水晶ダンジョン
「ルイド、君達はもう調査に来なくてもいいぞ」
早朝、宿屋の前にてアリスさんにそう言われた。
「……え? それってつまり、クビ……ですか?」
クビ。その言葉が頭の中をグルグルと回る。
呼吸が荒くなり、胸がギュゥっと締め付けられるのを感じる。
くそ……まだ永劫の剣を追放された時のトラウマは拭えてないか……。
「いや、そうじゃない。君は一応冒険者、君が私達と共に調査していたのはあくまで闘技力際の優勝者で事件が発生した直後にあの闘技場へ入った数少ない人物だったからだ。だがしかし、ここまで調査が進むと……な?」
最後の一言で察した。
超噛み砕くと、調査でいろいろなことが明らかになったから、俺らの重要性が無くなったということだろう。
……ほっ……戦力外通告とかじゃなくて良かったー……。
「それよりも大丈夫か?」
「え?」
「何か、辛そうだったからな。そんなに調査に参加したかったのか?」
「あっ、いえいえ、何でもありません。また、俺らが必要になったら言って下さい」
「ああ、そうするよ」
そうして俺らは、突然暇になってしまった。
「本当に何でも無いのですか?」
エリシアとラルムが心配そうな目で俺を見る。
どうやら、エリシア達にもバレバレな様だ。
「ほら、俺って昔パーティーを追放されちゃっただろ? あれが今もちょっとトラウマで……」
「……」
瞬間、エリシアが抱きしめて来た。
「!?」
「大丈夫ですよルイド様。私達は決してルイド様を裏切りません」
チラリと横を見ると、ラルムも凄い勢いで首を縦に振っていた。
「あ……あはは……ありがとう……エリシア……ラルム……」
「はい! それで、今日どうしますか? ルイド様」
そう言って、エリシアが俺を抱きしめていた手を離した。
「そうだなぁー……久々に冒険者ギルドに行ってクエストでもしにいくとしようか。というかこっちの冒険者ギルドがどんな感じか気になってたしさ」
「良いですね! 私は賛成です!」
「ラルムもそれで良いか?」
「はっ、はい! 構いません!」
ヨロプの冒険者ギルドか……楽しみだな……!
俺らは先程の空気から一転してワクワクとした気分で冒険者ギルドへと向かった。
そして――
「「「うわぁぁぁぁぁぁ……!」」」
予想を遥かに超える物が来た。
「な、何ですかこの建物は……!?」
「は、歯車がなんか回ってます……!」
「凄い建物だなこれは……」
冒険者ギルドの屋根の辺りに、巨大な歯車が回っていてそこから沢山の歯車が噛み合って物凄いスピードで回っていた。
「さ、早速入ってみようか……」
「そそそ、そうですね!」
「あばぁばばばばぁ……」
ぎこちない動きをしながら冒険者ギルドの扉を開ける。
中でも歯車の様なものが回っており、そこから管が伸びて酒場に繋がっていた。
何か……凄いカッコいい!
「どうしました? ルイド様」
はっ、しまった。思わず見とれてしまってた……!
「な、何でもないよ。それよりも掲示板の方に行こうか」
そして俺達は掲示板の元へと向かい、様々なクエストを見る。
うーん……この国にも色々なクエストがあるけど、どれも前にいた所とはまた違うクエストだ……。
なんて言うか、そういうのを見れるのって面白いな。
おっと、クエスト選びしないと。
…………あり過ぎて選べないな……。
「エリシア、ラルム、なんか良いのあったか?」
「私は、これが良いかな、と」
「あっ、私もです!」
二人が指差したのは、『水晶ダンジョンのモンスター討伐および、水晶採取 冒険者ランク:C 報酬1000
「おぉ、水晶ダンジョンか。良いね、幻想的な場所そうだし、これにしよう!」
早速受付嬢さんの元へ持って行き、受注する。
「場所は……西の方か。それじゃあ、行くとしようか!」
「「はい!」」
そして俺達は水晶ダンジョンへと向かうのであった。
◾️ ◾️ ◾️
「これは……また凄いダンジョンだね……」
水晶ダンジョンに着いた俺達は、辺り一面に生えたキラキラと光る水晶を眺めていた。
「見て下さいルイド様! こんなに綺麗な水晶がありますよ!」
「おぉ本当だ。凄い、向こうが透けて見える……」
そんな会話をしていると足音が近付いてくる。
形は……人じゃないな。
すぐに短剣を抜いて構える。
それを見たエリシア達も、杖を取り出して構えた――が、何やら俺のポーチがモゾモゾと動く。
「な、何だ?」
するとパピョーンと効果音が鳴りそうな飛び出し方をして地面に着地する二匹のモンスター君達。
そう、キーちゃんとヒューちゃん達だ。
『アァ゛ァァォン!』
『『『『『シャアァァァアアア!』』』』』
おお、久しぶりに戦うからか凄い張り切ってる!
『ギュギギ……』
あぁ……お相手のモンスターも萎縮しちゃってる……。
『ア゛ァァォォオオオン!』
『『『『『シャアアアアアアア!』』』』』
『ギュギィィィィ!』
そして一瞬でやられるモンスター。
うん、流石にあれは可哀想だ……。
「というかこのモンスター、見た事ないな……何だろ?」
背中にクリスタルが生えた巨大な蜘蛛? に見える。
まあ、背中のクリスタルはありがたく貰って行くとしよう。
短剣でそーっと切り落とし、ポーチの中へ入れて行く。
たった一体のスイショウグモだけでもかなりの量が取れた。
「エリシア達は……どこかクリスタルを入れられるポケットとかない?」
「私は一応、スカートに隠しポケットがいくつか……」
「わっ、私は、ちょっと大きめのポケットが二つだけです……」
うぅむ……それならこれ以上の水晶は諦めるしか無いか……。
俺のポーチ以外の何か入れられる物は貴重だからね。
「よし、じゃあ水晶はこのくらいにして、先へ進もう!」
「かしこまりました!」
「はっ、はい!」
『アォォオオオン!』
『『『『『ギシャァァァアアアア!』』』』』
「……」
何か、久しぶりにこの大所帯をを見たなぁ……。
やっぱり俺らは、こうでないとな!
そうして俺らは、水晶ダンジョンの奥へと進み、道中沢山のスイショウグモを倒して素材がほくほくになって来た頃――。
「そろそろ帰るとしようか?」
「そうですね。素材がそろそろ持ち運べない量になって来ましたし」
『アォォォォオオオオオン!』
『ギッシャァァァアアアア!』
「あんな感じで、次々と素材が来ちゃいますしね……」
そう言ったラルムの背後でドサッとクリスタルが置かれる。
「「「……」」」
うん! 早く帰ろう!
「キーちゃぁーん! ヒューちゃん達ぃー! そろそろ帰るぞぉー!」
『ア゛ォォ゛ーン!』
『『『『『シャシャシャァ〜!』』』』』
キーちゃん達がそう返事したのを確認し、俺らも帰りの支度を始める。
「スイショウグモの素材は出来る限り持ち帰ろう。水晶は、ここでなら山ほど取れるだろうし」
「分かりました!」
スイショウグモの脚を斬り落とし、ポーチの外側に付いているフックに引っ掛かる。
このフックは、あの深層にいた頃に作った物で、ポーチの中に入りにくい物や、持ち運べない物を運ぶ為に作った……が、そんなデカい素材を付けていたら戦える戦いも戦えないなと思い、今までお役御免されていた悲しきアイテムだ。
それが今! 脚光を浴びる!
「おー、よしよしちゃんと刺さった刺さった」
ジャンプしたりしてみても、返しがあるので中々抜けない様になっているので、余程のことがない限り取れないだろう。
「あれ? ……ルイド様」
「どうした?」
「キーちゃん達はどこでしょうか」
「え?」
先程までキーちゃん達が居た場所を見てみると、まるで元から何も居なかったかの様な静寂しか無かった。
「あ、あれ!? どこ行っちゃったんでしょうか!?」
「ルイド様! 探しに行きましょう! もしかしたら何かあったのかもしれません!」
「彼らに限ってそれは無いだろうけど……まあ万が一があるし、行こう!」
そうして俺らはキーちゃん達が向かったであろう方向に走り始めるのであった。
――――――――――――――――――――
何気に三章初のクエストです。ハハハッ。
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