ダンジョンクエスト

「お、おはようございます! ルイド様!」

「んぇ? ん〜?」


 ベットから少しだけ起き上がり、目をこすりながら声がした方向を見てみると……


「……どうしたの?」


 何故かビシッと敬礼しているラルムがいた。


「きょ、今日はクエストを受注されに行かれるんですよね?」

「その予定だけど……」

「ならば、召喚された私は誠心誠意それに応えなくてはぬぁ、なりませんので!」


 最後の最後で噛んだせいか、ラルムの顔が少し赤くなる。


「その気持ちは嬉しいけど……なんていうかもう少しのんびりというか、ほんわかとした感じで良いよ。ここは騎士団じゃないんだし……」

「えぅ? わ、分かりました……」


 あぁなんかシュンってしちゃった!


「え、えっとね! 張り切り過ぎていざって時に体調崩しちゃったりしちゃダメでしょ? だ、だからもう少し気分を落ち着かせるって感じで……」

「な、なるほど! そういうお考えでしたか……!」


 何とか誤魔化せた……かな?


「ふわぁ〜……あ、おはようございますルイド様」

「おはようエリシア」

『アォ〜ン……』

「キーちゃんもおはよう」


 少し遅めに起きたエリシアとキーちゃんを見る。


「体は大丈夫ですか? 筋肉痛とか……」

「ん? あぁ、特に問題は無いよ」


 実はラルムを召喚した後、どうやって三人でこの狭いベットで寝るか議論が起こった。

 結果、一人が二人の上に重なって寝るという結論になった。

 皆んなは俺を上にしようとしてくれたが、召喚されたばかりの彼女にそんな事をさせられる訳が無く、ラルムが渋々上に乗っかる事になったのだ。

 だが、普通そんな事になったら全身の筋肉がお亡くなりになったりしているだろうが、レベルが47063もあるお陰だろうか、全く痛くなっていない。


「さてと、それじゃあ身支度をしたら冒険者ギルドに行こうか」

「かしこまりました」

「分かりました!」

『アォン!』


 そして俺らは顔を洗ったり服を着替えたり(勿論トイレ内で)などの身支度をし、冒険者ギルドへと向かった。


「さーてと、どれにしようか」


 掲示板に散りばめられたクエストを見てそう呟く。


「ラルム、決めていいよ」

「ええっ!? わ、私がですか!?」

「今朝すっごい気合い入ってたから」

「わ、分かりました……!」


 ラルムが掲示板をじっくりと見始める。

 背が低いので、少し背伸びをして高いところにあるクエストを見る姿にちょっと可愛いと思った。


「ルイド様」

「ん? 何?」

「……わ、私もあんな感じで背伸びをした方が良いのでしょうか……?」


 ……ど、どういう質問だ……?


「えーっと……エリシアはエリシアのままで良いと思うよ……! うん!」

「そうですか……ふふふ、そうですか……!」


 こ、これで良かった……のか?


「決めました! これにします!」


 その時、ラルムがそう言って掲示板からクエストを手に取った。


「どんなクエスト?」

「こちらです!」


 ラルムから渡されたクエストは『ベージャ鉱石採取 冒険者ランク:D 報酬1000Bベジナ』という内容のクエストだった。


「よし、じゃあそれにしようか」

「ありがとうございます!」


 俺らはそれを受付嬢さんに出して受注し、ベージャ鉱石を採取出来るというダンジョンまでやって来た。


「ここが……そのダンジョンか……」


 東のダンジョンと近いここは、どうやら中にいるモンスターまで似ているそうで、兄弟ダンジョン、なんて呼ばれたりする事もあるらしい。


「よし、おいでキーちゃん!」

『ア゛ァォォン!』


 周りを確認してから俺がそう言うと、キーちゃんがポーチから飛び出して大きくなる。


「う、うわぁっ!」


 ラルムが驚いて尻餅をつく。


「大丈夫ラルム?」

「す、すみません。まさかこれほど大きくなるとは思いませんでした……」


 確かに、初見だと驚くよなこれ。


「あはは、まあ怪我も無いみたいだし、早速行こうか」

「「はい!」」

『アォォン!』


 ベージャ鉱石は、このダンジョンの五層目にて取れる様なので、そこまでパパッと行く。


『アォン! アォン!』

「キーちゃん強いですね……」

「だねー」


 本当に俺らの出番は無い。

 五層手前のモンスターなど、キーちゃんの敵では無いのだ。


「あ、そう言えばエリシア」

「何でしょう?」

「前々から気になってたんだけどさ、キーちゃんの蛇とかってどうなってるの?」


 そう、キマイラというモンスターは、頭がライオン、体は山羊、そして尻尾は蛇というモンスターだ。

 実際、キーちゃんの尻尾があるべき部分には蛇が付いているのだが、常時グッタリとしていて動く気配が無い。


「あぁ、それはですね……あの蛇ちゃんがちょっと特別なんです」

「特別?」

「はい。キーちゃんの尻尾の蛇は、所謂いわゆる情報収集特化の蛇なんです。ほら見て下さい、目は開いているでしょう?」

「……本当だ」


 よくキーちゃんの尻尾の蛇を見てみると、黄色い目が見えた。


「ただ、情報収集に特化しすぎて、戦闘が全く出来ないので、ああしてずっと本体であるキーちゃんに死角である背後の情報を送り続けているんです」

「なるほどぉ……」


 そんな事情があったのか。

 ……ん? 待てよ。


「あの蛇って、戦闘が苦手なんだよな?」

「? そうですね」

「ならば俺らと会話するくらいは出来るはずだろ? 何で会話してくれないんだ?」

「えっと……それは……」


 エリシアが少しだけ口籠くちごもる。


「めんどくさがり屋なんです」

「……え?」

「ですから、めんどくさがり屋なのです」


 め、めんどくさがり屋?

 それってつまり……


「会話するのをめんどくさがってるって事?」

「そういう事です」


 そ、そんな理由だったのか……。

 蛇ちゃん、会話してくれよ……。


『アォン!』


 どうやら、付近のモンスターを倒し終わった様だ。


「よし、じゃあ行こう」


 そうして俺達はダンジョンの五層目へと潜って行くのだった。

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