デカスイショウガニ
「本当にこっちで合ってるのかな!?」
「わ、分かりません!」
キーちゃん達が消えた方向へと走り始めて約三分。未だにキーちゃん達の痕跡など見つからず、この方向であっているのか疑問になってきていた。
「ルイド様!」
「!? どうした!?」
「今、なにか聞こえませんでしたか!?」
「え!?」
立ち止まって、耳をよく澄ましながら周囲に気配を探る。
周囲にいるのは俺らだけだな……ん? 待て、たしかに何かが動く音がする。
「この音は……天井……?」
嫌な予感を感じつつ、ゆっくりと天井を見上げる。
『ギシャァルスェヴィラヴィフェェェェェェェェェ!』
そこには、天井と見間違えるほど巨大な、クリスタルを
「な、何だあれ!?」
ズゥゥゥンと物凄い音を立ててデカスイショウガニが落ちてくる。
「うっ!」
衝撃で周囲のクリスタルが砕け散り、俺らに向かって飛散する。
俺はエリシア達の前にすぐに移動し、向かって来ていたクリスタルを全て受け流したあと
「すぅー……はぁー……」
と、深呼吸して、短剣を構えた。
「「あ、ありがとうございますルイド様!」」
「気にしないで! それよりも杖構えて!」
「「はっはい!」」
エリシア達が杖を構えたのを見て、俺は腕により力を込める。
来る、と直感が告げていたからだ。
『グュウィィィィィィヴァラサァァァァアアアアアア!』
直後、その巨体からは想像も出来ない様な速度でデカスイショウガニが迫って来た。
「速っ――!?」
焦るな! 焦ればかえってミスをする!
俺はエリシア達を抱き抱えてジャンプし、壁を蹴って更に高く上昇する。
『ギラシャヴェルブフォルゥエエエエエエエエエエ!』
自分の攻撃範囲外に行かれて怒っているのか、デカスイショウガニは俺らを見ながらそう大声で鳴いた。
だが俺は落ちない。
そう、今俺は……壁に張り付いている。
「ル、ルイド様!? どうやって浮いてるんですか!? ま、まさか遂に魔法を習得なされて……!?」
「違う違う、これだよ」
そう言って俺はポーチに取り付けたフックを見せた。
そう、実はこのフック、深層のモンスターの殻から作ったからか耐久性が物凄く高く、ちょっとやそっとどころか深層のモンスターの攻撃に一発耐えるというとんでもない耐久性を誇る。
なのでこうやって壁に張り付く事も出来てしまうのだ。
『ギャルェウォンブイィィィィイイイイイ!』
デカスイショウガニはそう叫んで、壁をよじ登って来る。
「ちょちょちょ! 登って来れるのかよ!?」
いやよくよく考えたら最初天井に張り付いてたんだしそりゃ登れるか!
「ラルム! 俺は両手が塞がってるから、君が俺がジャンプすると同時にフックを引き抜いてまた壁にブッ刺してくれ!」
「えぇ!? わ、分かりました!」
「行くぞ……! おらっ!」
俺がジャンプすると同時にラルムがフックを引き抜いてくれ、そしてまた壁に突き刺してくれる。
「ナイスラルム!」
「え、えへへ……ありがとうございます……!」
『ギュアンブェラブェウァァァァァアアアアアアア!』
デカスイショウガニが俺を無視するなと言わんばかりの鳴き声を上げ、スピードを上げて迫って来た。
「ラルム! 連続で行くぞ!」
「はいっ!」
ジャンプし、引っ掛けて貰うのを何回もやり、デカスイショウガニと距離を離す。
『ギャイエェェ……』
お。追いつかないと思って様子を見始めたな?
「ラルム! もう引っ掛けなくて良いぞ!」
「分かりました!」
俺はすぐさま地面へ落ちると、スイショウガニの股の下を通って元々行こうとしていた方向へと走る。
俺らの目的はあくまでキーちゃん達の捜索なので、別にあのデカスイショウガニを倒す必要は無いのだ。
『グィアンヴィエエエェェェェエエエエエエ!』
やっぱり追ってくるか……! しかもさっきよりも速い!
くそ……こうなったら……!
「エリシア! ラルム! 君達は先に行ってくれ!」
「「ええっ!?」」
「キーちゃん達を探してこっちに連れて来てくれ! それまでの時間は絶対稼ぐ!」
「か……かしこまりました! ルイド様!」
「ルイド様! ご武運を!」
「ああ!」
走って行く二人をチラッと見た後、俺は短剣を構えて再度深呼吸をした。
『ギィアンブェラァァアアア!』
「来いよ。こっから先には絶対行かせない」
デカスイショウガニがスピードを乗せて右腕を勢いよく突いてくる。
「はあっ!」
それを俺は……受け流そうとする。
(くそっ……! 流石に力負けする……!)
ガガガガッ! と凄まじい音が短剣から鳴り、俺は短剣を横にスライドさせる事によって何とか受け流した……が、反動で俺も吹っ飛ばされる。
『ガァンヴェルオルェェェェェエエエエエエ!』
そして吹っ飛んだ俺に追い討ちをかける様に今度は二本の腕で俺の事を挟もうとして来る。
(マ ズ イ……!)
本来、あの深層ではこれほど力負けするモンスター相手には、キーちゃんで何とか戦うか、逃げるかしかしていなかった。
つまり、この戦い方はあの深層で全くもって経験を積めていないのだ。
それがここで仇になるとは……!
「っ! うおおおおおっ!」
俺は短剣を両手で持ち、片方の腕を全力で受け流し、そしてもう片方の腕は、靴の
体が地面にめり込むのを感じつつ、アリスさんと戦った時の様に手足に力を込めまくる。
『グァンレィィィィイイイイイ!』
キィン! と甲高い音を鳴らしながら、デカスイショウガニの攻撃を受け流す。
「よしっ! 受け流せたっ!」
そして……大体コツはもう掴んだぞ……!
「さあ……こっからが本番だ……デカスイショウガニ……!」
そう言って、俺はまたまた深呼吸するのであった。
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