第3話 Vママ

「まさかお前がVママだったなんて」

「まさか虎王子ゼンちゃんが充君だったなんて」


 俺と菫は互いに驚いていた。いや、もう一人、普段はクールなマネージャーの羽村さんも少し驚いていた。


「ええと、つまり、お二人は……義兄妹で同級生と?」

『はい』

「はあ、これはまた奇怪なことが。……ええと、それでは一応」


 羽村さんは咳を一つ挟み、


「ゼンさん、こちらはVママの五代スミさんです」


 と菫を紹介する。


「……はい」

「ではスミさん、この方が虎王子ゼンさんです」


 次に俺を菫に紹介する。


「……うん」

「それでは打ち合わせを始めましょう」

「その前に五代スミって──」

「黙って!」


 菫が両耳を塞いでイヤイヤと首を横に振る。


「ペンネームでしょうね」


 と羽村さんが答える。


「薫子さんから五代好きとは聞いてたけど……」

「違うの。ペンネームを考えてたら……なんか、適当に……ね? べ、別に五代君が好きだから付けたってわけではないんだからね」


 いきなりツンデレムーブされてもなあ。


「まあ、いいけどさ。てか、声で気づかなかったのか? 虎王子ゼンが五代昴だって」

「だ、だから、適当に付けただけだからね! 違うんだからね! というか、キャラとか声を作ってたら分かんないじゃん」


 ここで羽村さんが咳払いをした。


「打ち合わせをしましょう」

「「はい」」

「新しいイラストがこちらです」


 羽村さんが虎王子ゼンが描かれた新イラストのプリントを俺に見えるようテーブルに置く。


 そのイラストはメン限用のイラストだった。


 メン限とは、チャンネル登録以外にメンバー登録があり、それに登録した人のみが手にすることが出来るのがメンバー限定である。


「んん〜!」


 菫が悲鳴にならない悲鳴を上げる。


「どうかしました?」


 羽村さんがものすごく怪訝そうに聞く。


「い、いえ、なんでも」


 菫は顔赤らめて俯く。


「ゼンさん、どうでしょうか?」


 羽村さんが俺に聞く。

 新イラストは青を基調とした服で爽やかさを与えるものだった。それにゼンの笑顔も良かった。


「うん。いいですね」

「ちゃんと見てる?」


 菫がそっぽを向きつつ聞く。


「見てるよ。カッコイイじゃん。爽やかっぽいし。前のイラストと違っ……」

「ちゃんと見ないでよ。分析しないでよ」

「どっちだよ」

「嫌なの。恥ずかしいのよ〜」


  ◯


「しかし、お前にVtuberのことがバレたってことは父にも言わないとな」


 いつか言おうと思ってたことが、このような展開でVtuber報告とは。


「待って、それって母さんにも言うの?」

「まあ、そうなるわな」


 薫子さんだけ知らないってのは可哀想だろ。


「だ、ダメ! ダメダメ! 絶対にダメ!」

「なんでだよ?」

「私、イラストやってるなんて言ってないの!」

「なら良い機会じゃないか」

「嫌よ! 五代君の名前を拝借してイラストレーターやって、しかもショタ絵描いてるなんて!」

「ショタ絵?」


 確かに虎王子ゼンは子供っぽいがショタというほどではないのでは?


「先生はSNSやVixivでショタイラストを投入していますものね」


 羽村さんがなぜかキリッとした発言をする。

 こころなしかメガネフレームが光ったような?


「嫌、言わないで」


 また菫は耳を塞いで首をブンブンと振る。


「ちなみにどんな?」

「そうですね」


 羽村さんがスマホを操作すると、


「ダメ! 見せないで恥ずかしいから!」


 と大声で菫が止めに入る。


「菫、声でかいよ。もー、分かったよ。見ないから」


(あとで見よ)


「あとで見ようとしているでしょ」


 エスパーかよ。


「見たらVtuberのことを親に話すからね」

「こっちは問題ないんだけど」

「裏切り者!」

「なんでやねん」

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