ヒュドラ召喚

「お待たせ致しました」

「おっ、お待たせしました!」


 二人が女湯の方から出てくる。


「おぉ……」


 二人の髪がキラッキラに光っている……。


「……ん?」


 何やらドタドタと足音がしたので見てみると、女湯の方から、大量の女性達がエリシア達を見ていた。

 恐らく、エリシア達の裸体を見た女性達だろう。

 めちゃくちゃ鼻息を荒くして見ている。


「あひゅん……」


 あ、一人鼻血を出しながら気絶した。


「そ、それじゃあ行こうか」

「「はい!」」


 俺らは次々と鼻血を出しながら倒れていく女性達を肩越しに見ながら、銭湯を後にした。


「さて、どれにする?」


 そして冒険者ギルドの掲示板の前にて、俺はエリシア達にそう尋ねる。


「そうですねぇー、冒険者ランクCのクエストで、出来ればラルムのヒュドラが召喚出来るクエスト……あっ、これとかはどうです?」


 エリシアがそう言って手に取ったのは、『森林のモンスター盗伐 冒険者ランク:C 報酬500Bベジナ』というクエストだった。


「うし、じゃあそれにするか」


 クエストの紙を受付嬢さんに持って行き、クエストを受注した。


「さてと、場所は……地図だと南西の方にあるらしいな」

「では、早速そこへ向かいましょう!」

「そうだな。ラルム!」

「あひゃい!」


 呼ばれると思ってなかったのだろう、驚いて変な声が出ていた。

 可愛いっ。


「ヒュドラ召喚、期待してるよ」

「! が、頑張ります!」


 ラルムがふんすと鼻を鳴らした。

 可愛いっ。


「じゃあ、森林に向かおうか」

「「分かりました!」」


 そして俺らは冒険者ギルドを出て、南西の森林へと向かった。


 ◾️ ◾️ ◾️


「ここかー」


 目の前には、めちゃくちゃもっさりとした木々が並ぶ森林がある。


「木が一本一本大きいですねー……」

「太さもかなりあります……!」

『アォォン……』


 それに地面少しデコボコしているな。

 確かに、こんな所でモンスターと戦わなきゃいけないんだから、冒険者ランクCのクエストにもなるか。

 辺りを見回して、誰も人がいない事を確認する。

 ラルムに召喚して貰う為だ。


「それじゃあラルム」

「はい!」

「早速ヒュドラを召喚してみてくれ」

「かしこまりました! 【召喚】!」


 ラルムそう唱えると、目の前に巨大な魔法陣が現れ、ヌンと黒い蛇の頭が九つ出て来て、その頭全部と繋がっている巨大な胴体が出て来た。


「うわぁ……」


 大体30mはあるぞ、これ。

 九つの内の一匹が、俺らに顔を近付けた。


『……シャ〜!』


 そして、俺に頰をスリスリしてきた。


「……え?」

『シャ〜! シャ〜!』


 見た目とのギャップに、俺は少し戸惑った。

 が、まあキーちゃんもそんな感じだったのを思い出し、俺はヒュドラの頭を撫でた。


「えっと……この子、正確にはこの子達は、ヒュドラのヒューちゃんです!」

「へぇー、ヒューちゃんって言うのか……ん? 待ってくれラルム」

「はい?」

「一体一体に名前を付けてやらないのか?」


 一括でその名前なのは少々不便じゃないか?


「えっと……このヒューちゃん達は、真ん中の子以外を斬ると頭の数が増えていっちゃうんです。だから、全部の子達に名前を付けるとなると、とんでもない事になっちゃうんです」

「……って事は、今このヒューちゃん達は頭の数が増えている状態って事か?」

「いえ、この子は素の状態の子ですね。恐らく召喚した際にリセットされたのだと思います……!」

「へぇー」


 召喚をすれば、その時に負っていた傷も癒せるのか……。

 まあ、対象を指定してやる事は出来ないから現実的では無いな。


「これからよろしくな、ヒューちゃん達」

『『『『『シャー!』』』』』


 ヒューちゃん達はそう鳴くと、九つの頭全部で俺にスリスリして来た。


「うわぁちょっ! 潰れる潰れる!」

「あぁわぁわわわ! ヒューちゃん達! ルイド様が困ってます! 離れて下さい!」

『『『『『シャー……』』』』』


 ヒューちゃん達は渋々離れてくれた。


「ふぅ……ありがとうラルム」

「いえ、むしろヒューちゃん達がごめんなさい」

「気にしなくて良いよ。懐いて貰えて嬉しかったしな」

『『『『シャー!』』』』』


 どうやら向こうもそう言って貰えて嬉しかった様だ。


「それじゃあ、早速モンスターを倒そうか」

「そうしましょう」

「はい!」

『アォォン!』

『『『『『シャァァァー!』』』』』


 ……なんか、凄い大所帯になって来た気がする。

 そう思いながら、俺らは森林へと入っていった。

 そしてその五分後――


「へぶぇ!」


 ラルムが木の根っこに足を取られて顔面から転んだ。


「大丈夫かー?」

「だ、大丈夫です……」


 手を差し出して、ラルムを立たせる。


「あっ、ありがとうございますルイド様」

「いや、気にしなくて良いよ。確かにここら辺は足場がデコボコしているから、転んじゃうのも無理ないよ」

「そう言って頂けるとありがたいです……」


 そんな会話をしていると、木の上の葉っぱがガサガサと鳴り、


『ギリュイィィィィ!』

「出た! モンスターだ!」


 猿に似たモンスターが降って来た。

 尻尾が物凄く長い。


『『『『『シャー!』』』』』

『ギュ、ギュリィ……?』


 う、うわー、完全にヒューちゃん達の威嚇でビビっちゃってるよ。

 まあでも大きさ30mもあって、首が九つもある大蛇が威嚇して来たのだ、無理もない。

 恐らく、このオナガザルはヒューちゃん達の事を木だと思っていたのだろう。

 じゃなきゃ俺らの前に出て来る訳がない。

 ……何と言うか、少し同情出来る。

 まあ襲って来るなら容赦しないが。


『ギュリィ……ギュリイィィィィイイイイイ!』


 オナガザルがテンパって腕を振り回しながら突っ込んで来た。

 あぁー……突っ込んで来ちゃうのか。ならば仕方ない。


「ヒューちゃん達、あのオナガザルを倒してくれ」

『『『『『シャァァァァー!』』』』』


 ヒューちゃん達はそう元気よく返事をすると、オナガザルとの頭くらいまで頭を落とし、


『『『『『シィヤァァァァァァアアアアアアア!』』』』』


 口から見るからに毒々しい紫色の煙を吐いた。


『ギュ、ギュリィ……』


 そしてそれを浴びたオナガザルは、バタンとその場に倒れてしまった。


「うわぁ……凄い威力だな」

「本当ですね……でも、どうやら私達には無害の様です」

「あっ、本当だ」


 周りにあの紫色の毒が漂っているが、俺らは別に吸っても何ともない。


「ありがとなヒューちゃん達」

『『『『シャー!』』』』』


 ヒューちゃん達が笑った様な表情をしながら、皆んなで頭をり合わせていた。

 多分、ハイタッチみたいなものだろう。


「それじゃあ、この調子でドンドン倒して行こう」

「「はいっ!」」

『アォォン!』

『『『『『シャアアー!』』』』』


 そうして、俺らはオナガザルの素材を取って歩き始めたのだった。

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