっそくだが、ハルヒとニグはクビ宣告は聞いているか?』


 カガリが2人に尋ねる。


『うん。聞いてる』

『自分も今日、聞いたで。カガリ達も聞いたんか?』


 この関西弁を喋るのが筑前ニグレド。


『俺もゼンも今日聞いた』

『というか皆、今日聞いたってことかよ』

『いっそ、皆同時に話せばええのにな』

「たぶんVママとか含めると大勢になるからとか?」


 1期生と2期生、そしてVママ合わせると合計16人になる。それだけの数がいっぺんに苦情を入れたら大変なものだ。しかも相乗効果も含めると大変な騒ぎになるだろう。


『ん? Vママ? ウチは1人んときに聞かされたで』

「え?」

『俺も1人だった』


 カガリも1人で聞いたと言う。


『自分はVママと』


 ハルヒは俺と同じだったらしい。


『なるほど。ゼンとハルヒだけはVママと一緒か』

『なんでやろ。なんかあるんか?』

「さあ?」

『てかゼン、Vママに会えたんか?』

「ああ。つい最近な」


 そういえばVママと出会えたことは皆に言ってなかった。


『へえ、どんな人? 男? 女?』

「女だよ」

『べっぴんさん?』

「ん〜、普通かな?」

『芸能人に例えると誰?』

「ニグ、食いつき過ぎ。今日は今後のことを話し合うために集まったんでしょ」

『すまん。で、これからどないして登録者30万人増やすかっていう話やったな』

『皆は何かアイデアあるか?』


 カガリは皆に聞く。


『そういうカガリは何かないんか?』

『俺は無難に1周年記念があるからな』

『それは皆もじゃん』


 と、ハルヒが突っ込んだ。


 ここにいる全員は来月にペイベックスVtuber1周年を迎える。


『まあな。で、記念配信すればなんとかなるかも』

『そりゃあ、カガリはあと少しで30万人だろ? でも、俺達は記念配信だけだと心許ないし』

『せやな』


 ちなみにこの中で1番登録者数が少ないのは俺だ。


「人気Vtuberとコラボ?」

『ペイベックス男性Vtuberで人気あるやついるか?』


 カガリの指摘に他の面々も、


『いないよな』

『せやな』


 と沈んだ声を出す。


 ただでさえペイベックスは他の箱と違い、人気が低い。殊更、男性Vtuberに限ってはさらに人気は低い。

 ちなみに箱とは事務所のことを指す。


「それじゃあ、RTAとかは?」


 RTAはリアルタイムアタックの略で、ゲームも最速クリアを目的とした行為。

 記録を達成すればSNSでもバズるし、登録者も増える。


『でも難しいぞ』

「約2ヶ月ではきついか」

『しかも流行りのやつじゃないと駄目だしな』

『歌枠でもやるか?』


 とハルヒが言った。


『まあ、それが妥当やな』

『そうだな』


 歌枠も登録者を増やす配信の一つでもある。

 というより、耐久〇〇万人達成まで歌うというのがセオリー化している。


「カガリなら記念配信と歌枠をすればいけそうだね」

『……そうだな』


 返しが遅かった。嫌味のように聞こえてしまったかな?


『俺はこの二つをやるかな。……けど、他に何かあるか?』

『何かねえ? てっとり早く稼ぐといえば、やはり人気Vtuberとコラボだけど』

『うちの女性Vtuber達の誰かのコラボするとか?』

『いやいや、それ駄目だろ』


 うちのペイベックスでは男性Vtuberと女性Vtuberのコラボを禁じている。


 理由の一つとしてよく挙げられるのが、リスナーが望んでいないからである。

 要は男性Vtuberと女性Vtuberが絡んであっては困るからだ。


 アイドル恋愛禁止みたいなものが暗黙として存在している。

 そして男性の影がすこしでもあるとすぐにSNSで取り上げられてしまう。


 ゆえにペイベックスでは絶対に異性とのコラボは禁止という扱いになっている。


『夜桜スイとか実は男説あるから平気じゃない?』

『ハルヒ、それ今度本人に言ってみ?』

『無理無理。ぜってえ殴られる』


 夜桜スイは中性的な声と隠れヤンキー気質の性格のためか、よく男かと弄られる女性Vtuber。


『では他の案ある人?』

『新作人気ゲームをいち早く配信するとかはどうや?』

『それはいいかも。でも、来月末までに新作人気ゲームってあるか?』

『……あかん。ないわ』


  ◯


『いっそのことゼンは身バレしちゃうとか?』


 あれやこれやと案を出し合い尽くして、次第に口数が減ったなかでカガリが大変なことを言い始めた。


「え?」


 あまりのことで俺は驚いた。さすがにその案はない。


『おいおい、それは駄目だろ』

『せやで』


 ハルヒとニグも否定する。


『普通ならやっちゃあいけないよな。それは俺も分かってる』


 身バレなんてやってはいけないこと。


 リスナーをがっかりさせてしまうし、中には悪質な特定班により住所バレまでされて、最悪ストーカーや嫌がせまで発展し、警察沙汰になってしまう。


『でも、ゼンは元子役の五代昴。問題なくないか?』

『寝ぼけてるのか? 大アリだろ? 元子役だろうが身バレはNG。Vtuberなら皆、知ってることだろ』


 ハルヒがカガリに強く責める。


『確かにそうだ。俺も完全に身バレしろって言いたいわけではないんだ。もしかして元子役の五代って匂わせるような感じを演出するとか』

「ごめんだけど、それは無理」

『駄目か?』

「駄目。できない。身バレはなしで」


 俺は頑なに拒否した。


『そうか。いや、ごめんよ。つい……』

「他の案を考えよう」


  ◯


 結局、その夜は妙案は生まれなかった。

 まあ、登録者を増やす方法があるならとっくにやってるしね。

 今、考えて分かったのは記念配信と歌枠、RTAくらいだった。

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