冒険者ランク、アップ
「すみません、クエストのベージャ鉱石採取を達成したので、確認と報酬をお願いします」
「かしこまりました。それでは、冒険者カードとベージャ鉱石を提出して下さい」
冒険者カードをカウンターに乗せて、取って来たベージャ鉱石をどんどん乗せていく。
「……!?」
ん? なんか受付嬢さんが驚いている気がするけど……まあ良いか。
多分、俺は腰に十個程ポーチを着けているから、それを見て驚いたんだろう。
キーちゃんを見られていないと良いんだけど。
「以上です」
「か、かしこまりました。少々お待ち下さい」
受付嬢さんがベージャ鉱石を奥へと持って行き、何やら話し声が聞こえた。
えぇ……もしかして状態悪かったかなぁ?
「大丈夫かなぁ?」
「大丈夫ですよ、何せルイド様が取ったベージャ鉱石なのですから」
「いやいや、エリシア達も取ったじゃんか」
「ルイド様のベージャ鉱石には敵いません」
「何だそりゃ。ちゃんと皆んなのベージャ鉱石も凄い状態が良いよ」
「うふふ、ありがとうございます、ルイド様」
「あ、ありがとうございますルイド様」
そんな会話をしていると奥から受付嬢さんが戻って来た。
「こちらがクエストの報酬になります」
そう言って1000ベジナが入った袋が渡された。
「そしてこちらが……
「よ、余剰金?」
「はい、ルイド様が採取されたベージャ鉱石の量が、予想を大幅に上回りましたので、クエストを依頼された方に連絡を取って余剰だった分を換金させて頂きました。ベージャ鉱石その物が欲しければそう言って下されば取って参ります」
「あっ、お金で大丈夫です」
「かしこまりました。それでは、余剰金の5000ベジナになります」
「あ、ありがとうございます」
そう言って俺は5000ベジナが入った袋を受け取り、その袋の中に1000ベジナを入れて空になった方の袋を返した。
「ほら、言ったじゃないですか。大丈夫ですって」
「ははは、本当にそうだったね」
まさか、余剰金が出るとは。
お陰で合計6000ベジナも稼げてしまった。
「ルイド様、一つ忘れていませんか?」
「ん?」
「それですよ、それ」
エリシアがポーチに詰まったアイストカゲの尻尾を指差す。
「あぁ、そうだった。余剰金を貰えたのが嬉しくて忘れてた」
「うふふ、それでは換金所へ行って来て下さいませ」
「分かった」
そう言って俺は換金所へと向かった。
「すみません、換金をお願いします」
「かしこまりました」
カウンターの上にアイストカゲの尻尾を出しまくる。
「……え?」
受付嬢さんが少し戸惑った声を出した様な気がするが、まあ気のせいだろう。
さっさと全部出してしまうとしよう。
「ふぅー、以上です」
「ちょっ、ちょっとお待ちを」
受付嬢さんが近くにいた受付嬢さんを呼んできた。
「えーと……ルイド様方はベージャ鉱石採取のクエストを受けて、ダンジョンに向かわれましたよね?」
「はい」
「恐らく、五層目まで潜ったと思うのですが、合ってますか?」
「はい、合ってます」
「この尻尾は……そこで狩ったモンスターから取った物ですか?」
ここの部分だけ、受付嬢さんは声を重くして聞いてきた。
「は、はい……」
そう言うと、受付嬢さん達の顔がパァッと明るくなった。
「ほ、本当ですか!?」
「本当です」
「「やったぁー!」」
受付嬢さん同士がハイタッチする。
「あの、どういう事です?」
「あぁ、取り乱して申し訳ありません。実は、あの五層のモンスター達には我々も手を焼いていたのです。狩っても狩っても巣からどんどん出て来て、巣を叩こうにも数が多すぎて出来ず……ここら付近にはS級の冒険者はいませんでしたので、本当に倒せなかったんです。確認ですが、全部倒しましたか?」
「た、多分全部倒しました」
「そうですか……そうですか……!」
受付嬢さんが満面の笑みを浮かべたまま奥へと向かって、すぐに戻ってき来た。
「ルイド様、ギルドマスターがお呼びです。パーティーのお仲間と共にギルドマスター室へお入り下さい」
受付嬢のその発言で、ギルド内がザワッとなる。
「ギ、ギルドマスターが!?」
ギルドマスターに呼ばれるなんて、S級冒険者が来た時にそうなるとかくらいしか聞いた事が無いぞ……!?
「わ、分かりました……呼んできます……」
エリシア達の元へ戻り、ギルドマスターに呼ばれた事を伝える。
「ええっ!? それって相当凄い事じゃないですか!?」
「あぁ、めちゃくちゃ凄い事だ」
「ルイド様、ギルドマスターに会ったらまずは深呼吸して下さい。そういう場では落ち着いておかないとなりませんから」
「あっ、ありがとうエリシア」
そう言って俺は入る前から深呼吸をしつつ、ギルドマスター室の扉を三回ノックする。
「入れ」
部屋の中からそう重みのある声が聞こえた。
「しっ、失礼します」
扉を開けてお辞儀をし、ゆっくりと中に入る。
「来たか」
席に座った大柄な男の人がそういう。
間違いなく、この人がギルドマスターだろう。
「座れ」
彼の言葉に従って俺らは彼の対面にある長椅子に座った。
「それじゃあ、早速だが――」
緊張して、ゴクリ、と固唾を飲み込んだ。
「出てきてもらっても良いか? ピロさんよ」
彼がそう言うと、俺らの席の後ろから白くて丸い物体がピョーンと飛び出してきた。
「「「!?」」」
俺らがそう驚いていると、その球体はもぞもぞと動き出して、
「ぷはっ!」
幼女の顔が出てきた。
そして他の白い部分も段々と人の形になっていき……
「やぁ諸君!」
と元気な挨拶をしてくれた。
「えっと……この方は?」
「彼女は、ここのギルドマスターの、ピロだ」
「「「えぇっ!?」」」
し、失礼だけど、どう見てもそうは見えない……!
「こ、この方が……!?」
「そうだ」
「で、では貴方は一体……」
「俺は……あぁ、まあなんていうか、彼女の補佐だ」
「補佐……!?」
こんなガタイの良い人が補佐なのか……。
「これガラス!
「す、すまん……」
あっ、本当に補佐なんだな……。
「ごほん! 改めて、このギルドのギルドマスターをしている、ピロじゃ! こっちは儂の補佐のガラスじゃ! よろしくのぅ!」
「は、初めまして。僕の名前はルイド・アッカーサーと言います」
「エリシア・ローゼリッタと申します」
「ラ、ラルム・レンスと言いますぅ……!」
へぇ、皆んなのフルネームはそういうのか。
何気に知らなかった。
「そうかそうか、ルイドにエリシアにラルム、キッチリ名前は覚えたぞ!」
ピロさんはそう言いながら目を閉じてうむうむと言った様に頷いていた。
「して、
「こ、光栄です」
ギルドマスターに顔を見てみたいと思って貰えるだなんて……夢にも思わなかったな。
「そこでじゃ、其方らのその功績を
「えっ!?」
冒険者ランクというのはそうそう上がるものではない。
大量のクエスト、そして特定のモンスターの討伐をやって
つまり、こんな風にポンッと上げて貰えるという事は本来あり得ない事な訳だ。
「あっ、ありがとうございます!」
「「ありがとうございます!」」
俺がお礼を言ったのに続いて、エリシア達もお礼を言った。
「礼なんて言わないくて良いわい。むしろこれは儂らから其方らへのお礼なんじゃからのぉう」
そう言ってピロさんは右手をクイクイッとやった。
「……?」
「カードじゃカード」
「あぁ、はい、こちらです」
カードを渡すと、ピロさんはじっくりと読み始めた。
「ほほう……これまたとんでもない者が来たのぉう……」
そう言ってまた右手をクイクイッとやった。
「ほ、他に何を出せば……?」
「そりゃあカードじゃ」
「も、もう出しておりますが?」
「其方のはな。彼女達のカードの事じゃ」
あっ、エリシア達……冒険者じゃないからそもそも冒険者カードが無い!
「えっと……」
「ん? 何じゃ?」
「エ、エリシア達は……冒険者では無いので……冒険者カードを持っておりません……」
「……本当かそれは?」
ピロさんの顔が少し険しくなる。
「はっ、はい」
「なるほどのぉう、そうじゃったのか……」
な、何でそんなに険しい顔をしているんだろう……。
冒険者カードを持っていない人でも、本人の了承があれば連れて行っても問題無い筈なんだけど……。
「ガラス!」
「何だ?」
「彼女達に了承を取ってから、冒険者にしてやってくれ! 拒否された場合はしなくて良い!」
「え!?」
今ピロさんが言った事も、普通ではあり得ない事だ。
本来、冒険者になるにはテストがある。
力の無い人達がモンスターに殺されまくるのを避ける為だ。
つまり、今ピロさんが言ったのは、そのテストを免除して冒険者にする、という事だ。
「分かった」
「な、何から何まで……本当にありがとうございます」
「良いわい良いわい。というかこれに関しては儂が貴重な戦力が欲しかったってだけじゃわい」
いやそれでもめちゃくちゃありがたい事なんですが……。
「それで、お二方さん。冒険者になる気はあるのか?」
「もちろんです。私は、ルイド様にどこまでもついていく所存ですので」
「わ、私もっ、ずっとルイド様と共にいたいと思っております」
「ほほぅ……良い彼女を持ったのぉう其方は」
「あはは……」
何か、ちゃんと言葉にされると恥ずかしいな……。
「そうか、だったら、ちょっとこいつに手をかざしてくれ」
ガラスさんが机の上に乗っけたのは、レベル測定器だった。
「かしこまりました」
エリシアがそう言って手をかざし、レベル測定器の数値がカタカタと動き始めた。
そして――
「えぇーと、どれどれ……っ!?」
「何じゃ? いくつじゃった?」
「ル、ルイドと同じく……47063だ」
「何じゃと!?」
ピロさんがエリシアの事をマジマジと見る。
「なるほどのう。お主、ルイドのカードに書かれてあったスキルの【召喚(召喚士)】で召喚されたな?」
「えぇーっと……」
チラッと俺の方を見る。
恐らく、言っても良いかを聞いているんだろう。
流石にギルドマスターに嘘を
「そうです。私はそのスキルでルイド様に召喚されました」
「やはりそうじゃったか。なるほど……召喚士が召喚士を……面白いのぉう!」
ピロさんはそう言って笑って床に着かない足をパタパタとさせた。
「つまり、ラルムの方も……?」
「そうです。彼女も【召喚(召喚士)】で」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、本当に面白いのぉう! なあガラス!」
「まあ、確かにそうだな。召喚士が召喚士を召喚だなんて聞いた事がねぇし」
そう言ってピロはレベル測定器をラルムの方へ移した。
「ほれ、次は其方じゃ」
「はっ、はい!」
ラルムがレベル測定器に手をかざし、数字がカタカタと動いて、47063の数字が出て来た。
「……あれ?」
「ん? どうしたのじゃ?」
「いや……あのですね。僕らがこんなレベルになった時にラルムはいなかったのです。だから、ラルムがこのレベルなのはおかしいな……と」
そう言うとピロさんの顔が「えぇ……」と言った様な顔になった。
「何じゃお主、召喚士であるのにそんな事も知らんのか?」
「え?」
「召喚される生き物達は
「そ、そうなんですか?」
は、初めて知った……。
「全く、こんな事も知らんかったのか」
「あはは……すみません……」
怒られてしまった……それもギルドマスターに……。
「ふぅ……ガラス、出来たか?」
「ああ、ほらよ」
ガラスさんが机に置いたのは、エリシア達の冒険者カードだ。
「全く、二人共とんでもねぇ奴だぜ」
「むむむ……本当じゃのぉう」
ギルドマスターに釣られて、俺もエリシア達の冒険者カードを見てみる。
『名前:エリシア・ローゼリッタ
職業:召喚士
冒険者ランク:C
所属パーティー:無所属
HP:264937/264937
MP:283695/283695
スキル:【召喚(キマイラ)】消費MP:2000 【召喚(召喚士)】消費MP:10』
『名前:ラルム・レンス
職業:召喚士
冒険者ランク:C
所属パーティー:無所属
HP:246398/246398
MP:287636/287636
スキル:【召喚(ヒュドラ)】消費MP:200000 【召喚(召喚士)】消費MP:10』
……なんかとんでもなく凄いステータスじゃないか?
いやまあ俺も同じ様な感じなんだが、やはりスキルの部分に目が行く。
ラルムの召喚できるモンスターがヒュドラな事にめちゃくちゃ驚いたが、何よりもエリシア達の【召喚】の消費MP多さにはもっと驚いた。
普通だったらまず召喚すらできない数値だけど、彼女達ならば使っても全然戦える。
というか、エリシアに関しては神話級モンスターであるキマイラをポンポン召喚出来るんだけど?
我ながら……とんでもない召喚士を召喚してしまった様だ……勿論、良い意味で。
「これは……期待できる新人達がやって来たのぉう……!」
「だな」
ギルドマスター達にそう言って貰えるとは……夢にも思わなかった。
「ほれ、受け取れ」
「あっ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「あっ、ありがとうございまひゅ」
俺らはガラスから冒険者カードを受け取り、ポケットへと仕舞った。
「ではこれにて、儂らからの話は終わりじゃ。本当にあのモンスター共を倒してくれてありがとうのぅ!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
お辞儀をして、部屋を出ていく。
「はぁー!」
ものすごく緊張した。
いやまあピロさんの姿がなんというか幼かった事による驚きで少し緊張は紛れたけど……それでも緊張した。
「お疲れ様でした、ルイド様」
「おっ、お疲れ様でした……!」
「二人もお疲れ様」
そう話していると、冒険者ギルド内の冒険者たちの視線が突き刺さった。
どうやら、ギルドマスター室から出てきた俺らは相当注目されているようだ。
「はっ、早く帰ろうかっ……!」
「かしこまりました」
「わっ、分かりました……!」
こういう視線に慣れていなかった俺は、エリシア達を連れてそそくさと宿に帰るのであった。
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