第2話 打ち合わせ

 いつまで子役か?


 俺の場合は小6の頃だ。


 その頃に元子役と言われ始めた。そして仕事が激減した。


 子役ではないなら、俳優としてのものを要求される。でも、俺にはそういうものは備わっていなかった。


 実力もなく、ただチヤホヤされて売れ残った五代昴。


 でもそれは母が亡くなったことも要因なのかもしれない。

 母がマネージャーを務め、よく仕事を持ってきた。


 その母が亡くなり、まるで縁が切れたみたいに元子役となり、俺はドラマ業界から弾かれた。


 それは苦ではなかった。むしろ解放されたのだ。


 それからは新しいマネージャーが持ってきたバラエティなどに出演してなんとか仕事をこなしていた。

 そして高一の頃にマネージャーの勧めでVtuberに転身した。


 否、あれは勧めではなく、体のいい戦力外通告みたいなものだろう。マネージャーも変わって、所属も俳優課からVtuber課に転属。


 ああ、これで俺も終わりか。


 そう感じていた。

 でも、俺は生き残った。意外にもVtuberが合っていたようだ。


 勿論、俺だけの実力だけではない。Vママが作ってくれたガワ、そしてマネージャーのおかげである。


 そのマネージャー羽村美希さんはクールな人である。

 どれくらいクールかというと。


「実はウチの父が再婚するんですよ」


 と話を振ってみても、


「へえ」


 羽村さんは手元のプリントから目を逸らさずに返事をする。


「そしたら相手の連れ子が同じ学校の女子だったんですよ」

「そうなんですか」


 これまたどうでもいいかのような返事。


 ……もしかしたらクールというよりドライ? てか、嫌われてる?


「急にギャルの妹ですよ」

「その妹さんはVtuberのことは?」


 ん? 話に食いついた? いや、これは仕事に関するからかな?


「いいえ、言ってません。てか、実の父にも言ってないので」


 ウチの父はネット関係には疎い。話をしたら身近な人に「ウチの息子がVtuberを〜」なんて吹聴しかねん。本人はこれといって意図はしていなくても、それは返って俺の危機になりかねん。


 だから黙ってることにした。勿論、いつかは話そうと考えている。そして今、家族も増えたし、ここいらがいい時期なのかなと考えている。


「そろそろですね」

「はい」


 そろそろとはVママのことを指している。


 今日は俺が所属しているペイベックス本社ビルの一室にてVママと初対面するということになっているのだ。


 普通はVtuberデビューする前に会うのだが、ウチのVママはどうしても俺と会うのを拒んでいたらしい。


 なんでもVtuberの中こと魂に会えば仕事に影響が出るらしいとかで。


 まあ分からなくもない。自分が作り上げたガワと魂が全然違えば、影響は出るだろう。

 でも、そもそも二次元と三次元は違うのだから、どうしても造形が違うのは当然だと思う。


 俺としてはそこのところは割り切って欲しいと感じている。


 そういったことからVママは今日まで俺に会うことを拒んでいた。

 それがつい最近になって顔を合わせて話し合いをしたいと言ってきたのだ。


 どうやら俺のVtuberとしての仕事に何か言いたいことがあるのだろう。


 心当たりはある。


 Vtuberにはキャラ設定がある。それを元にVtuberは配信する。


 が、それはずっとというわけではない。

 つい素が出ることもある。


 それがドラマなどのカメラが回っている撮影なら絶対アウトだ。監督にぶち切られる。


 だが、Vtuberは違う。


 Vtuberではそういう素の部分がリスナーには好意的に取られる。本性が見れて、より近親感を得られる者もいて、よく切り抜かれている。


 ただし、全ての素が好意的というわけではない。


 性格の悪さが出れば、もちろんリスナーは去っていく。


 俺もまたキャラを忘れて、素で声を出すこともあった。

 それは普段ちょっと生意気な僕っ子Vtuberが、キャラを忘れて敬語を使ったこと。そのギャップがウケて、人気が上がった。


 でも、それがVママに影響を与えた。


 ずっと抱いていたイメージが崩れたとマネージャー経由で聞いた。


 きっとVママはガワも魂も同じ僕っ子と考えていたのだろう。


「来ました」


 羽村さんは手を招きをして、ギャルっぽい女性を──。


「菫!?」


 同級生で義理妹の菫がトートバッグを肩にかけてそこにいたのだ。


「み、み、充君!?」


 菫は見開いて驚いている。


「「なんでここに!?」」

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