もう一人の召喚士

 あの後、クレープを無事食べ終わった俺らはまた商店街をプラプラしていた。


「おー! んー? おぉー!」


 色んな店を見て驚いたりするエリシアを見る。

 可愛いっ!

 仕草がいちいち可愛い!


「ルイド様! どうですかこれ!?」


 そう言ってエリシアが近くのアクセサリー店に売られているネックレスを首に当てる。


「おぉー……似合い過ぎてヤバイ」


 店員さんなんか目を開けたまま気絶してるし。


「ふふっ、ありがとうございます!」


 ニッコニコの笑顔でエリシアはネックレスを元の場所に戻した。


「そろそろ良い時間だし、帰る?」


 空を見れば夕方になっていたので、エリシアにそう言う。


「あら、もうそんな時間でしたか。では、帰るとしましょう」

「分かった」


 宿に帰り、俺らはベットに座る。


『アォ〜ン』


 俺の太腿ふとももに乗っかって俺に撫でられているキーちゃんがそう鳴いた。


「おー、気持ち良いかー? よしよしよしよし」


 首の辺りのたてがみを撫でる。


「……ねえエリシア」

「何でしょうか?」

「一つ思った事があるんだ」


 そう言って、俺はその思った事を言った。


「もう一人、召喚士を召喚しちゃダメ?」

「……え?」


 恐らく、エリシアの素で出てきてしまった声だろう。


「な、何故でございましょうか!? 私達ではお力になれませんんでしたか!?」

「いや、そうじゃない」

「で、では何故……」

「これから先、俺達はクエストをこなす為にダンジョンに潜ったりする事が何回もあると思う」

「そうですね」

「でもね、悔しい事に……俺らが脱出したあのダンジョン、あれダンジョンの難易度的には結構簡単な方だったんだよ」

「そ、そうだったのですか……」


 冒険者ギルドの壁に貼られた地図に、近場のダンジョンの位置とそのダンジョンの難易度的なものが描かれていたのだ。


「つまりさ、もっと難しいダンジョンに行ったら……俺が君たちを守れなくなっちゃうかもしれないんだ」

「……え?」


 そう、俺がもう一人召喚しようと提案した理由がこれだ。

 俺が彼女たちを守れなくなるから。

 俺が召喚できるのは神話級モンスターじゃなくて、ゴブリンと召喚士だけ。

 ゴブリンはピンチをポンッと救える感じのものではないし、召喚士は救えるのかもしれないが、召喚して、その召喚された召喚士がまた召喚するというのはいささか時間が掛かり過ぎる。


「ル、ルイド様……そのように考えておられたのですか……」

「うん。エリシアやキーちゃんが死んじゃったりするのは……本当に嫌だ」


 だが、もちろん召喚するかどうか凄く悩んだ。

 召喚士を召喚するのは、モンスターとは訳が違う。

 人なのだ。ちゃんとした人。

 食費、衣類代、そして何よりこの部屋に三人が一緒に寝られるスペースのあるベットが無いこと。

 これらがちゃんとしてないのに召喚するのもな……。

 ……え? 何よりがそれだって? 大問題だよ!

 誰か一人を確定で床に寝かせなきゃだなんて、そんなの嫌だ!

 でもかと言ってもっと大きいベットがある部屋には移りたくはない。

 理由は単純に、お金が掛かるからだ。

 あの深層から帰還した際にその層にいた魔物の素材を売って手に入れたお金をバンバン使うのは、やはりまだあれだけ稼げるかも分からないので躊躇ためらわれる。


「……分かりました。一人だけ、一人だけ召喚しましょう」

「! ありがとうエリシア!」


 そして俺は手を前に突き出し


「【召喚】!」


 と唱えた。

 すると目の前に白色の魔法陣が現れ、そこからゆっくりと銀髪の頭髪のいかにもな魔女っぽい服を着た少女が出てきた。

 やはり、超絶美人だ。

 そして彼女の全身が魔法陣から出た瞬間――


「わわわっ! あでっ」


 バランスを崩してすっ転んだ。


「大丈夫?」

「は、はい……あっ! えっと、召喚主様である、ルイド様でしょうか!?」

「合ってますよ」


 隣にいたエリシアがそう言う。

 そういえば、召喚された人は俺の名前を知っている状態で召喚されるんだな。

 ダンジョンにいた時は焦ってたから気付かなかった。


「えっと……どちら様でしょう?」

「申し遅れました。私はルイド様に貴方より召喚された召喚士の、エリシアと申します」


 なんか、一部凄い強調された気がするけど、き、気のせいだろう。


「あっ、そうだったんですね」

「はい、よろしくお願いします」

「それで、名前は何かな?」


 彼女は少し身じろぎしたあと、


「私の名前は、ラルムと申します」


 と、上目遣いで言ってきた。


「それじゃあよろしく、ラルム」

「はいっ! よろしくお願いします! ルイド様!」


 そう言って俺はラルムと握手をした。


「むすぅ〜……」


 それを何故かエリシアは頬を膨らませながら見ていたのだった。

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