一方その頃……――④

「酒場での乱闘……ねぇ……最近有名になってるパーティーのリーダーがこんな事しちゃダメだろ?」

「っ……」


 くそ……何で俺が騎士団の取り調べ室なんかに……。


「まぁでも乱闘に関しては正当防衛で無罪になるだろうから、そこは安心して良い」

「そ、そうですか……」


 いやそうじゃないとおかしいだろ。

 何を当たり前の事を言ってるんだ。


「んで、多分ここに連れて来られる時にも言われたと思うが、一応何があったか聞く為に連れてさせて貰った。何があったか、話して貰えるか?」

「は、はい……まず俺らは――」


 俺は酒場であいつが喧嘩を売って来て、その喧嘩に不甲斐なく自分が負けてしまった事を話した。


「なるほどな……まぁ、それが真実ならちゃんと無罪になるだろう」

「ほっ、本当ですよ……!」

「だと良いが。よし、取り敢えず取り調べはこれで終わりだ」

「えっ、もう?」

「証言が山ほどあるからなぁ。言ってる内容もほぼ同じだし、ぶっちゃけもう取り調べる必要は無ぇんだよ」

「な、なるほど」

「おい」

「はっ」


 扉の近くにいた騎士がそう返事をした。


「彼を外まで連れてってやってくれ」

「了解しました。付いて来い」


 そうして俺はその騎士に付いて行き、騎士団本部の外へと出た。


「……全く、ほんと何でこんな目に……ん?」


 先程から、何やら視線を感じる。


「何だ?」


 辺りを見回すと、冒険者らしき人が俺の事を見ていた。


「あいつがそうらしいぜ」

「マジィ? まあ確かに言われて見りゃあ、結構弱そうだな」

「あれが最近有名になってきてたパーティーのリーダーらしいけど……あの噂本当なの?」

「本当よー! 私見てたもん! あんな酔っ払いの攻撃すら避けられないのに、どうやって有名になったのかしらね?」

「まあどうせお金でしょ」

「あぁー」


 ……何だと……? 弱い……? この俺が……?

 ふざけるな! そんな訳無いだろ! 俺はかの勇者と同じ程の強さを持つとうたわれる剣士なんだぞ!?

 弱い訳があるか!


「おいお前ら! 今俺に何と言った!?」

「うわやべ逃げろ!」

がすかぁ!」


 俺はその話していた奴らを追いかけた――が、


(何だあいつら……!? 足が速すぎじゃないか……!?)


 距離が縮まるどころか、むしろ離されていく。


 くそぉ……! 本当に何がどうなっている!?


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 遠くなって行く人影を見ながら、俺は膝に手を付いて「くそったれぇっ……!」と悪態を吐く。


「何で! 俺が! 弱いと言われなきゃならないんだ!」


 そう叫んで近くのゴミ箱を蹴った。


「……あ……」


 背後から気配がしたので振り返ると、男女二人が一緒にこちらを見ていた。


「おいあいつヤバくねぇか……?

「ゴミ箱蹴ってるー! ヤバすぎー!」

「てかあいつ、あの噂の奴じゃね?」

「本当だー! てかだとしたらマジでヤバい奴だったんじゃん」

「戦闘能力もねぇのに教育もなってねぇとか、終わってんな」

「だねー!」

「……何だと……?」


 あいつらぁ……!

 俺は怒りでブチギレそうだったが、何とか抑えて宿の方へと足を向けた。


「くぅっ……!」


 悔しくてくちびるを噛む。

 強く噛んだせいで鉄の味がしたが、そんな事は気にせず俺は宿の客室に入った。


「あ……! ヴァルト……! ……どうしたの?」

「ヴァルト……酷い顔だぜ……?」


 ユミルとギリダスが俺の顔を見て、そう少し怯えながら言う。


「……何でもないよ」

「そ、そう? なら良いのだけれど……」

「取り敢えず休めよ。ほら、その剣とか置いて、ベットで横になれ」

「……そうする」


 俺は装備を近くの机の上に置き、ベットで横になる。


「……ヴァルト、絶対なんかあっただろ。言ってみろよ」

「…………俺が、酒場で酔っ払いにボコボコにされたってのが物凄い勢いで広まってた」

「「……!」」

「騎士団本部から出た後、皆んなにあいつだあいつだって視線を向けられて……言葉を向けられて……遂には終わってる奴扱いだ」

「そんな……」

「確かに俺はあいつに負けた……だが! あれは……あれは絶対に、ル、ルイドせいなんだ! あいつがいたから、俺の戦闘能力が落ちたんだ!」


 そうだ、あれはルイドのせいだ。

 あいつのせいでモンスターと上手く戦えなくなって……対人戦闘にも支障が出たんだ。

 そうじゃないとおかしい……おかしいんだ。

 辻褄つじつまが合わない。


「そうね! 確かにあいつのせいよ!」

「だな。ったく、あいつはどこまで俺らを苦しめりゃあ良いんだよ……! ヴァルトのプライドまで傷付けやがってぇ……!」


 そこから俺らはあのお荷物に対して愚痴を言いまくり、気分と空気が軽くなった。


「よし、じゃあ今日は寝るか」

「そうしましょう!」

「俺ちょっとトイレ行ってくるわ」


 ギリダスはトイレに行き、俺とユミルは別々のベットに横たわった。


「……ねぇヴァルト」

「何だ?」

「ルイドに会ったら、どうしたい?」

「…………ボコボコにしてやる。俺があの冒険者にやられた以上にな」

「ふふっ、良いわねぇーそれ」

「だろ?」

「ん? 何の話してたんだ?」

「いやなに、今度アイツに会ったらボコボコにしてやろう、と話していたんだ」

「ははは、最高じゃねぇか。俺らをここまで弱くしてくれたんだ。そんくらいの落とし前をつけさせても、バチは当たらねぇだろうよ」

「そうだな」


 俺らはそう言いながら目をつぶり、眠ったのであった。

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