感謝

「やっと……ここまで来れたね……」

「そうですね……ルイド様……」

『アァォン……』


 俺は壁に手を付いてこう言う。


「〝上層〟に……!」


 そう、遂に、遂にだ! 

 遂に壁の色がオレンジ色に近い赤色になったのだ!


「よし、地上までもう少しだ! 突っ走ってしまおう!」

「はい!」

『アォォン!』


 キーちゃんの背中に乗り、物凄いスピードでダンジョンを駆け上って行く。

 途中、俺らを襲ってきたモンスターがいたが、深層でも無双していたキーちゃんが上層のモンスターにやられる筈もなく、むしろ向こうが逃げ出したところを、キーちゃんが体当たりだけで倒しちゃったりしていた。

 出来ればそいつら素材を拾いたかったが、もうここに来るまでの間にポーチがパンッパンになっていたので、悔しいが諦めた。

 そして、今……


「お疲れキーちゃん」

『アォォン……』


 キーちゃんが少し疲れたそうだったので休ませる事にした。

 まあ彼女は「まだ走れる!」と言っている様な鳴き声を出していたが、万が一があるといってなんとかおさめた。


「エリシア、少しだけ見て回らないか?」

「え、大丈夫なのですか?」

「俺はこのダンジョンに潜って多少は強くなったからね。モンスターに襲われても、エリシアを守る事くらいは出来るよ」

「そ、そういう意味ではなく、疲労的な意味で……」

「あぁ、そっちの方でも問題無いよ。何せここに来るまで全部キーちゃんがやってくれたし」


 本当にキーちゃんに感謝しきれないや。

 キーちゃんがいなかったら、俺はもう死んでいる。

 間違いなく。


「それじゃ、行こっか」

「はい!」


 そして俺らはダンジョン内を散策し始めた。


「それにしても、やっと上層に着きましたね!」

「ああ、もうすぐ地上だと思うと、何というか泣けてくるな……」


 本当にこのダンジョン内では色々あった。

 転移トラップに引っ掛かったり、深層で死闘を繰り広げたり、レベルが上がってエリシアを召喚したり、めちゃくちゃ強いモンスターと戦っまくったり、モンスターを何とか料理したり……あと水の確保が大変だったなぁー。

 水を出現させるモンスターから水を確保したりもしたっけ……なんだか懐かしく感じるな……。


「俺はここに来る前より強くなれたかな?」

「絶対になれてますよ!」

「ははは、そう言って貰えると嬉しいな」


 そうして二人で歩いていると……


『ギギギッ!』


 一体のゴブリンが俺らの前に出て来た。


「……ゴブリンか」


 懐かしい。本当に。


「下がってて」

「かしこまりました!」


 俺は短剣を腰から抜いて構える。

 ゴブリン程度ならば……自分から攻めてみても良いか。

 俺は短剣を腰付近に持って行って前傾姿勢ぜんけいしせいでゴブリンに向かって突っ込んだ。


『ギッ、ギギッ!?』


 ゴブリンは慌てて棍棒こんぼうを振り下ろして来たが


「そんな振り下ろしじゃ、倒せないよ」


 俺は短剣の腹で棍棒を右方向へ滑らせる。


『ギッ!?』


 何故自分の棍棒が自分から見て左側の方向へズレて行くのか理解出来ていないゴブリンの首に、刃を入れる。


『ギェ……』


 ゴブリンは慣性に従ってバタンと前に倒れ、動かなくなった。


「……ふぅ、一応ゴブリン相手には苦戦しなくなったな」


 前は数的有利が無いと倒せなかったのに……ちゃんと成長出来たんだなぁ……俺も。


「エリシア、大丈夫か?」

「は、はい……」

「ん? どうしたの?」


 エリシアが何故か目を見開いている。


「今、何をしたのですか?」

「え? ただゴブリンの首を斬っただけだよ」

「え? はっ、速すぎません……?」

「そう?」


 そんなに速かったかなぁ……?


「まあエリシアに怪我が無さそうで良かった。もう少しだけ歩いたら帰ろう」

「はい!」


 そうして俺らは再度ダンジョン内を歩き始めた。


「……ん?」


 すると、見覚えのある風景が目に入った。


「あ……」

「どうされましたか?」

「ここだ」

「え?」

「ここなんだよ、俺が深層に転移させられた場所」

「!」


 俺は転移型トラップの一歩前に立つ。


「……」


 あと一歩先に、俺をあの地獄へと送ったトラップがある。

 でも、こいつのお陰で俺は強くなれたし……エリシアとも出会えた。

 だから俺は、ペコッとお辞儀をしてエリシアの元に戻った。


「ルイド様……その、何故頭を下げたんですか? 自分自身を殺しかけたトラップですよ?」

「まあ確かにそうなんだけどね……でもほら、そのお陰でエリシアと会えたし」

「〜〜っ!? ル、ルイド様、不意打ちはダメです!」

「え? 不意打ち?」

「き、気にしないで下さい!」


 そう言ってエリシアは早歩きで前へと進んで行ってしまった。

 俺、何か怒らせる事を言ってしまったのだろうか……?

 いや、不意打ちって言ってたし、何かを〝して〟しまったのかもしれない……。

 その後、謝ったが「ルイド様が悪い訳ではありません」と言われた。

 ふーむ……どういう事だ?

 俺は少しそれについて考えながらエリシアと歩き始めた。


 ◾️ ◾️ ◾️


「そろそろ戻ろうか」

「そうですね、キーちゃんの疲労も回復したでしょうし」


 そう言ってキーちゃんの所に戻ると……


『クゥーン』


 めっちゃ甘えたそうにしているキーちゃんがいた。


「全く、どこを撫でてほしいんだ? ここか?」

『アォーン!』

「おーそうかここかー」


 首の付け根辺りをわしゃわしゃとしてやり、早速出発をする事にした。

 キーちゃんの背中に乗り、何となく辺りを見回すと、


「……!」


 遠くの方に、チラッとゴブリンが見えた。

 だがそいつはすぐに岩陰に入ってしまった。


「ルイド様? どうかなされましたか?」

「あっ、ああいや、何でもない。頼む、キーちゃん」

『ア゛ァォン!』


 キーちゃんが咆哮ほうこうを上げて走り出す。


「……ありがとう」


 俺はあのゴブリンに対して、そう呟いた。


『ア゛ォン! ア゛ォン! ア゛ォォン!』


 キーちゃんはそうえながらどんどん駆け上って行き、そして――


「「うわぁ……」」

『アォォン……』


 太陽の光が、俺らを照らしたのだった。

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