第三章:召喚士と六王
来訪
「よーし、皆んな準備出来た?」
「もっ、ももも申し訳ございません! もう少しお待ち下さい!」
と、ラルムの声がトイレの中から聞こえてきた。
今から俺らは、冒険者ギルドに行ってクエストを受注しようとしているのだが、昨日色々あって少し疲れたのもあって、起きる時間が遅れた。
良いクエストは早めに取られてしまうので、こうして急いで準備している訳だ。
「大丈夫、ちゃんと待ってるよ」
そう言って俺はベットに腰掛けた。
「うふふ、ラルムはお寝坊さんですからね」
エリシアが俺の隣に座る。
「はは、だな」
「ルイド様より早く起きるべきですのに……」
「いやいや、俺は気にしてないから大丈夫大丈夫」
「ですが、やはりこういうのは――」
「シッ!」
俺は口に人差し指を当て、扉付近を注視する。
「何か来てる」
「!」
人……じゃないな。
何かが転がって来てる。
というか、階段を上がって来てないか?
ま、まさかモンスターか!?
いやでも、この街の付近には弱いモンスターしかいないし……。
じゃあ一体何なんだ?
「あっ……」
転がって来た何かは、俺らの部屋の前で止まった。
間違いない、狙いは俺らだ!
俺はすぐに短剣を抜いて構える。
「ルッ、ルイド様っ!?」
「今、扉の前にいる」
「えっ!?」
俺はあの深層で気配に敏感になった。
まあ周囲に大体何人、または何体いるかと、それがどんな形をしているかが超大雑把に分かるくらいで、それがどんな奴なのかとかいう詳細な事までは分からない。
だから、今扉の前にいる何かに最大限の警戒をする。
「…………ん?」
あれ? 何か人型になったぞ?
ど、どういう事だ?
コンコンコン、と扉がノックされた。
それも、結構下の方から。
「だ、誰でしょうか……?」
「分からない、取り敢えず、開けるよ」
俺は短剣を構えながらゆっくりと扉を開けた。
「やぁ
「ピ、ピロさん!?」
そ、そうか、あの転がっていたのはピロさんだったのか……!
「す、すみません! 転がって来ていたのでてっきりモンスターかと……あぁいや! 何でもありません!」
今物凄く失礼な事を言ってしまったぁー……!
「……まあ良いわい。ところで、ラルムはどこかの?」
「あぁ、彼女は今トイレで着替えています。ラルムー? 着替え終わったかー?」
「はっ、はい今行きま――あでっ!」
ラルムはトイレから出て来た瞬間、顔から派手に転んだ。
「ああっとと、大丈夫か?」
「ううっ、す、すみません……大丈夫です……」
「そうか、取り敢えず立ってくれ、今ピロさんが来てるから」
「あっ、はっ、はい!」
俺はラルムの手を取って立ち上がらせ、ピロさんの前に連れて来た。
「ごほん、それでな、儂が今回来たのは、
「な、何ですそれは?」
「お主らの事を……あの〝六王〟が一人、ウィーラーチ・ヴァ・アーストリアム……様がお呼びじゃ」
「「「!?」」」
ろっ、六王の方が……!?
「あっ、あの……」
「ん?」
「私、あんな反応をしましたが、よく六王について分かっておりません……」
「あっ、は、恥ずかしながら私もです……」
「ならば教えてやるわい。六王とは、この地に存在する六大国、ヴェーヴ、バハム、ヨロプ、グィーイングリット、ルペレ、ヨルドントルの王達の事じゃ」
「そうだったのですか……教えて下さりありがとうございます」
「気にするでない」
「それで、何故そんな六王の一人が僕らを呼んでいるんです?」
「うむ、それはの、其方、昨日モウルマンを一人で複数体倒したじゃろ?」
「は、はい」
「それがどうやら気になったらしいんじゃ」
「え、えぇ……? あのモンスターを複数体倒しただけでですか?」
「〝一人〟でやったのが問題なんじゃ」
「何故です?」
「あやつらが危険度Bなのは知っておるか?」
「はい」
「じゃがな、あやつらは集団になった時はぶっちゃけAになると考えても良い程強いモンスターなんじゃ」
「え!? そ、そんな強かったんですか!?」
「……お主、その様子じゃとどうやら楽々で倒した様じゃな……」
「えと……はい」
「まあ良い、レベルが47063もあるんじゃからの。そんくらいの事は出来るんじゃろうな」
「そ、そういう感じだと思います」
(まあ、それ以上のレベルの者でもモウルマンの動きは見切れなかったがの)
「して、其方らを今回呼んだ王の名前は先程言うたが……どこの国の王か分かるか?」
「……すみません、分かりません」
俺は前まで六王の事を遠い存在と思って、あんまり知ろうとしなかったからな……知っとくんだった。
「知らんのか……国の名はヨロプ。そしてそこの六王の通称は、知識の王じゃ」
「知識の……王……」
そんな異名を持つ人が俺らのことが気になるなんて……!
「それで、行くのか? 行かんのか?」
「え、それ僕らが選択出来るんですか?」
「うむ、じゃが断った場合は……どうなるか分からん」
「要するに強制って事ですね?」
「そうじゃ」
ならば、行くしかないな。
と言っても、俺が断る理由がまず無いんだけど。
念の為、俺はエリシアの顔を見た。
俺が見ているのに気付いたエリシアは、コクリ、と頷いた。
今度はラルムを見た。
ラルムも、コクリとゆっくり頷いた。
「行きます」
「まあそう言うしかないよのぉ……ほれ」
ピロさんがポケットへ入っていた何かを渡してきた。
「……これは?」
「冒険者カードじゃよ、偽物の」
「にっ、偽物の!?」
そんな物聞いたこと無いぞ!?
「そうじゃ、ヨロプの冒険者ギルドなんかで、また不正だの何だのを説明するのは面倒じゃろう? じゃから冒険者カードを出さなきゃいけない時はこいつを使うんじゃ。こいつに書かれている内容は名前と職業と冒険者ランク以外全部デタラメじゃからのぉう、そういう面倒事のには巻き込まれんじゃろうて」
「あっ、ありがとうございます!」
ピロさんからそのカードを受け取り見てみると、確かにかなりの変更がされていた。
レベルとステータスは大幅に下げられていて、スキルからは【召喚(召喚士)】が消えていた。
「エリシア達のはどうなってる?」
「レベルは……あっ、ルイド様とちょっとだけ違いますね。ステータスも。それで、スキルの召喚は【召喚(キマイラ)】ではなく、【召喚(スライム)】になってます……やった」
あっ、喜んでる。
エリシアはスライムが好きだからな……良かったな。
「わ、私のは、ルイド様ともエリシアとも別のレベルとステータスで、スキルは【召喚(ヒュドラ)】が【召喚(スケルトン)】になってます」
「スケルトンかー……」
ダンジョンでは倒しても倒しても復活して来るから何だかんだでウザかったな……。
「まあそんな感じじゃ。では、ヨロプへ行ってらっしゃいなのじゃ」
ピロさんはそう言うと律儀に扉を閉めてコロコロと転がって宿から出て行った。
「……はぁー……」
まさかモウルマンを複数体倒しただけで六王の内の一人である知識王に呼ばれる事になるとは……。
「よし、じゃあ旅の支度だけしちゃおうか」
「「はいっ!」」
こうして、俺らは六王が一人、ウィーラーチ・ヴァ・アーストリアム様、通称知識王に会いに行くために、ヨロプへと向かう準備をするのであった。
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