秘匿確保

「取り敢えず、どうにかしてルドーさんがヒューちゃん達に殺されない様にしないと!」

「そうですね! ですが、どうすれば……」


 見ると、ルドーさん達はもうヒューちゃん達の目の前まで行っていた。

 本格的にマズイぞこれは……!

 ルドーさん達が死んでしまう!


「あっ、ルイド様!」

「何だ?」

「そ、そのぉ……キーちゃんを使うのはどうですか?」

『アォン?』


 私? という様な鳴き声を上げるキーちゃん。


「キーちゃんを?」

「はい、キーちゃんをヒューちゃんの前に出して、キーちゃんがヒューちゃんを倒すフリをするんです。それで、ヒューちゃんは倒れたらすぐに小さくなって貰って、ルイド様のポーチに入り、私達の方も見間違いだったと言えば、丸く収まります」

「天才かラルム!?」

「え、えへへ……」


 確かにそれなら何とかいけるかもしれない!

 ヒューちゃんが小さくなった後は、よく知らないモンスターだから分からない。とでも言って切り抜けよう!


「それじゃあキーちゃん! 頼む!」

『ア゛ァォォォォン!』


 キーちゃんはそう吠えてヒューちゃんに向かって走り出した。


『『『『『シャァー? ……シャァァアアー!』』』』』


 キーちゃんの存在に気付いたヒューちゃん達が、そう鳴く。


「うわっ!? 何だ!?」

「ルドーさん! キーちゃも一緒に戦わせるので! よろしくお願いします!」

『アォン!』


 俺らはヒューちゃんの背後に立ち、小さめの石を投げて存在を気付かせる。

 ルドーさんからは死角になっているはずだからバレない筈だ。


『シャー?』


 一匹のヒューちゃんの頭に石がぶつかり、こちらを向いた。


『シャ〜!』


 そして俺の存在に気付いて、嬉しそうな表情を浮かべて俺に頭を近付けた。

 いや後ろなのによくそんなに曲げられるな……。


「よし、ちょっと聞いてくれヒューちゃん」


 俺はルドーさん達に聞こえない様にあの作戦を伝えた。


『シャシャシャー!』


 ヒューちゃんはそう元気良く返事すると、首の位置を戻し、他のヒューちゃん達にそれを伝えていた。


「よし、それじゃあ行くぞ」


 二人がコクリと頷く。


「キーちゃん! ルドーさん! 頑張って下さい!」


 俺がそう言うと、キーちゃんは咆哮ほうこうを上げてヒューちゃん達に噛み付いた……フリをした。


『『『『『ギシュアァァァァアアアアア!』』』』』


 ヒューちゃんが大袈裟おおげさに倒れて、内一匹が『シャ……シャー……シャ……』とちょっとリアルな感じで倒れた。


「え、あ……え……?」


 俺はすぐにヒューちゃん達の頭のそばで屈み、


「よし、それじゃあ小さくなって」

『『『『『シャ』』』』』


 と、小声でそう会話して少し離れた。

 するとヒューちゃん達はキーちゃんの小型版より少し大きいくらいの大きさになり、俺の脚を登って自らポーチに入って行った。


「あ、あれ……? あの大蛇は……?」

「多分、キーちゃんが倒しちゃったんですね」

「し、死体は……?」

「うーん……見た事も無いモンスターだったので何とも……多分、そういうのが残らないモンスターだったんじゃないでしょうか?」

「そうですか……あっ、ヒューちゃん達は見つかりましたか?」

「はい、お陰様で」

「よ、良ければ見せて貰っても良いかしら?」


 ミリスさんがそう目を輝かせながらそう言った。

 ヤバイ……どうしよ……。


「い、今ルイド様の肩に乗ってるんですよー?」

「え?」

「実はヒューちゃん達は透明になれる生き物でして、今は恥ずがってるのか警戒しているのか、透明になっちゃってるんです」


 エリシア! ナイス!


「あぁーそうなのねぇー……それなら、仕方ないわね」


 ミリスさんが近くの少し大きめの石に座る。


「取り敢えず、皆さん本当にありがとうございました」

「いえいえ、というか俺ら、ぶっちゃけ何もしてませんし」

「いや、貴方達があの大蛇を発見できなければ、俺らもヒューちゃん達に会えませんでした」

「はは、そう言って貰えるとありがたいです」

「それじゃあ、帰るとしましょうか!」

「「「「「はいっ!」」」」」


 そうして俺らは冒険者ギルドへと帰るのであった。


 ◾️ ◾️ ◾️


「それじゃあ、俺らはモンスターの素材を換金して来るので、これで」

「あっ、はい、本当にありがとうございました」


 手を降りながらルドーさん達は換金所へと行ってしまった。


「何だかんだ、今回のクエストは大変だったな……」

「元はと言えば、ルイド様が迷ったのが原因ですからね!?」

「ごめんごめん……」


 それを言われてしまうとぐうの音も出ない。


「まあ、私達が目を離してしまったというのもありますが……」

「いや、エリシアの言う通り俺が離れたのが悪いから気にしないで。さ、取り敢えずクエストを達成した事を受付嬢に報告しに行こう」


 そう言って受付嬢さんの前に行き、報酬である500ベジナを貰った。


「さてと、じゃああとはこれを換金しに行こうか」

「えっと……オナガザルのやつですか?」

「それもあるけど……これ」


 ポーチに奇跡的に収まったモグラビトの爪を何本か取り出す。


「おいあれ……!」

「モ、モウルマンの爪!?」

「しかもあんなにある……!」


 周りがモグラビトの爪を見てザワつく。

 こ、これそんなに凄い物なのか……?


「と、取り敢えず換金しちゃおう!」


 足早あしばやに受付嬢の元へ行き、換金して貰う。


「こちらが、換金結果になります」


 受付嬢さんがそこそこ大きめの袋をカウンターに置いた。


「え、こっ、こんなに?」

「はい、ルイド様が持って来て頂いた素材のモウルマンの爪がかなりの高値で売れる素材ですので」

「何で高いんです?」

「シンプルに強いからです」

「……え?」


 あのモンスターが?

 シンプルに強い?


「強いんですか?」

「あれ? 戦った……んですよね?」

「はい」

「ならばお分かりになられていると思うのですが……本当に戦って勝ちました?」


 受付嬢さんが疑わしい目でこちらを見てくる。

 恐らく、俺が他の冒険者から騙し取ったりしたとか思っているのだろう。


「ちゃんと戦って勝ちましたよ!」

「……」


 疑わしい目はまだ終わらない。


「彼が言ってる事は本当だぜ」

「あっ、ルドーさん」


 どうやらまだ冒険者ギルドから出ていなかった様だ。


「ル、ルドー様!? それに、ミリス様にフィール様まで!?」


 あれ? 何でそんなに驚いてるんだ?


「見てあれ……」

「うわ……ルドーさんだ……」

「ミリスさんにフィールさんもいるぞ……」

「すっげ、生ルドーだよ生ルドー」


 な、生ルドーって何!?


「俺らは彼にモウルマンから助けて貰ったんだよ」

「さ、左様でしたか」

「だから、彼が倒したってのはマジだ」

「も、申し訳ありませんでしたルイド様!」


 受付嬢さんが青ざめながら俺に頭を下げて来た。


「ルドーさん……」

「はい?」

「貴方達、何者なんです?」

「あははは、俺はルドー、冒険者ランク〝A〟の冒険者です」

「「「えっ!?」」」

「同じく、冒険者ランクAのミリスよ」

「わ、私も同じで、冒険者ランクAです……」


 お、俺ら……とんでもない人とクエストやってたんだな……。


「そ、そんな凄い冒険者だったとは……!」

「そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ、というか、俺ら的には貴方達の方が強いですから」


 その一言で冒険者ギルド内がザワついた。


「おい今の聞いたか?」

「ルドーさんが自分らより強いって言ったぞ……!?」

「今までそんな事言った事無かったのに……!」


 そう周りが話し合う中、ルドーさんは俺の耳に口を寄せて、


「これで、借りは返しましたよ?」


 と小声で言って来た。


「ははは、はい、ちゃんと返して貰いました」


 冒険者の間で素材を騙し取る行為なんかは重罪だ。

 良くて冒険者ランクを底辺であるEまで下げられるレベルで。

 だから、この疑いが晴れたのは本当に良かった。


「それじゃ、このお金は受け取っても良いよね?」

「もちろんでございます。この度は誠に申し訳ありませんでした」

「気にしないで下さい、俺もちょっと勘違いする事言っちゃいましたし。ルドーさんも、本当にありがとうございました」

「ははは、では」


 そう言ってルドーさん達は今度は本当に冒険者ギルドを出て行った。


「それじゃ、俺らも帰ろう」

「そうしましょう」

「はいっ!」


 こうして、俺らは何とか冒険者ランクCクエストの、森林のモンスター討伐を達成したのであった。


――――――――――――――――――――

 これにて第二章完結になります!

『ラルム可愛い!』

『ヒューちゃん達エッッグ!』

『ルドーさん達、実は凄い人だったの!?』

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