圧倒的強さ

「はぁっ!」

『ギイィィエェェェェエエエエエ!』


 今受け流したので何度目だ……?

 いや、そんな事は考えるな! キーちゃん達が来るまで持ち堪える事だけ考えろ!


『ギュルェンヴルィィィイイイイ!』


 右側から攻撃!


「ふっ!」


 避けて壁にフックからのジャンプして攻撃を受け流しながら落下!


『ギャギラブェルブァジエェェェェェェエエエエエ!』


 落ちてくる俺を追撃する様にデカスイショウガニが上へと両手を突き上げる。


「甘いぞ!」


 俺はそれを脚を開いて受け流して、その威力を利用して前方に飛び出す。


『ギィィィイイイイ!?』

「油断したな!」


 俺は短剣を構えて攻撃が来るのを予測して体を捻りつつ、短剣で受け流して太い腕の上を滑る。


「おらっ!」


 そして脳天に短剣を突き刺したが……


「!?」


(硬いっ!?)


 短剣がデカスイショウガニの表面を滑り、体もそれになぞって崩れる。


「ヤバ――」


 そう言った時にはもう遅く、眼前にデカスイショウガニの手が迫って来ていた。


「っ!」


 即行デカスイショウガニを蹴る事でその攻撃を回避し、地面に着地する。


(攻撃はやっぱり通らないか……!)


 まあ薄々気付いてはいた。

 あの水晶、取る時結構硬くて大変だったからな……。


『ギャガルガンラァビファリョォォォォォォオオオオオオオオ!』


 攻撃された事に怒ったのか、デカスイショウガニが両腕をブンブンを振り回す。

 うわぁ……間違いなくあれに当たったらお終いだな。


「よっ」


 だが、このデカスイショウガニは戦闘での当たり前を知らない。

〝冷静さを欠いた方の負け〟という当たり前を。

 だから――


「ほいっ、とりゃっ、おっと」


 攻撃を簡単に受け流せるし避けられる。

 こんな狙いも何もない攻撃には俺は当たらない。


『ギランバッチョバンチャラギェェェェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエ!』


 デカスイショウガニが更に速く腕を振り回すが、やはり狙いも何も無い攻撃なので、簡単に避けられる。

 というかこれ……上手くやればデカスイショウガニ自身の攻撃をそのまま与えられるんじゃないか……?


「おらっ!」


 デカスイショウガニの腕を丁度クルンと回るように受け流す。


『ギッシェェェェェェエエエエエエエ!』


 乱雑に振り回していた腕が突如として自分に向かって行くのに冷静さを欠いていたデカスイショウガニが対応出来る訳も無く、殻に付着していた水晶を粉砕して左目に自分の腕がブッ刺した。


「よぉし!」


 狙い通り! これならもしかしたらこのまま倒せるかもしれない!


『ギイェ……ギィ……ギャァナガサンガリアグァァァァァアアアアアアア!』


 デカスイショウガニが目に突っ込んでいた左腕を引き抜き、激痛によって激怒しているのか、更にスピードを上げて腕を振り回し始めた。


「うわっと」


 いくら乱雑とは言え、流石にこうもとんでもないスピードで振り回されると流石に避けるのも受け流すのも大変だな……。


『ギラベリングビバリギィィィィィイイイイイイ!』

「っ!」


 力の差がありすぎて……受け流せない……!

 ちょっとマズイか……?


「ル、ルイド様ぁー!」

「! エリシア! ラルム!」

『ア゛ァ゛ァァァアアアアオン!』

『『『『『シャァァァアアアア!』』』』』

「キーちゃんにヒューちゃんも! 良かった! 見つかったのか!」

「はい! 奥の方で別個体のデカスイショウガニと戦っておりました! 直ちに助太刀に入ります!」

「ありがとう!」


 直後、キーちゃんとヒューちゃん達がデカスイショウガニの目の前に立ちはだかる。


『ギ……ギィァエ……?』

『ア゛ア゛ア゛ア゛ォォォォォオオン!』

『『『『『ギッシャアアアアァァァァアアアア!』』』』』


 戸惑っているデカスイショウガニに対して、キーちゃんは炎を吐き出しながら手足のひずめで水晶をバキバキに割って露出した殻を噛み砕いて行き、ヒューちゃん達は毒の霧を飛んでもない勢いで吐き出して辺りをヤバイ紫色に染め上げた。


『ギァゲ……ギャァ……ギィァァァァァァアアアアアアア!』


 そして俺が全く倒せないと思ったデカスイショウガニが、バタン、と力無く倒れた。


「……え? もう倒したの?」

『ア゛ァォン!』

『『『『『シャー!』』』』』


 あ、圧倒的過ぎないか……?


「ルイド様っ!」

「わっ!」


 ラルムが俺にガッと抱きついて来た。


「お怪我などはございませんでしょうか!?」

「な、無いよ……心配してくれてありがとう……」

「よ、良かったです〜!」


 ラルムが涙目になりながら俺の胸に顔を寄せた。


「あっ、ところでエリシア、もう一匹いたってどういう事?」

「えーとですね、このデカスイショウガニがいた更に奥により大きなデカスイショウガニがいたんです。それをキーちゃん達は倒そうとしていまして、このまま見逃すと後々面倒な事になるかもしれないと思い、キーちゃん達が倒すのを見た後、急いでこちらに戻ったという具合です」

「なるほど……ひとまず、もう一匹の方のデカスイショウガニも見てみようか」

「「はい!」」

「あとキーちゃんとヒューちゃん」

『アァォン?』

『『『『『シャー?』』』』』

「次からは勝手に行動しない事。俺らがどれだけ心配したと思ってるんだ」

『ア、アァォン……』

『『『『『シャァ……』』』』』

「もうしない?」

『アォン!』

『『『『『シャ!』』』』』

「なら良し。じゃあ行こうか!」

『アァォォン!』

『『『『『シャァアアー!』』』』』


 そうして俺らはエリシア達と共にもう一匹の方のデカスイショウガニの元へと向かった。


「これは……確かに大きいな……」


 先程戦っていた奴よりも一回りは大きい。

 これすらもキーちゃん達は倒したのか……いや凄すぎるな……。


「ん?」


 何か、お腹の方に……あ。


「エリシア、ラルム。何で俺らを襲ったのか分かったぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「一体どうしてだったんですか!?」

「理由はね、これだよ」


 そう言ってデカスイショウガニのお腹に付着している物を指差す。


「これは……何です?」

だよ」

「た、卵!?」

「そ。多分ていうかほぼ確定でこれを守る為に襲って来たんじゃないかな」

「……何だか、申し訳無い気分になって来ますね」

「だね……」


 流石にこの卵は取らないでおこう。


「それじゃあ、ちょっと腕とかそういうのを拝借したら冒険者ギルドに帰ろうか」

「「はいっ!」」


 そうして俺らは少々デカスイショウガニを解体し、冒険者ギルドへと帰るのであった。

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