「ふぅー、何とか倒せました」


 そう言って振り返ると……


「「「……」」」


 ポカーンとしているルドーさん達がいた。


「あれ? どうかされましたか?」

「え、モ、モウルマン五体を……あ、あの速度で……?」

「あはは、ありがとうございます」


 ルドーさんはお世辞が上手いなぁ。


「いやいや、本当に……」

「取り敢えず、俺はもう行こうと思います。皆さんは……あぁそうでした、帰るんでしたね。ではお気を付けて」


 そう言ってルドーさんが指差した方向に行こうとした瞬間、


「あっ、ちょっ、ちょっと待って下さい!」


 と言われた。


「な、何でしょうか?」

「俺らにも貴方のクエスト、手伝わせて下さい!」

「えっ、な、何でですか?」

「俺らはいま危険度ランクBのモンスター五体から助けて貰いました。だからその恩返しです!」


 えぇ……助けたっていうか……なんていうか……本当にただ倒しただけ何だけどな……。

 ぶっちゃけ一緒にいたらエリシア達を探せないから断りたいけれど、ここで断ったらしつこくお願いされそうだ……。

 仕方ない、お願いしよう。


「では、お言葉に甘えるとします。よろしくお願いします」

「分かりました。じゃあやるぞ皆んな!」

「ええ!」

「はーい……」


 そして俺達はこの森林の中を歩き始めた。


「ルイドさんって、どうやってそんなに強くなったんですか?」

「あー……筋トレしたんですよ、筋トレ」

「筋トレであんな強くなれるものですか!?」

「あはは……努力は裏切らないんですよ」

「努力って凄いんですね……」


 そんな会話をしていると、フィールさんがこちらをじっと見て来ていた。


「ど、どうかしましたか?」

「えっと……その……しょ……職業は何なのかな……って……」


 うーん……これは言っちゃっても良いのかなぁー?

 いや、召喚士なのに【召喚】を使わずに危険度ランクがBのモンスターに勝ったのだと分かったら、筋トレであそこまで強くなった訳じゃない事がバレちゃうよな……。

 よし、悪いけど秘密にさせて貰おう。


「ごめんフィールさん。秘密で」

「あっ……そうですか……すみません……」

「いやいや、気にしないで下さい」


(ルイドさんは……戦士……とかかな……? いや……だとしたら何で短剣なんか……分からない……ルイドさんの職業が全く分からない……!)


「あっ、何かありますよ!」


 ルドーさんの目線の先には、確かに何かがあるが、木々がさえぎってよく見えない。


「何だ……? ……!」


 近付いてみると、その何かは段々デカくなっていった。


「これは……!」


 目の前に広がるのは、大きな湖だった。

 木々にさえぎられていてわからなかった。


「こんな所に湖があったのか……!」

「凄い大きいわね……!」

「あんまり近付かない方が良いよ……モンスターが泳いでるかもだし……」

「そ、そうね」


 三人は離れて湖を観察し始めた。

 湖……か。

 そういえばダンジョンのとある階層に湖があったなぁー。

 んで、上への階層へ続く階段はその湖のど真ん中っていう。

 水の中にいるモンスターに襲われろとでも言いたげな階層だったなぁー。

 懐かしい。


「ん?」


 ルドーさん達が何かを見つめている。


「どうしました? 何かありました?」

「あれです……あれ……」


 よーく目を凝らしてみると、湖の向こう岸に、何かがいるのが見えた。


「何だあれ……」

「!」


 ルドーさんがハッとした表情で俺とミリスさん達の服を引っ張る。


「ど、どうしましたか!?」

「お、俺……視力が結構良い方で……あ、あれが何か分かっちゃったんですよ!」

「そんなに慌てる程なの?」

「ミリス……! あれ……だよ!」


 ……ん?


「キッ、キキキッ、キマイラ!?」

「ヤバイじゃん……すぐに冒険者ギルドに報告しないとじゃん……!」


 三人がめっちゃ混乱している中、俺はずっと向こう岸を眺めていた。


「……キマイラ……」


 この森林に近くに来ているキマイラには心当たりがある。

 いや、心当たりしかない。

 キーちゃんだ! 間違いなくキーちゃんだ!


「と、取り敢えずこの森林を出て、冒険者ギルドに――」

「その必要はないですよ、ルドーさん」

「え?」

「おぉぉぉぉーいっ! こっちだこっちぃぃぃー!」

「「「!?」」」


 俺は向こう岸にいるキーちゃんに向かって大声でそう叫んで手を振る。


「ルッ、ルイドさん!? 貴方何やってるんですか!?」

「あっ貴方っ! 自殺したいなら私達を巻き込まないでよ!」

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!」

『ア゛ァォン!』


 キーちゃんがそう吠えて俺の方へ泳いで来た。

 あっ、ヤバイ! その湖には――!


『ギョギョギョギョギョギョギョギョ!』


 巨大な魚に脚が四本生えているモンスターが大量にキーちゃんに向かって行く。

 因みに、四本の脚のうち二本は腹の方に生えていて、もう二本は腕ひれがある部分に生えていた。


『ア゛ア゛ォォン!』


 キーちゃんが泳ぎながらシアシギョ達に噛みついて倒していく。

 凄い……たった一噛みだけで倒してる……。


「ひぃぃぃ! 来てる! 来てるわよぉぉ!」

「あんな力で噛まれたら死んじゃうよ……! に……逃げないと……!」

「ミリス達の言う通りです! ルイドさん! 逃げましょう!」


 ルドーさん達はそう言ったが、俺は逃げなかった。

 理由はもちろん、キーちゃんが泳いで来てくれているからというのもあったが……


「「わぁぁぁぁ!?」」


 そのキーちゃんの背中に、エリシアとラルムが乗っていたからだ!


「逃げれません!」

「何故です!?」

「あれ、あれが見えないんですか!?」

「え? ……!?」


 ルドーさんもどうやらエリシア達の存在に気付いた様だ。


「キ、キマイラの上に人が乗ってる!?」

「え!? 嘘!?」

「これ現実……?」


 キーちゃんがシアシギョに攻撃をする度に必死にたてがみにしがみついているエリシア達を見て、俺は居ても立っても居られなくなった。


「ふっ!」

「ちょ!? ルイドさん!?」


 俺は湖に飛び込み、キーちゃん達の方向に向かって泳いで行く。


『ギョッギョッギョッ?』


 俺の存在に気付いたシアシギョが、物凄い勢いで迫って来た。

 一体あの四本脚でどうやってその速度を出しているんだ……。


『ギョォォォォオオオオオ!』


 そして大きな口を開けて俺を喰おうとして来た。


「ルイドさん!」

「はあっ!」


 その瞬間、俺はシアシギョに回り込む様にして泳いだ。


「速っ……!?」


 フィールさんが後方でそう言うのが聞こえた。

 そう、俺はあの上の階層へ続く階段が湖の中央にある階層で、泳ぎに慣れているのだ。

 というか、あそこの湖にいたのに比べたらここにいるモンスターは相当弱い。

 ダンジョンの湖には全長10mありそうなワニとか、ずっと放電してるデンキウナギとか、あと何故かめっちゃ長いふん(あの尖った部分)を持ったカジキがいた。

 いやカジキは海だろ! 何で湖にいるんだよ!?


「よいしょ!」


 そして俺は背後からシアシギョの背中に登ってすぐに脳天に短剣を突き刺した。


『ギョギョギョオォォォォォ!』

『『『『『ギョギョ?』』』』』


 その脳天に突き刺した奴の断末魔で、キーちゃん達にたかっていたシアシギョ達が俺の存在に気付き、一斉に迫って来た。


「ルッ、ルイド様っ!」

「大丈夫だ!」


 俺はシアシギョ達に向かって短剣を構えて、深呼吸した。


「すぅー、はぁー」


 戦闘では冷静な方が勝つので、すぐに冷静になれるこの深呼吸にはダンジョンでもよくお世話になった。


『『『『『ギョギョギョギョギョギョォォォォォォォォ!』』』』』


 近付いて来るシアシギョ達を見て、俺は一匹のシアシギョに向かって突っ込んだ。


『ギョォォ!』


 俺を喰おうと大きく口を開けたシアシギョの上顎に短剣を突き刺し、グルンと体を上に持って行って背中に乗る。


「おらっ!」

『ギョォォォォ!』


 そしてまた脳天に短剣を突き刺し、一匹倒す。


『『『『『ギョギョギョギョギョギョギョギョォォォォ!』』』』』


 目の前で仲間がやられたからか、ジャバジャバと波を立てまくりながら泳ぐシアシギョ達。

 ここまで冷静さを欠いてしまったら――もう終わりだ。

 正常な判断が出来なくなっているシアシギョ達をドンドン倒していく。

 やっぱ冷静さを欠いちゃダメなんだなぁ……。

 そう思いながら、シアシギョを全匹倒した。


「ルイド様……! お怪我はありませんか!?」

「大丈夫、特に無いよ」


 エリシアが差し出してくれた手を掴んでキーちゃんに登りながらそう返事する。


「本当に良かったです……ルイド様にお怪我が無くて」


 エリシアはそう言うとラルムの方に顔を向けた。


「あばばばばばば……」

「ラルムは、何であんなに震えているんだ?」

「えっとですね……どうやら先程のモンスターの姿が物凄く怖かった様なんです」


 確かに、シアシギョが視界に入ると震えが強くなってるな……。


「ラルム、大丈夫か?」

「え? あ、ルイド様……な、何とかぁあばばばばばばばば」


 ラルムの視線の先には、一匹のシアシギョが泳いでいた。

 と言っても、めちゃくちゃ遠い。


「何とかなってないじゃないか……」

「す、すみません……」

「いや、謝らなくて良いよ。実際あのシアシギョ達、見た目が気持ち悪いからね……取り敢えず目をつぶって、キーちゃんが渡り切るまで待ってて」

「そ、そうさせて頂きます…………すやぁ」


 寝ちゃった。


「あら、ラルム寝ちゃいました?」

「そうみたい」

「まあ向こう岸に着くまで後三分位でしょうけど、寝かせといてあげましょうか」

「だね」


 そうして俺らは、俺がモグラビトを倒した時以上にアングリと口を開けたルドーさん達の元へ戻ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る