他の冒険者達

「……あれ?」


 オナガザルを倒してから約一時間。

 あの後も沢山のモンスターを倒してポーチがパンパンになって来たので、そろそろ帰ろうと言おうと思い後ろを振り返ると……誰もいなかった。

 ……もしかして、はぐれちゃった?


「おぉーい! 皆んなぁー!」


 そう叫んでも、返事は無かった。

 だいぶ離れてしまっているっぽいな。


「マズイ……こんな所ではぐれてしまったらほぼほぼ会えない!」


 何か目印でもあれば……あっ、そ、そうだ! ヒューちゃん達は大きいから目立つはず!

 だから、ヒューちゃん達を見つけられれば……。


「……」


 いやまずどうやってそのキーちゃん達を見つけられる高さまで行くんだ?

 木を登って辺りを見回すとかは出来ない。

 木の枝が全部高い位置にあるから、まず登る事すら出来ないのだ。


「どうするか……」


 ひとまず、前に向かって歩くとしよう。

 ここで立ち止まってたら会える確率が減ってしまうし。


「よし!」


 そうして俺が歩き始めようとした瞬間――


『イグアセグルフトロブピィィィィ!』


 地面から勢いよく茶色い人型のモンスターが現れた。


「うわっ! モンスターか!」


 ダンジョンで気配に敏感になったと思ってたが、どうやらまだまだの様だ。


『ギリュアセリョウノドボルボォォォ!』


 モグラビトはそう奇声を上げながら長い爪を俺に振りかざして来た。


「よっ!」


 俺はすぐさま短剣を抜き、力を別方向へと受け流した。

 ダンジョンのモンスター達は、力で対抗したら間違いなく負ける様なめちゃくちゃ力が強い奴らばかりだったから、この受け流す動きが体に染み付いてしまった。


『バラビルレイミチセモジョレェ!?』


 受け流されて戸惑っているモグラビトの首に短剣を持っていったが、


『ビザラブレジャスルウェ!』


 脅威の身体能力で上半身を後ろに下がられ、けられた。


「ふっ!」


 だが俺は、この場合の対処も染み付いている。

 力強い=身体性能が良いっていう事だから、今みたいに避けられる事もザラだったので、慣れてしまった。

 すぐに無防備になった脚のけんを斬り、動けなくする。


『イセルアストルプロピィルセェェェェ!』


 そして首に刃を当てて、斬った。


『ガセ……リラセ……』


 モグラビトはそう鳴くと動かなくなった。


「ふぅー、倒せたー」


 素材になりそうな部分を回収して先へ進――もうとした。


「!」


 背後から気配がしたので、パッと短剣を構える。

 木の裏にいるな。数は……三体か。

 ここはダンジョンでもないし、攻めてみるか。

 俺は木の裏の気配に向かって走り出し、その気配の元に斬りかかった。


「あれ? あそこにいた人どこ行った?」

「!?」


 人!? 冒険者か!?

 俺はすぐに斬りかかっていた短剣の方向を変え、体をねじってぶつからない様にした。


「「「うわっ!?」」」


 地面に着地した俺を見て、三人はそんな声を出した。

 もっ、物凄く失礼な事をしてしまったー……!


「すっ、すみません! こんな所で冒険者に出会うとは思わず、斬りかかってしまいました!」


 物凄い速度で頭を90°くらいまで下げる。


「いえいえ、気にしないで下さい! むしろ俺らも最初貴方の事をモンスターだと思ってしまいましたし!」


 なるほど、だから木の裏に隠れてたのか。


「そう言って貰えるとありがたいです」


 俺は頭を上げ、斬りかかろうとした人たちのことを見る。

 男性が一人と、女性が二人。

 ……なーんか既視感あるなぁ……。


「えっと、差し支えなければ、一つ質問してもいいでしょうか?」

「えっ、はい、構いませんよ?」


 一体何を質問されるのだろうか?


「ここまで、どうやって移動してきたんですか?」

「……と言いますと?」

「いや、貴方がここに来るのが見えなくてですね、もしかしたら瞬間移動系のスキルでも持っているのかなぁーと」

「えぇーっと……普通に、走って来ました」

「「「!?」」」


 め、めちゃくちゃ驚いてる……。


「ほ、本当ですか?」

「はっ、はい」

「え、本当に、本当の本当に? 嘘いてないわよね?」

「こらこらミリス、何回も聞くのは失礼だぞ」

「ごっ、ごめんルドー……」


 どうやら、目の前の茶髪の男性はルドー、今俺に嘘を吐いていないかの疑惑を持ち掛けてきた金髪のロールヘアの女性はミリスというらしい。


「それで、貴方方あなたがたはこんな所で一体何を?」

「あぁ、僕らは冒険者で、ここに薬草採取のクエストをしに来たのですが、途中で出会った巨大なモンスターから逃げている内に迷ってしまいまして……」

「なるほど……」


 ……巨大なモンスター?


「そのモンスターって、もしかして蛇のモンスターですか?」

「そうですそうです! もしかして貴方も?」


 あっ、絶対これヒューちゃん達の事だ。


「ま、まあそんな感じです」


 ここはこう言うしかない。

 っているなんて言ったら、変な誤解を生みそうだし。


「そうでしたか……ああ、自己紹介が遅れました。俺はルドー、彼女はミリスで、こっちはフィールって言います。ほら、挨拶」

「ミリスよ!」

「……フィールです……」

「ご丁寧にどうも。俺はルイドと言います」

「ルイドさん……ですか」


 ルドーさんはそう言ってコクコクと頷いた。


「取り敢えず、俺らはもう規定量の薬草は採取したので森林から出ます。ルイドさんはどうするんですか?」

「俺は――」


 そう言いかけた瞬間、また背後から気配がした。


『『『『『フィ゛ルジャラスロセルロアァァァ!』』』』』


 どうやら、またモグラビトの様だ。

 しかも今度は五体出て来た。


「「「!?」」」


 警戒していなかった彼らは驚きつつもしっかりと戦闘体制に入っていた。

 ちゃんと場慣れはしている様だ。


「モウルマンか……だが何でこんな所に?」


 えっ、あのモンスターそういう名前なの?

 知らなかった……というか、俺殆どのモンスターの名前知らないや……。


「分からないわ。でも倒さないとマズイわよ!」

「だな!」

「な、何がマズイんですか?」

「あいつらは単体でも危険度ランクがBのモンスターなんですよ! それが五体……ちょっとっていうかかなりヤバいかもしれません」


 ……え? あれが? B?

 嘘だろ?

 モンスターの危険度はEからSまである。

 Bだからその中でもかなり上な訳だが……俺が先程戦った感じ、CとかDくらいにしか思わなかった。

 ほ、本当にBなのか……?


「ルドー……どうするの……?」

「えっと……じゃあまずミリスはあの右側の奴を――」


 あっ、この感じ、本当にBの様だ。

 ならば――!


「あの」

「ど、どうしましたか? ルイドさん?」

「どうか俺に、やらせて下さい」

「「「えっ!?」」」

「あっ、貴方、正気なの!? モウルマン五体と戦うなんて、死ぬわよ!」


 ミリスさんが必死な表情でそう訴えて来た。

 ミリスさん……優しい人なんだなぁ……。

 でも……


「ちょっと……確かめたい事があるんです」

「確かめたい?」

「自分が、今どれくらい強いのか……知りたいんです。俺が危なくなったら、どうか援護して下さい」


 そう言って俺は頭を下げた。

 どうする? とミリスさんがルドーさんの顔を見上げたのが音で分かった。


「……分かりました。でも、無茶はしないで下さい」

「! ありがとうございます!」


 そうして俺は短剣を抜きながら歩き出した。


『エ゛リウセロォビリャセ!』


 一体のモウルマン……モグラビトの方が良いな。

 モグラビトが、爪を振りかぶりながら突っ込んで来た。

 だが俺はその攻撃を……


「ふっ!」


 短剣の腹を使って受け流す。


『ギリャウオセラセバラブリナ!?』


 そしてその隙に背後に回って後頭部を斬る。


『リビァラセェェェェ!』


 ドサッとモグラビトが倒れ、他の四体が少しだけ後退する。


「凄い……」


 ミリスさんがそう言ったのが聞こえた。

 えっ、やった。普通に嬉しい。


『『『『イビルシャレブルファァァァァァァァァァ!』』』』


 モグラビトが全員で突っ込んで来た。

 二体は前のめりで、もう二体はジャンプしていた。

 なるほど、確かに対処しにくいな。

 まあ、それも〝あの場所〟で慣れたが。

 俺は素早く短剣を振るい、全ての攻撃を受け流した。


『『『『ビリュアナスリュエ!?』』』』


 流石に四体全員の、しかも攻撃されにくくした攻撃が全部受け流されるとは思わなかったのだろう。

 彼らが驚いている隙に、俺は全員の首を斬った。


『リチャアゴロニュルウェ!』


 おっと、一体のモグラビトに避けられてしまった。

 あー……確かに素の身体能力が結構高いから、ギリギリBに入れなくは無い……かも?


『アジャルゲェラバァバァアァァァァァァァァァァァァ!』


 残り一体になったならば、もう先程までやって来た事と変わらない。

 攻撃を受け流して、スルリと首に刃を入れ、避ける為に後ろに下がるのが分かっていたのでそのまま短剣を押し込み、首を斬った。


『ギリュグゲェラブフォアァァァァァ!』


 バタン、とモグラビトは倒れて動かなくなった。

 こうして俺は、五体のモグラビトを倒したのだった。

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