何がしたいか、何になりたいか

「「うわぁぁぁああああ!」」

『『『『『ギリュルルルルルルルルルルルルル!』』』』


 現在、俺らは大量の人喰い植物モンスターに追いかけ回されている。

 こうなったのは、大体十分前。

 やっと中層に辿り着き、「やったぁぁー!」とはしゃいで喜んでいたら、囲まれていた。

 ……いやまあ、自業自得ではあるんだけど、今までずっと下層の色だった壁が、遂に中層の色になったのだから普通に喜ばせて欲しかった。


「キーちゃん! 何とか出来ないか!?」

『アウアウ!』


 どうやら無理と言っている様だ。


「くそ……」


 チラッと後ろを振り返る。


『『『『『ギリュロォォォォオオオオオオオオオ!』』』』』


 うん、倒せる量じゃない。

 因みに、最初の頃はちゃんと倒していたのだ。

 ただ、いかんせん数が多すぎて、撤退せざるを得なくなった。

 その結果が今のこれな訳である。


「どうすれば良いんだ……!?」


 短剣は無理、キーちゃんも無理、エリシアを戦わせるのは論外。

 だがこのままではこちらの体力が尽きて終わる。

 やっぱり上に続く階段を探すしか……ないか?

 でもそれを登れるかなぁ?

 階段を登る際、少しだが速度が落ちる。

 その時に追いつかれて喰われてしまうかもしれない。

 いや、とりあえずは探そう。

 そしてもし見つけたら、行けそうならば登ってしまおう。


「エリシア! キーちゃん!」

「はい! 何でしょうか!?」

『アォン!?』

「ひとまず上に続く階段を見つけよう! そんで行けそうだったら登っちゃおう!」

「かしこまりました!」

『アォォン!』


 そして俺らはキーちゃんにくわえられてから背中に乗せられ、階段を探し始めた。

 その際にも、色々な方向からあの人喰い植物が迫って来たが、キーちゃんがジャンプなどをしたりして何とか囲まれずに済んだ。


「あ! あった!」


 走っていると、上に続く階段があった。

 後ろを振り返り、人喰い植物と距離が離れているのを確認する。


「行ってくれキーちゃん!」

『アォン!』


 キーちゃんが物凄いスピードで階段に向かって駆ける。

 だが、


『『『『『ギリュレレレレレレレレレレレレレレレ!』』』』』

「なっ!?」


 どこからか出てきた大量の人食い植物が、上の層に続く天井の穴を塞いでしまった。

 これでは階段を登っても上の層に行けない……!


「キーちゃん! これはどうにか出来ないか!?」

『ア゛ォォン!』


 キーちゃんはそう元気良く返事した。

 どうやら、このくらいの量ならばなんとかなるらしい。


「じゃあ頼む!」

『ア゛ァォォォオオオン゛!』


 キーちゃんが物凄いスピードで人食い植物たちのくきを噛み砕いていく。


『『『『『ギュルリルラァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!』』』』』


 怒り狂った人食い植物達が、キーちゃんを喰べようと口を物凄い速度で近付けて来た。


「させるかっ!」


 俺はすぐに短剣をに抜き、人食い植物達の口を斬り刻んだ。

 口がないので人食い植物達は叫びはしなかったが、グネグネと茎を高速で動かしていた。

 なんか……気持ち悪い動き方だな……。


「はあっ!」


 他にも迫って来ていた口を斬り刻み、あの穴を塞いでいる茎をキーちゃんに当たらない様に斬る。


「よし!」


 遂に塞がっていた穴が空いた!


「突っ込んでくれ!」

『ア゛ォォォォン!』


 キーちゃんが階段を使って穴に向かって突っ込む。

 ぶちぶちと茎を引きちぎり、何とか上の層に行く事が出来た。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 結構な量の茎を斬ったので疲れた……。

 穴から下を見てみると、人喰い植物達がのそのそと散って行った。


「はぁー!」


 ゴロンと横たわってそう叫ぶ。


「お疲れ様でした、ルイド様」

「ありがとうエリシア。エリシアもお疲れ様」

「私は何もしておりません。ルイド様とキーちゃんのお力です」

「いやいや、エリシアがいてくれるから俺はこんな所でもやってけるんだ」

「〜〜っ!? な、何をおっしゃいますかルイド様! そんな事は言っちゃダメですよ!」

「え、えぇ……?」


 俺、何か悪い事を言ってしまっただろうか?

 だけど、なんかダンジョンの中とは思えないほどなごやかな空気が漂っている。

 良いなぁ、やっぱこういう空気の中にいるのが好きだ。


「と、時にルイド様」

「ん?」

「このダンジョンから出たら、何をしたいですか?」

「何を……したいか……?」

「はい。ベットで寝たいとか、ちゃんとした食べ物を食べたいとか、はたまたその食べ物を料理したいとか、あとは……わ、私と一緒にいたいとかごにょごにょ」

「え? ごめん、最後の方が聞こえなかった」

「な、何でもありません! あっ! 何になりたい、とかでも構いませんよ! 騎士になりたいとか、はたまたお花屋さんになりたい、とか」


 何になりたいか……か。


「だったら俺は……強くなりたい」

「強く、ですか?」

「うん、俺がパーティーを追い出されちゃったのは、もちろんスキルが弱かったのもあるからど、俺自身が弱かったからってのが大きいと思うんだ」

「……ルイド様は凄くお強いですよ?」

「ははは、お世辞でもありがたく受け取っておくよ。まあ取り敢えず、このダンジョンで学んだ知識を活かして、ここから出た後もっと強くなって、それで……なんて言うか、気ままに生きれたらなぁ……って思うんだ」

「そうですか……とても良い目標だと思います」

「ははは、そうかな?」

「ええ」


 そう言って貰えるのは素直に嬉しい。

 何というかやる気が出て来た。


「エリシアは何がしたいの?」

「私は……ル、ル……」

「る?」

「ルイド様、と、いっ、一緒にいたいっ、ですっ!」

「…………!?」


 お、俺と一緒にいたい!?


「……」


 エリシアを見ると、そっぽを向いていたが、少しだけ見える頬っぺたが真っ赤に染まっていた。


「……」


 俺も何だか恥ずかしくなり、そっぽを向く。


 ダンジョン内に似つかわしくない、先程の空気とはまた違う別の空気がもっと強くこの場を支配する。


「そっ、そろそろ行こっか!」

「そっ、そそそっ、そうですね!」

『アォォン……』


 キーちゃんの「何してるんだ……」と言っている様な鳴き声の中、俺らは顔を少しだけそっぽに向けながらダンジョン内を歩き始めるのだった。

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