銭湯
「ん……」
宿に帰って翌日、俺は目が覚めると身動きが取れなかった。
「すぅー、すぅー」
理由は単純! 俺の上にラルムが乗っているからだ!
そう、昨日はラルムが早起きしてくれたから起き上がれた訳だが、ラルムが起きてくれなかったら、俺は起きても起き上がれないのだ。
「……早起きの悪いところが出たな……」
一度自然と眠りから覚めてしまうと、もう一度寝るのは中々難しい。
でも、ラルムが起きるまでの時間はぶっちゃけ非常に退屈だ。
(どうしようか……)
そう思っていると、横腹をツンツンされた。
「うびゃ!?」
へ、変な声を出してしまった……。
「うふふ、おはようございます。ルイド様」
そう言って笑ったのは隣で俺と同じ境遇に遭っているエリシアだった。
「エリシア……そういうのは心臓に悪いって……」
「ふふっ、ごめんなさいルイド様」
そう言って笑うエリシアと共に、スヤスヤと眠るラルムを見る。
「ラルム……どうします?」
「どうしようか」
「起こしますか?」
「いや、寝かせといてあげよう。ぐっすり眠れる事の素晴らしさは分かるだろ?」
「もちろんです」
ダンジョン内ではぐっすり眠れるなんて事はなかった。
いつ襲われるか分からないからだ。
だから、こうやってグッスリ眠れるのは本当にありがたい。
「それじゃあ、今日は何をするか話し合いましょうか」
「良いねぇ」
「じゃあ、まず何をします?」
「うーん……まあ冒険者ギルドに行ってクエストを受注するかなぁー」
「どんなのが良いですか?」
「せっかく冒険者ランクがCになった訳だし、冒険者ランクCじゃないと受けられないようなクエストが良いなぁ」
「やっぱりそうですよねぇー。私達も運良く冒険者ランクCにして貰えましたし、そういうのに挑戦してみたいです!」
「それ、普通の人が聞いたら発狂するからね……?」
普通冒険者でもない人がいきなりランクCになるのはあり得ない話だ。
今冒険者ランクがEやDの人が聞いたら羨ましがるってレベルじゃない。
もう昼夜問わず背後に気を付けなければならないレベルだ。
「うふふふ、そういえば、冒険者ランクCのクエストって、どんなのがあるのですか?」
「えぇーっとねぇー……」
そこからクエストの事や
「すぅー、すぅー」
「「…………」」
まだ、寝てる!
「起きませんねぇー……」
「だねぇー……」
そろそろ絶世の超絶美女二人にピッタリとくっ付かれている俺を制御している理性が壊れそうだ。
「すぅー、はぁー」
……頼む早く起きてくれ!
「ふぁ、あぁ〜……」
俺の願いが通じたのか、ラルムが
「おはよう、ラルム」
「……おはようございます……ルイド様」
寝ぼけまなこのラルムが目を擦りながらそう言う。
「早速なんだが……」
「……?」
「ちょっと降りてくれないか?」
「…………あぁ! も、申し訳ございませんでしたルイド様!」
ラルムがベッドから(正確には俺らから)飛び降り、ペコッと頭を下げる。
「ふ、普通であれば私が先に起きているべきですのに……誠に申し訳ありません!」
「良いよ良いよ、エリシアとも話せたし」
「エッ、エリシアさんと……」
「ラルム、私にはタメ口で良いわよ」
「すっ、すみま――ごめんエリシアちゃ、ちゃん……」
「ちゃんもいらないわ」
「わ、分かった……エ、エリシア……!」
何だかんだで、結構仲良くなっている様だ。
「それじゃあ、早速身支度をして冒険者ギルドに向かおう」
「「はい!」」
それから俺達は服を着替えたりなどして、冒険者ギルドに向か――おうとした。
「なあ、エリシア」
「? どうかされましたか?」
「俺、一つとんでもない事に気付いてしまったんだ」
「そ、それは一体なんですか……!?」
俺は大きく深呼吸して、言った。
「俺ら、一ヶ月以上体を洗ってない」
「「!」」
エリシアが二、三歩よろめく。
「大丈夫かエリシア?」
「だ、だだだ、大丈夫ではありません……! そんな状態でルイド様の隣で寝ていたなんて……! ルイド様! どうか、銭湯に行かせて下さい!」
エリシアが今までに無い程の必死な顔でそう
「らっしゃい」
番頭さんにお金を払い、男湯と女湯に別れて入って行った。
(そういえば……この服も一ヶ月以上洗ってないんだよな……)
今度絶対に洗濯しなくては。
大浴場に入り、シャワーを浴びる。
「おぉっ!」
久しぶりのお湯に体が驚く。
「よし、やるか」
そこから俺は垢を落としまくったり、ギットギトになった頭を洗ったりした。
「!」
軽い! 体がマジで軽いぞ! 気のせいじゃないレベルで!
俺はその軽い体を動かしてルンルン気分で湯船に浸かる。
「あぁ〜……」
自然とそんな声が出た。
やっぱ風呂って大事だわー。
「おっ? よぉ!」
「ん?」
そう声をかけて来たのは、黒狼の
「ガルドさん!」
「奇遇だなぁ、おめぇさんもここの銭湯使うのか?」
「まあ、そうですね」
だってここ以外銭湯ほぼ無いし。
「ていうかよぉ、おめぇさん、あのパーティーから抜けちまったらしいが、なんでだよ?」
……抜けた?
「えっ、あの、ガルドさん」
「何だ?」
「俺がパーティーから抜けた事になってるんですか?」
「ん? 違うのか?」
「ええ、実は――」
俺はヴァルト達からお荷物だとしてパーティーを追放された事を話した。
「おいおいそうだったのかよ……あいつら、何とも馬鹿な事をしたなぁ」
「え?」
「あのパーティーは、おめぇさんがいたから成り立っていたんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「おめぇさんのそのゴブリンがいなきゃ、あの俺らと一緒にやったクエストであいつらは累計で15回は死んでらぁ」
「え、そ、そんなに!?」
「ああ、モンスターと距離が近すぎて死亡、背後から攻撃を受けて死亡、味方の攻撃が当たって死亡、他にもあるぁ」
「そんな……」
流石に彼らでもそんな初歩的ミスはしないだろう。
まあ確かに彼らが少し危ない時はあった。
でも、ガルドさんの言った事の様にはならない程度だ。
流石に
「んで、おめぇさんはあれから一体何やってたんだ?」
「……どうしてそんな事を?」
「見りゃあ分かる。おめぇさん相当強くなっただろ?」
「!」
「やっぱりな。肉の付き方が前と全然違ぇ」
そう言われて視線を自分の腕に落とすと、確かに前より筋肉質になっていた。
「だが、おめぇさんらが俺らと組んでクエストをやったのが一ヶ月半前、たったこれだけの期間でそれほど強くなれる人間たぁそういねぇ。だからよ、何やってたのか知りてぇんだ」
……これ言っちゃっても良いのかなぁー?
ダンジョンの何百層も下から上がっていたって。
いや、言ったところで信じてくれないのが関の山だろうし、内緒にしておこう。
「あはは……そう言われても、ただちょっと鍛えただけなんですよ」
「本当かぁ?」
「本当ですよ」
「……」
ガルドさんが俺の目をマジマジと見てくる。
なんか、とんでもなく圧を感じる……!
でも、この様な圧はダンジョンで散々受けてきたので、慣れっこだ。
ただ、人間からこんな圧を出せるとは思ってなかったので、ちょっと驚いてしまった。
「ふっ、この圧を受けても何も言わねぇってこったぁ、どうやらマジみたいだな」
「ですから本当ですって……」
ごめんなさいガルドさん!
「それじゃあ、そろそろ俺は行きます」
「なんだ、もう行っちまうのか?」
「そろそろのぼせてしまいそうなので」
嘘だ。
本当はなんだか居たたまれない気持ちになって来たからだ。
「では」
「おう!」
ガルドさんにお別れを言って、俺は大浴場から出るのだった。
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